5お披露目ティータイム
朝から、私はそわそわしていた。
「レイラ、ドレスはこれでいい?」
「はい。とてもよくお似合いでございます」
「靴はもう少しヒールが高い方がいいかな・・」
「リサ様の場合、高いとつまづき、転倒につながりますから、今の靴がいいかと・・」
「ウィッグはこれでいい?」
「はい、いつも通りでございます」
「国王陛下ってどんな方?」
「そうでございますね。私が思うに・・でございますが、この国を愛し、国民のことを愛してくださる、とても賢くて、お優しい素晴らしい方です。リサ様、御安心下さいませ」
「そうかぁ・・でも、やっぱり緊張するなあ。ゆくゆくはお義父様・・きゃ~!どうしよう!!」
「・・・・・」
そんなたわいもない会話を繰り返しながら、部屋をうろうろし、落ち着きなく過ごしていた。レイラも私の様子を、もはや打つ手なし・・というように微笑みながら見ている。レイラが短気な性格でなかった事に深く感謝しなければ・・・。
というのも、今日のティータイムは国王陛下並びに国王側近の臣下と一緒の懇親会をかねた簡単なお茶会ということであるが、アルベルト皇太子殿下の婚約者としての顔見世もかねているのということであった。朝からドキドキがマックスだ。じっとしていられないとはこういうことを言うのだろう。
時間になり、レイラとともに食堂に入った。いつも見慣れた食堂であるはずだが、テーブルにはずらりと、重鎮たちが並んで座っているのは見るからに壮観だ。
なんて、呑気なことを考えている場合ではなかった。やばい。心臓の鼓動が早鐘のように打ち始めた。右、左、右と心の中で唱えなければ足が出ない・・。AIロボットよりもぎこちない歩き方になっているのではなかろうか。私はアルベルト皇太子殿下の隣の席に案内され少し、ほっとする。殿下はいつものようにやさしく私に微笑んでいる。心の中で、最大ボリュームで叫んでいた。
『大好きで~す!!』
席に着き、顔を上げる。ひきつった笑顔の私を、重鎮たちは表情の一つも変えずに見ている。その目は、お世辞にも温かいとはとても思えず、厳しく刺さるようで、身体はこわばる一方だった。その時だった。知らず知らずのうちに、ガチガチに緊張してぎゅっとこぶしを作っていた私の手に、柔らかく温かいアルベルトの手が触れたのは・・。手から伝わる優しさがじんわりと私の身体を温かくしてくれた。
「緊張しなくていいよ。僕がいるからね」
「はい」
私はアルベルトに愛されているのだ。大丈夫・・
そう思えた時、アーサー国王陛下とクリスティーナ女王陛下がゆっくりと食堂に入ってこられた。
二人からは生まれながらの気品が漂っているような気がした。
お二人が席に着かれた後、大臣のタイロンが言った。
「みなさん、今日のティータイムはアルベルト皇太子殿下の婚約者リサ・ベルリュンヌ様もご一緒されます。ゆっくりとご歓談ください」
一斉に会話がそこかしこで始まった。給仕のサントは丸い曲線を描いたお腹の上で、お腹の曲線と相似形のようなティーポットを優雅に操り、一人一人のカップにお茶を注いでいった。お茶がカップにまっすぐに注がれる様は芸術としか言いようがない。私のティーカップに紅茶が注がれ、よい香りを立てて私のそばにサントが置いてくれた。笑顔いっぱいで・・。
「ありがとう」
満面の笑顔でお礼を言うと、サントは「どういたしまして」というように軽くお辞儀をした。
口に含むととても清々しい香りが立ち、のどを潤わせた。
一斉にテーブルに一人ずつ切り分けて皿に盛りつけられたバームクーヘンが配られると、私は感嘆の声を上げずにはいられなかった。この見事な年輪のような焼き目。どうやってこのような芸術的なものを作れるの?フランクあなたは本当になんという素晴らしい料理人なの!
私は切り分けたバームクーヘンを口に入れて、またまた、驚愕した。しっとり滑らかな舌触り・・卵と小麦粉とバターの素材の味と香りがそのまま生かされ、洋酒の香りがほのかにする。絶妙のバランスだ。素材と料理人の腕がすべてともいえるお菓子の究極!最後まで私の手は、止まることなく完食したのだった。
「あ~ご馳走様でした」
私は両手を合わせて、至福の時を過ごしていた。その時になって、
「リサ・ベルリュンヌ様、リサ・ベルリュンヌ様・・・」
私を誰かが呼んでいる声に気が付いた。
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