5.侵入者
アルベルト皇太子殿下の書斎では殿下のデスクの前で、ウィリアムスが険しい表情のまま、直立不動の姿勢で立っていた。二人の沈黙を破るようにして、デスクに座ったままのアルベルト皇太子殿下は言った。
「確かな情報なのだな」
「はい、おそらくはサルーンの何者かが城内に紛れ込んでいるのは間違いないようです」
ウィリアムスが応える。
「サルーン王国というのは確かなのか」
「はい、サルーン王国の魔力が使われた形跡があったようです」
「それにしても、城の結界は完璧ではなかったのか」
「それは、常に完璧に保たれています。しかも、どこを調べても、完璧な結界は破られた形跡がないようです」
「では、何者が、いかにして侵入したというのだ」
「全力を尽くして捜索をしていますが、今のところは、全く手がかりがありません」
「とにかく、全力を上げて、侵入者を早急に捕らえるのだ」
眉間に皺を寄せたアルベルト皇太子殿下の表情には苦悩がくっきりと現れていた。
「承知しております。ただ、幸か不効か、今のところ、城内で異常な事態が起こったという報告はありません。国王から極秘に城内の捜索と警備を固め、何かが起こる前に、侵入者を一刻も早く捕らえるよう命令が下っておりますので、全力で善処しています」
「頼んだぞ」
「は!」
ウィリアムスは力強く言った。
「下がってよい」
「は!」
ウィリアムスは一礼して書斎から退出した。
ドアが閉まるのを確認したアルベルト皇太子殿下は、デスクに両肘をつきしばらく動かなかった。いや、動けなかったのかもしれない。どれくらい時間がたったのだろう、窓からは夕日がさしている。
「サルーン王国とは・・」
思わずアルベルト皇太子殿下はつぶやいていた。何も起こらなければいいのだが。それにしても一体誰が何のために城内に侵入したというのだ。またもや私の婚約者を・・。いや、そんなはずはない。あってはならない。殿下は胸に広がろうとしている不安を何とか押し込めようとして、思わずデスクを拳で叩いていたのだった。
「しっかりしろ。私は皇太子だ。リサに不安を与えるようなことだけは決してあってはならない」
アルベルト皇太子殿下の深い苦悩や、城内への侵入者のことなど露知らない私は、いつものように朝を迎えた。「にゃん」という鳴き声とともに、ベッドに寝ている私のお腹あたりにモフッと何かが着地したような感触がして目が覚めた。寝ぼけたまま、目を開け、上半身をゆっくり起こすと、私の視界に黒い猫が入った。お腹の上で丸くなっている。
「シャノン、おはよう」
私が声をかけると、面倒くさそうに、薄く目を開けてチラリと私を見たけれど、何事もなかったようにまた目を閉じて眠っているように見えた。いつもの人を小馬鹿にしたような気取った様子は微塵もなく、その寝顔は最高にかわいい!と思った。思わず抱っこしたくなり、シャノンを両手で抱えた。モフモフの感触がやみつきになりそうだ。私は完璧に癒やされモードになり、そのままシャノンを抱いて布団にくるまり、久々の二度寝の態勢に入った。
「ああ!癒やされるぅぅ!」
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