4.殿下の力

「にゃ~ん」


甘ったるい鳴き声がすぐ近くで聞こえた。


「いるよね。あの猫でしょ?シャノンでしょ?どこ?隠れていないで出てきなさいよ」


「私はここ。ほら、あなたの右肩・・」


見れば黒猫シャノンは私の右肩にチョコンと座り、くるりんとカールした細長い尻尾の先をゆっくりと左右に振っている。シャノンを見ようと右に向けた私の頬に思ったよりもふわふわの毛が触れる。小さい猫といえど、肩に乗れば重みを感じると思うのだが特に質量を感じないのが不思議だ。私からはシャノンの顔が密着するような位置なので、表情は分からないが、きっと、自分が一番偉いみたいな顔で気取っているに違いない。


「あなた、何者?なんで、ここにいるの?」


「世界で一番美人で賢い特別な猫!だ・か・ら」


ホントに態度、デカ!!

『何様?』という言葉をぐっと飲み込んだのだが、


「わざわざ、来てあげたのに、そんな偉そうにしてると、後悔するわよ~」

と高慢な態度は相変わらずだ。


「異世界の猫って、普通に喋れるわけ?しかも、人によって見えたり見えなかったりするみたいだし。それとも、あなたは化け猫?幽霊?」


「あははは・・。あんたってホントに笑える。異世界でも猫は猫。私は特別なの。ト・ク・ベ・ツ!!しかも、この美貌を見て化け猫なんて言う感覚が信じられないなぁ」


「じゃ、もしかして魔法使いとか?それとも透明人間・・じゃなかった透明猫とか?」


「教えてあ~~げない」


「気になる~!!教えて下さい。シャノン様」


そう言うと、いつの間に私の肩から移動したのか、もう何事もなかったようにテーブルの上で毛並みを整えている。

待てよ、こういうプライドの塊みたいなタイプは、褒め殺し作戦がいいかも。ふふふ。


「シャノンってとっても、顔が小さくて、耳の形も最高級の三角でキュート。しかも、その深いマリンブルーのぱっちりとした目は見たことないほど美しい。座った姿はまるでモデル。その上品な身のこなしは一朝一夕にはできないね。まさに、生まれながらの育ちの良さを感じる~」


私は思いつく限りの褒め言葉を並べ立てた。まんざらでもない様子のシャノンは


「まあね。あんたも見る目あるじゃん」


いいぞ、なんか調子に乗ってきた。よし、とどめの言葉はこれだ!!


「まさに、王室にふさわしいロイヤル猫だね」


「分かる?」


「分かります!!」


「オホホホ・・。何が聞きたい?」


やった!!


「シャノンは何者なの?」


「う~ん・・・それだけは残念ながら言えない」


案外、ガードが堅いなぁ。今日のところは諦めるか。それに聞きたいことは山ほどある。


「ドアを通り抜けたり、空を飛んだりってこっちの世界では誰でもできるの?」


アルベルト皇太子殿下との経験は夢なのか現(うつつ)なのかまだ核心が持てずにいるため、レイラにも聞けなかったのだが、猫なら聞ける。


「ドアを通り抜けたりするには、王家のDNAを持っていないと難しいと思う。多分。王家の中でも選ばれた特別な力があって、テレウィンドウこれはテレポーテーションウィンドウを略した言い方なんだけど・・瞬間移動ができる窓を開けて移動することができるの。それを使えばドアを開けないで違う場所に移動できると思う。誰でも、空を飛べるわけでもはないけど・・。人間でも能力を持っていれば、魔法の訓練をすれば可能だと思う」


シャノンが教えてくれたことは真実だと思えた。まさに私はテレウィンドウをくぐってここに来たとレイラは言っていたではないか。アルベルト皇太子殿下はものすごい力の持ち主なのだ!!彼の力があれば、私は戻れるんじゃないの?私の住んでいた世界に。


「シャノン、ありがとう。これからも色々教えてね」


「さあ~。気が向いたらね」


そう言うとニャンという鳴き声を残して姿を消したのだった。

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