第14話 本多忠勝、すげー。
水無月の隣に立っている女子の名前は
神白は、俺や水無月と同じ1年1組のクラスメイトだ。よく水無月と行動を共にしており、二人でクラスの美少女2トップと言われていると耳にしたことがある。
「(ねぇ、未来。やっぱりついてきたのはまずかったんじゃ……。)」
「(二人が手を繋いで廊下を歩いてるのを見て、泣きそうになってた人が何言ってるの)」
「(そ、それは言わないで!)」
「(まぁ大丈夫だって、多分。それに、なんか面白くなりそうじゃない?)」
「(もう、人ごとだと思って……)」
二人は俺たちに背を向けて何かをひそひそと話していたが、それが終わると、振り向き。
「せっかくだし、相席してもいいかな?」
神白がそう言うと、俺は「どうする?」という意図を込めて、早見へと視線を合わせた。
「私は構いませんが……」
「それなら、俺も大丈夫だ」
俺も早見に合わせ、了承した。
二人は先に自分の分の飲み物を注文しに行き、戻ってくると、
「よろしくね」
「お、おじゃまします」
そう言って、神白は早見の隣に、水無月は俺の隣にそれぞれ座った。
「二人とも、急にごめんね……?」
申し訳なさそうに水無月が謝り。
「いえ。お二人とは仲良くなりたいと思ってましたので」
と、早見。
それを聞き、気になったことを尋ねてみることに。
「三人は面識があるのか?」
「体育の授業が一緒ですから。少しだけお話したこともあります」
早見がそう言うと、他の二人も頷く。
すると、神白は「あっ」と何かを思い出したように。
「体育といえば、紫吹くん、この前はすごかったねー。一部の女子の中で『ドッジボール界の本多忠勝』って呼ばれてたよ」
「そうかよ。全然嬉しくねー……。」
本多忠勝は、戦国時代に活躍した武将で、徳川家康の配下『徳川三傑』の一人。生涯参加した57の戦を全て無傷で生還したという伝説を持ってるのだとか。
どうやら、俺が一人ボールを投げられ続けるも、なかなかアウトにならなかったことから、そう呼ばれるに至ったらしい。
本多忠勝も、まさか後世で自分の名前がそんな使われ方をするとは思ってもみなかったことだろう。本多さんご本人が知ったら、さぞびっくり仰天するに違いない。
「私も見てました。随分と楽しそうでしたよね」
「あれのどこが……」
俺からしてみれば嫌味にしか聞こえないが、おそらく早見は素でそう思ってるのだろう。さすがは天然女子。恐るべし。
一方で、水無月はというと。
「でも、本当にすごかったよ。一人だけ狙われてるのに、全然当たらないんだもん。その、冷くん。かっこよかったよ……?」
「ど、どうも?」
まさかの、称賛の嵐。しかし、褒めてくれるのは嬉しいんだが、素直に喜べない。そもそもリンチされてたわけだからな。
水無月の言葉を聞き、早見は別の所が気になったようで。
「水無月さんは紫吹さんのことを下の名前で呼んでるんですね……。あの、紫吹さん。私も、冷さんと呼んでもいいですか……?」
変な所で対抗心を出してきて、上目遣いで俺を見つめてくる早見。もちろん、断る理由はないため、了承することに。
「呼び方くらい好きにしてくれていいから」
「ありがとうございます……。冷さん……」
と、照れ臭そうに見つめてくる。
それに便乗するように、神白も。
「じゃあ、私も冷くんって呼ぶね。私のことも未来って呼んでもいいよ?」
「そうか、わかったよ。神白」
「うん、私はわかってないってことがわかったかな」
そう言って、神白はジト目に。
女の子を下の名前呼びするのは、俺にはまだハードルが高いんです。
その後は、流れで女子同士も下の名前で呼びあうようになり。そして、連絡先を交換したり(なぜか俺も交換させられた)。
俺はその光景を、仲睦まじいなぁとほっこりした気分で眺めていた。
……さて、三人とも仲良くなったことだし、もう俺帰ってもいいですか?あとは勝手にガールズトークに花でも咲かせていてくれ。
そんなことを考えていた時、神白は一瞬にやりと笑う。
「そういえば、さっき冷くんと姫雪が手を繋いでるとこを見たんだけど、もしかして、そういう関係?」
それを聞いた水無月はカチンと固まり、そして、不安そうにゆっくり俺の方を向いてくる。
水無月には以前一度否定したのだが、また誤解されてるのかもしれない。普通は付き合ってもない男女で手を繋いだりはしないだろうし。
「水無月には前にも言ったが、俺と早見は──」
「そうだと言ったら、どうします?」
俺の言葉を途中で遮るように、早見がそう言った。
そして、水無月はむっと俺を睨んでくる。
俺は何もしてないんだが……。
早見はそんな様子を見て満足したようで。
「ふふふ、冗談です。私と冷さんはお付き合いしているわけではないですよ」
「まったく、変な嘘をつくなよ……」
そして、イタズラが成功した子供のような表情をして、「すみませんでした」と一言。
冗談だと分かり、水無月はほっと安堵した様子。
「冷さんは、」
早見は、そこで一呼吸置き、
「──私の初めての人、なんです」
「ちょ、おまっ!?」
いつかのように、最大級の爆弾を投下してきやがった。幸い、今回は口に飲み物は含んでなかったので、セーフ……。発言自体はアウトだろうけど。
その後、石のように動かなくなってしまった水無月と、面白そうににやにやしている神白の誤解を解くために、めちゃくちゃ説明したのは言うまでもないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます