第5話 男たちの熱きドッジボール

 翌朝。

 教室に入ると、たちまち男子数人に囲まれる。

 まあ、なんとなく予想はしてた。


「紫吹ー、昨日の放課後デートはどうだったんだよー?」


 このニヤニヤしている男は、成宮涼介なりみやりょうすけ

 先日、俺をカラオケに誘ってきた茶髪イケメンの彼だ。リア充グループに所属しており、クラスでも中心的な人物。

 確かバスケ部で、1年生ながらすでにレギュラー入りしてるんだとか。

 まあ、そこそこいいやつ。そこそこ、な。


 自分がすでにモテているためか、他の生徒のように嫉妬心を露わにしていないが、その分茶化すように絡んできてこれはこれでめんどくさい。


「……別に。スノバ行って新作奢ってもらっただけ」


 俺は淡々と事実だけを答えた。

 すると、それを聞いた周りの男子たちからのバッシングタイムへ突入。


「おい!紫吹てめぇ!白雪姫に奢ってもらっただと!?」

「一緒の時間を。いや、一緒の空気を吸えただけで光栄だと思え!羨ま──けしからんぞ!」

「ふざけんな!むしろ、こちらからお金を払って然るべきだろ!」


 ほんと、なんだこいつら。

 俺にどうしろってんだよ。

 それに早見も、他クラスにもこんだけファンもとい信者がいるとか、さすがというかなんというか。

 すると、さらに信者がもう一人。


「くっ……。白雪姫が咥えたストローになりたい人生だった……」

「「「「「うわっ……。」」」」」


 さすがにこれには俺以外のやつも皆ドン引いている。

 俺の予想と、ほとんど変わらぬ発言をするどんぐり野郎。

 自らの性癖を微塵も隠す気がない。それどころか、むしろ晒していくスタイル。

 お前がモテない理由はそういうとこだと思うぞ。


「まあまあお前ら落ち着けって。ほら、紫吹もそんな死んだような目すんなよ」

「もともとだ……」

「ありゃ、それはすまんかった」


 軽く俺へのディスを含ませながら、周りの白雪姫信者たちを沈静化させた成宮は、そう言って笑いながら俺の背中をぱんぱんと叩いてくる。

 その態度からは俺に対する謝意の念は一切感じられず。

 しかし、おかげでこの場はおさまったわけだから許してやらんこともない。


「……はぁ」


 まったく、朝から騒がしいことこの上ない。

 思わずため息が出るのもしょうがないだろう。

 まさか、こんな事がこれからも続くんじゃないだろうな……。


 しかし、そんな嫌な予感はだいたい的中するわけで。






 体育の授業にて。

 体育館内に、体育教師の低めの声が響く。


「今日は外は雨だから体育館を男子と女子で半分に分けて使ってくれー。何するかは自由に決めていいが、ケガしないように気を付けろよー」


 それを聞き、運動部の生徒を中心に男子たちは種目を決めるべくはしゃいでいる。


「おっしゃあ!みんなバスケするぞ!」

「だなー!」

「俺の華麗な3ポイントシュートをお見舞いしてやるぜ!」


 早くも種目はバスケに決まったようだ。

 まあ、体育館内でできる競技といったらそんなところだろう。

 ちなみに、3ポイントシュートが云々と言ってるのは、例のどんぐり頭。


 俺も参加しないわけにはいかないため、男子が集まってるところへゆっくりと歩きながら、ふと視線を反対側のコートへ向けた。

 すると、女子数人と会話をしていた早見と偶然目が合う。

 

 体育の授業は2クラスずつ合同で行うのだ。

 俺が所属しているのは1組であるため、2組の早見がいるのは当然といえば当然のことだった。


 早見は、少し照れながらこちらに小さく手を振ってくる。

 それを受けて、俺もぺこりと軽く会釈をする。


 ただ、早見よ。

 照れて手を振る様子もとてもかわいらしいが、今すべきじゃなかったと言わずにはいられない。


「紫吹く〜ん?」


 ……ほらな。

 振り向けば、にっこりと笑顔の男子たち。

 はい、こんちわー。


「みんな、今日はドッジでもするか〜」

「おう、それがいいな!」

「おーい紫吹〜!ドッジボールしようぜ〜」


 最後のは、言い回しが完全に国民的アニメに登場するメガネ少年のそれ。

 そんな野球しようぜみたいなノリで言われても。

 俺はジト目を向け、男どもに問う。


「……バスケするんじゃなかったのか?」


 すると、どんぐりがやれやれといったポーズをして首を左右に揺らす。うぜぇ。


「今の時代はバスケよりドッジボールだろ!」

「そっすか……。」


 嘘つけ。さっきまでバスケする気満々だったろ。

 お前、華麗な3ポイントシュートお見舞いするんじゃなかったのかよ。






「くらえ、裏切り者!」


 そんなこんなで始まったドッジボール。

 1対その他全員というチーム分けはなんとか回避できたが、明らかに一人の生徒だけ狙われている。

 その生徒とは、もちろん俺くん。

 味方も、どーぞどーぞと言わんばかりに俺から距離をおいてやがる。


 本当は飛んできたボールを避けたいところなんだが、そうすると挟まれて両サイドから投げられ続けるという「ドッジの呼吸 壱の型 サンドイッチ」が完成してしまう。それは避けたい。

 ちなみに "壱" の型とサンド "イッチ" を掛けるという高度な技術を駆使。

 え、そんなことはどうでもいい?さーせん。

 こんなことでも考えてないと、やってられんのです。


 俺は難なくボールをキャッチし、外野へパス。

 しかし、その後敵にボールが渡ると、すぐさま狙い撃ちされる。

 それをまたキャッチしたり横に避けたりして、なんとかアウトにならずに済んでいる。


「なんであいつ一発も当たらないんだ……」

「おまえら、敵はひとりだぞ!やっちまえ!」


 いや、一人じゃねーから。ほら、周りを見渡してごらんよ。

 ……おいお前ら、目をそらすな。同じチームだろうが。


 もうわざと当たって外野に行くほうが楽そうだ。

 お、ちょうどいいタイミングでボールが。


「うわー。あたってしまったー」

「「「「(イラッ)」」」」


 迫真の演技と共に、投げられたボールに軽く触れ、外野に行くことに成功。これで一安心。


「なんだ今の棒読みは……!バカにしてんのか!?」

「おい、外野へ逃げやがったぞ!これでもくらえ!」

「……はっ?」


 その瞬間、俺の顔の真横をボールが通過した。

 さすがにこれは俺も予想外。

 危うくもう少しで顔面キャッチを余儀なくするところだった。


 ……そうか。この世界にはもう「ルール」という概念が存在しないらしい。


 敵の外野の人間にボール投げてどうすんだよ。





(女子side)


「ねー!男子たちがなんか面白いことしてるらしいよ!見にいこ見にいこ!」

「おっけー。……って、姫雪。あれって例の人じゃない?」

「えっ?……あ、紫吹さんです。一体あれは何をしてるんでしょうか……。」



 いつしか女子たちまでギャラリーと化し、授業終了の集合がかかるまで、ドッジとは名ばかりのデスゲームが続いたとさ。


 めでたしめでたし(訳: 全然めでたくねぇ)。

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