第15話 一件落着?
「つまり、姫雪は男の人が苦手で、初めて平気で触れることができたのが冷くんだった、と」
「その、勘違いして、ごめん……。」
一通り説明すると、神白と水無月はようやく理解した様子。
勘違いしてしまい申し訳ないといった様子の水無月に反し、神白は「なんだー、すでに大人の階段上ってるのかと思ったのに」と人ごとのように呟いている。
そんなわけあるか。
俺は早見に視線を合わせ、
「いや、さっきのは早見が悪い」
「え?」
俺が名指しすると、早見は不安そうに「私、何かしましたか……?」と。
……仕方ない。心が痛むが、これ以上誤解を生まないためにも、教えておいた方がいいだろう。
「神白。頼んだ」
「うん、任せて」
俺と神白はアイコンタクトを取ると、同時に頷き。
早見は状況を飲み込めず、きょとんと首を傾げ。
そして、水無月はその様子を固唾を飲んで見守っている。
「いい、姫雪。『初めての人』っていうのは、一般的には────」
「……え、?男の人と、女の人が……?あれして……!?そ、そんな!私と冷さんはそんなふしだらな関係じゃないです!はしたないです!れ、冷さんは破廉恥です!」
神白が耳打ちすると、早見は顔をりんごのように耳まで真っ赤にして、慌てふためく。
そして、なぜか俺の名誉が尊い犠牲に。
そんな早見の様子を見て、他の二人も「本当に知らなかったんだ……」という表情を浮かべ、早見の純粋ぶりに驚いたり感心したり。
「よし、大きく深呼吸しろー」
俺がそう言うと、早見は「すぅー、はぁー、すぅー」と数回深呼吸をし。
「少し落ち着いたか?」
「お騒がせしました……。」
なんとか早見を落ち着かせることに成功。
しかし、あからさまにしゅんとした様子で俯いている。なお、顔は未だ赤いまま。
場は気まずく、静寂の時が流れている。
すると、神白が「何か言ってあげて」とでも言いたげに、俺に視線を送ってくる。
しかし、少しの間考えてみても、何を言うのが正解か分からずじまい。俺は、思いついた限りの精一杯の言葉をぶつけてみることに。
「ドンマイ。ま、そういうこともあるよね」
「うぅ……」
俺の精一杯の言葉を受け、早見、さらに縮こまってしまうの巻。
そして、水無月や神白は、俺をむっと睨んでくる。……まあ、今のは俺が悪かった。
今度は、気の利いたことを言おうとするのではなく、素直に思ったことだけを早見に伝えることにした。
俺はこほんと咳払いを一つし、
「ま、聞いた人が誤解するから、さっきみたいなことは言わない方がいい。それと、そんなに気にするな。早見のその純粋なとことか、俺は好きだぞ」
これは、俺の本心だった。
少し純粋すぎるというか、天然すぎるところもあるが、それも含めて彼女のいいところだろう。
それから、少しして。
早見はゆっくりと顔を上げ、潤んだ瞳で俺を見つめる。
「本当ですか……?」
「本当だよ。俺が今まで嘘ついたことあったか?」
「ありました……」
うん、あったわ。
「……すまん。でも、これは嘘じゃない」
「ふふ……。分かってますよ。冷さん、ありがとうございます」
早見はまだ恥ずかしさは残っているようだが、えへへとはにかみ、気を取り直したご様子。
とりあえず、一件落着。
と、ほっとしたのも束の間。
一連のやりとりを見ていた神白が、にやけ面をしているではないか。
今日初めて話したばかりだというのに、これからこいつが何かをしようとしてるのは手に取るように分かってしまう。
そして、言うのだ。
「へ〜。冷くん、姫雪のこと好きなんだぁ」
「あん?」
『好き』ってワードだけ切り取って変な解釈するんじゃねー。
神白はニヤニヤを維持したまま、「女たらしだー」とからかってくる。
それを聞いた水無月も、「女たらしなの……?」と、視線を向けてくる始末。
早見もそれに続けと言わんばかりに、
「そうですか。冷さんは、私のことが好きなんですか」
その表情は、「まったく、しょうがないですねー」とでも言いたげ。
早見の頭を小突いてやりたい気持ちをなんとか堪える。
まあ、すっかり元気を取り戻したようで何より。
そして、俺はというと、
「ソダネー」
抵抗する気力すら湧いてこず、諦めの境地に至っていた。
女子って集団になるとめんどくせー。
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