第114話「作戦開始、再会と協力」
翌朝、一緒にホテルの廊下を歩いている所をクラスの連中に見つかり誤解されたが今日の陽動作戦のことを考えたら良かったかもしれない。
「そもそも狭霧と僕は付き合っているしプロポーズの約束もした、なら朝帰りの何が問題だ!!」
「朝から会長がヤベーこと言って錯乱してんな……」
「強いて言うなら生徒会長が学内の、いや今回は学外で醜態を晒すのは問題だろ」
澤倉と河井くんの二人に呆れられながら食堂に降りると入り口を見ると狭霧と同室の女子たち三人が手を振っていた。
「あっ、シン~!! 一緒に食べよ!!」
「朝まで一緒だったのにまだ居たいか、このバカップル~」
椎野に狭霧が抱き着かれて頭を撫でられたり抱きついたりと好き放題だ。僕の毎朝の楽しみを勝手にやっているとは許せん。
「ツッチー、本当に好きな人が出来たらいつも一緒に居たいものなんだよ?」
「な~んか狭霧のくせに生意気~!! 昨夜はお楽しみだったんでしょ!!」
頬っぺをムニムニされて「やめて~」と言ってる狭霧も楽しそうで安心した。昨日は過去のトラウマを思い出して朝まで引きずったりしてないか不安だったが僕の杞憂で良かった。
「こらこら、僕の大事な恋人にそれ以上は止めないか椎野、じゃあ朝食の時間だから行こう狭霧」
「うん、でも大丈夫だよ~」
狭霧も強くなってるし僕が過剰に気にかける必要は無い。それよりも問題は午後からの作戦で僕は狭霧を見た。いつ見ても僕の恋人の髪も笑顔も輝いていた。
◇
「信矢~!! これ買っていいでしょ、ね?」
「ダメです、そんな屋根の上に置きそうな大きさのシーサーなんて買えません!!」
そして作戦開始と同時に僕の恋人の目は輝いていた。目の前の金色に輝いているシーサーに夢中だった。
「だって可愛いよ、きれいだし家の前と信矢のお家の前に飾ろう、家も守ってくれるって言うし~!!」
「金髪の姉ちゃん良い事言うね~!! 家でも何でも守っちゃうよ!!」
「ほら~!! 信矢お店、いや露店? の人も言ってるし~!!」
そもそも天下の往来で堂々と露店を開いている人間の怪しさに気付いて欲しい狭霧。絶対に詐欺だ間違いないだろう。
「こらっ!! またお前か!!」
「けっ、サツがもう来やがった!! 今日は店じまいだ!!」
そして金のシーサーを含め道に並べた商品をすぐに風呂敷にしまうと走り去った。やはり警察のお尋ね者だったかと僕が言うと狭霧がシュンと落ち込んでいたが実はこれが始まりだった。
「あの~、すいません沖縄N〇K放送局の者なんですが、今の事件について」
「わ、私の家は受信料ちゃんと払ってます!!」
「狭霧ぃ~!!」
一応は少しの間だけでもタレント活動もしていたのにインタビューにすら慣れていない僕の恋人の第一声はこれだった。
――――同時刻・春日井家リビング
「あの子達、今頃は沖縄で何をしてるのかしらね、奈央?」
「ですね~、でも良いんですか先輩? 二人で高級フレンチなんて」
「あの二人のお守りから解放されたんだし旦那たちも霧ちゃんも今日は夜まで居ないからね羽を伸ばすには良い機会よ」
そんな話をしながら主婦二人は久しぶりに高校時代からの先輩後輩に戻っていた。今日は久々の贅沢だからと服もどうするかとか、どうせなら新しい服でも買ってから二人で行こうかなどと話していた時だった。
「あら、霧華から……えっ!? 狭霧とシン君がTVに出てる!?」
「嘘でしょ!?」
二人の頭に過ぎったのは狭霧が何かして信矢が暴走してニュースになったのではないかという嫌な予感だった。そして二人はすぐにTVを付けて絶句した。
『え? だってN〇Kだから受信料を狙って……』
『違うよ狭霧!! 今の件について聞かれているだけだからっ!!』
『え? 受信料の話じゃないの? パパと母さんが税金の二重取りって――――』
そこで中継は無理やり途切れ明らかに音声も切られ、慌てた声で「スタジオにお返ししま~す」と声が聞こえた後に切り替わったが今度は切り替わった先のアナウンサーが笑顔で固まっていた。
「何やってんのよ……うちの子達は、あ~もう!!」
「あはは、さすが私の娘と将来の息子ね……先輩?」
「私、あんたと親戚になるの凄い不安になって来たわ……」
ため息を付いた春日井翡翠は、せっかく学生時代の気分に浸るために用意した今晩の事も完全に吹き飛んで遠い南の島にいる息子たちが無事に帰って来る事を祈ってフレンチのディナーなんて吹き飛んでしまった。
◇
「はぁ、やっと落ち着いた……」
「俺らまでインタビューされちまったぞ会長」
椎野や澤倉たち他の班員まで一緒にTVクルーに取材を受けていたら、またしても往来の中心で騒いでいたとして警察が来てしまい事情聴取をされてしまった。
「何だろ……今、謎の悪寒が……」
「オカン? シンママがどうかしたの信矢?」
「オカンではなくて悪寒、母さんは関係無いから……無いよな?」
だが僕はなぜか虫の知らせというか第六感のようなものを感じていた。そして明日、家に帰ったら母さんの雷が落ちるような嫌な予感がした。
「ふぅ、だけど成功だ」
「何が~?」
狭霧が疲れたと言い出し僕らの班は休憩しようと近くの食堂に入っていた。最初こそは人見知りでビクビクしていた狭霧だったが米国人が多い土地柄か狭霧でも目立たず食事が出来て食堂の店主や女将さんとも話していた。
「狭霧も落ち着いたみたいね」
「ああ、椎野お前はどこまで聞いてんだ?」
「お嬢から二人のフォローしとけって言われただ~け」
なるほど計画の詳細は俺と狭霧しか知らないのか……しかし旅先で囮として目立つなんて無理だと思っていたが上手く行ったと一安心していたらスマホにメッセージが届いていた。
工藤【脱出成功、囮に感謝すると七海さんも笑っていたよ】――1分前
春日井【追跡は大丈夫ですか?】――――たった今
工藤【全て君たちが引き付けてくれたみたいだ、引き続き頼む】――たった今
どうやら向こうは上手く行ったらしい。そして追加で資料が送られて来ると敵の顔写真と名前などの情報が送られて来た。
「なるほど……こいつが七海先輩に」
スマホの資料では今回の政治家にタレコミをした記者の名前が有って一番危険な男と書かれていた。名前は深見健二、三十歳、フリーの記者と書かれていてS市動乱の裏を探っているらしい。
「嫌な名前だ、僕らにとっては特にね」
「シンどうしたの?」
「何でもないよ、お土産を何にしようかと思っただけさ」
とにかく健二という名前が不吉で今は南米の鉱山送りになっている男を思い出す。過去のトラウマで僕へのイジメを助長させた上に高校生になって狭霧を襲った首謀者の見澤健二と同じ名前とは嫌な因縁だ。
◇
そんな嫌な事を考えていると班員の皆が先に行ってしまった。理由は目の前の狭霧で、その場から動かず粘っていて原因はまたしても例のアレだった。
「やっぱり金のシーサー!!」
「食べ物系なんてどうですか? サーターアンダギー、ちんすこう、他にも向こうの店の方が……」
他の生徒で賑わっている反対側の店を指すが、こちらの明らかに歴史あるお店の大きいシーサー像を物欲しそうに見ている。今度は露店のとは違って本格的で桁が五桁以上のものばかりだった。
「ううっ、シーサー……」
「そんなに……じゃあ、この小さいのなら」
そう言って僕は手乗りサイズの濃い緑色のシーサーの置物を手に取った。テーブルの上とか適当な場所に置いておく事が出来るサイズだから邪魔にもならないし何より母さん達に怒られないレベルのものだ。
「色が緑だし小さいよ~」
「小さくても守り神ですよ、僕はこれを二体買って玄関にでも飾っておくよ」
「ううっ……じゃあ私も同じの買う、お揃いにする~!!」
そしてシーサーの置物を購入し今度こそ店に出る。ふと気になって周囲を見るが件の記者は見つからない。しかし街中に潜んでいるなら七海先輩を探しているはずだ。何とか目立って妨害しなくてはいけない。
「困りましたね……」
「お困りですカ?」
「ええ、まあ少し……ってあなたは!?」
僕の独り言に答えた声に驚いて振り向くとメガネをかけた青年が柔和な笑顔を向けていた。それは昨日、偶然にも出会った韓流スターで僕と狭霧は驚いた。
「やあ、またお会いしましたネ二人とも」
「あ、ソンさん……」
狭霧が呟くと昨日のように引き攣った笑みでは無く落ち着いていて穏やかな笑みを浮かべていた。後で知ったがこれが噂のサン様スマイルだったらしい。これで主婦もイチコロだと数十年前は言われたそうだ。
「今日は大丈夫なんですか?」
「先ほどまでホテルにいましたがバレてしまいました、なので逃げて来たんです」
「そうですか、でも人出も多いですし気を付けた方が良いのでは?」
僕が尋ねると実は韓国にいる奥さんに買って来て欲しいと頼まれた物が有るらしく明日には帰国するからと探しに来たらしい。しかし肝心の物が分からず困っていた時に僕らを見つけたそうだ。
「なるほど、お土産は何か分かってるんですか?」
「はい、食べ物デ赤いチーズのようだと……」
「赤いチーズ? 待って……どこかで聞いたことが、う~ん」
狭霧も興味が出て来たのか近付いて来た。しかし赤いチーズとは何だろうか僕は聞いた事が無い。だが狭霧の方は何か覚えが有るようでスマホを弄り出し、ダメだと分かったらメモを取り出していた。
「狭霧、それは?」
「沖縄の名物メモだよ愛莉さんとかマスターとか、あと汐里さんに珍しい食べ物をリストにして欲しい物まとめて貰ったの、今からこれ全部スマホで検索してみる!!」
メモ帳を見せてもらうと可愛らしい丸文字やら男らしい達筆な字で色々と書いて有った。僕も手伝って二人で色々と検索して調べ物をする。しかし赤いチーズは中々見つからなかった。
「う~ん……次は豆腐よう? 豆腐じゃ違うか~」
「でも一応見てみましょう……茶色? の豆腐か?」
僕らが見つけた物をソンさんにも見せたが今真のではノーですと言ってたのが今回は違った。
「コレです!! これ!!」
その料理、珍味いや名物は沖縄の『豆腐よう』と呼ばれる食べ物で色は赤色のものが多く僕が見た画像はたまたま茶色に近いものだった。
「なるほど東洋のチーズなんて呼ばれているんですね、でも実際はつまみのようなもの……だからソンさんの奥さんは赤いチーズと呼んでいたんだ」
「ねえシン、ここに地図付いてるし行ってみたら?」
そこは専門店のようで少し歩くが問題は無さそうだ。スマホで他の班員に連絡を入れると椎野から了解と返事が来たから狭霧と二人でソンさんを案内する事になった。
◇
「おお~これですヨ!! 私も向こうで食べましタ!!」
「この豆腐よう……思った以上に歴史が有るみたいですね琉球の時代からか」
僕ら三人は店内に入るとアルコール臭が気になったが納得した。この土産物屋は泡盛などが売られているが同時に、この豆腐ようは製法の仮定でお酒を使っているらしい。
「じゃあ子供は食べちゃダメ?」
「狭霧、これも買う気だったの?」
「うん、だって真莉愛さんからのお願いリストで」
リストを見ると真莉愛さんと他二名と書かれていた。三人分買って行かなくてはいけないようだ。今さらながらバイト先に文句言う必要が有るなと思っていたら背後から声をかけられた。
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