第4話「気配と策謀」
人と一緒に下校なんて本当に久しぶりだ。彼は
「去年の涼学統一で僕は数学で五位だったんだ。春日井くんが一位取ったやつ。あれで張り出されたの見て名前を覚えてたんだ」
「昨年の『涼月学園統一試験』ですね? なんとか総合一位は取れましたが得意科目の世界史と現文や他にもケアレスミスが多くて科目別では数学と古典くらいしかトップは取れませんでした」
この学園では通常、定期試験と呼ばれるものが各学期に二回有るのだが、それとは別に学年毎で学科を問わず勉学と運動のそれぞれの総合試験をするのだ。例年だと勉学は特進科が、運動はスポーツ科がそれぞれ独占するのだが、昨年度は勉学は私が総合でトップ、スポーツの方は男女別で私は男子総合で三位だった。
「それでも凄いよ!! だって僕ら特進よりも普通科の君が総合トップを取ったんだから!! おかげで僕らの二組と一組の特進組は担任からお説教だったよ」
「それは何ともコメントがし辛い話題ですね」
ここまで素直に人に褒められるのは久しぶり過ぎて実に不思議な感覚だ。思わず苦笑してしまう。それと同時に彼ら特進のお株を奪ってしまったのも少し心苦しく、彼が良い人間だと分かったので余計にそう感じてしまう。
「はは。冗談だから気にしないでよ。でも次は頑張って春日井くんにも勝ちたいからね! じゃあ僕は電車だからこっちなんだけど……」
「私は歩きですので……このまま行って左ですね。大丈夫ですか? 良ければ家まで護衛しますが?」
護衛なんてオーバーだと思うかもしれないが、この提案の理由としては
先ほどの三人かそれとも別な誰かなのかは分からない。そもそも気配の種類など分からないし、それで誰か分かるなんてアニメや漫画の世界じゃないので無理だ。分かっているのは、こちらへの視線や注目されている気配など、それらを感じることが出来るというだけだ。
今日の帰り道は人通りの多い道を通って来ているので、たまたまこちらに注目した人間が居ただけと言う可能性も有る。部活帰りの学生なども居たので同じ学校の生徒を見ていた、なんてことも有るので私の気にし過ぎだったのかもしれない。
「いくら何でもそこまでしてもらわなくて大丈夫だよ。じゃあ、今日は本当に助けてくれてありがとう!! また学院で会えたら!!」
「ええ。さようなら。それではまた」
彼を見送ると私も家路へ急ぐ今日は色々イベントが盛りだくさんだった。狭霧との再会に始まり、あの二人との謎の問答、そして先ほどの騒動。季節は春、出会いの季節と言われているが四月も後半の
◇
翌日も日課のジョギング……を、することは出来なかった。今日は生徒集会が朝から有るので朝から準備だったからだ。去年までは自身のある事情により、このような準備は不参加だったのだが今年は違う。そして当たり前だが
「イスは大体は昨日のうちに吉川と俺らで並べておいた。段取りは頭に入ってるか? 春日井?」
「はい会長。校長の話が終わった後に会長がそれぞれ今回の春休み中で活躍した部活の点呼と紹介をし各部の部長、副部長又は希望者から一言、その際の各所への誘導及び放送委員への照明の指示出しですね?」
普段この時間には朝練などで使われている体育館も今日は表彰の場へと変わる。田中会長からの確認事項を思い出し復唱する。
「ま、気楽に行こう。裏方だけど君なら問題は無いだろうからね。喉は大丈夫かい? アメいるか?」
「ありがとうございます。頂きます。裏方とは言え緊張はしますよ。副会長の初仕事ですからね?」
書記の秋野先輩からさりげない気遣いは助かる。
「お疲れ様です。田中、秋野それに春日井くん? おはよう」
「やぁ!! お疲れ様だ諸君、元気そうだな!? 体育館なんて久しぶりに来たよ。会計補佐の夢意途くんだよ~!?」
そこには
「「おはようございます!! 七海お嬢様!!」」
「アハハ!! 元気が良いなぁ……会長と書記の二人は、信矢も彼らを見習った方がいいと思うぞ?」
「それはどうも、おはようございますご両名。それでどうされたんですか? まさか真面目に生徒会活動とでも言うつもりですか?」
メガネをくいっと直して眼前の二人を軽く睨む。こんなタイミングで二人が来るなど何か思惑が有るに違いない。早く用件を言えと二人を見ると七海先輩がやれやれと両手を上げるジェスチャーをして苦笑している。
「ふふっ。春日井くんはご機嫌斜めですか。たまには私たちも微力ながら協力をしたいと思いましてね。手始めにこれを……秋野?」
「はいっ!! お預かりします」
そう言って七海先輩が秋野先輩に何かメモ用紙を渡す。そのメモに目を通して険しい顔する秋野先輩だが、すぐに田中会長にもメモを渡すと会長も同様に険しい表情になるのが見えた。
「お嬢様……これはどういう事でしょうか?」
「質問は認めません。指示のとおりに動きなさい。分かりましたか?」
「「はっ……かしこまりました……」」
田中会長の質問にも一顧だにせずにピシャリと言い放ち二人を黙らせる。教師陣はこの二人に関する事は見て見ぬふりが基本なので何も言わず沈黙している。改めて凄い人間と知り合ってしまったものだと内心冷や汗をかきながら二人に向き直る。
「一応私も確認したいのですが……よろしいですか?」
「ああ!! もちろんさ!! むしろ君がメインで君が主役!! 君のための指示なのだからな!! しっかり頼むよ!!」
私が田中先輩からメモを受け取るとそこには『本日の部活紹介の会長業務は全て副会長へ委任。会長は補佐に回ること。その後に副会長は各部活動への簡単なスピーチをする事。特に活躍の著しい男女のバスケットボール部はキチンとすること』と明記されていた。
「これは……質問は……してもいいでしょうか? 先輩?」
「それは却下しますが疑問にはお答えしましょう。あなたへの委任は単純にあなたを場慣れさせてあげたいと言う私の、そして仁人様のご配慮です。それ以上でもそれ以下でもありませんよ?」
「心遣い感謝します。先輩……ではバスケ部の指示は単純に
確信を突いた私の質問に多少の揺らぎを期待するがしかし、七海先輩は涼しい顔でニヤリと口角を上げて笑いを
「バスケ部はこの間の練習トーナメント試合及び昨年度の大会で男女ともに、かなりの上位の成績を残しています。特に女子の方は詳しいのではありませんか? 春日井くん?」
「まあまあ七海。それに信矢も今日の全ての仕事を君に委任するわけじゃない。各部の壮行会の予行練習みたいなものの司会じゃないか!? 本当の壮行会はGW前に改めて行う。今回だけさ」
「分かりました。先輩方のご指示なら……。では、すぐに準備をしたいと思います。まさかこのままお帰りになるのですか?」
手痛い反撃を受けた上にまさかのドクターに発言にたじろぎながらも、ただでは転ばない。せめて手伝えと軽く睨むと二人はやれやれといった表情で頷いた。幸いにも二人が手伝い出すという予想外の行動に出たので逆に教職員たちが積極的に作業を進め、いつもなら三〇分かかる作業が一〇分弱で終わった。先輩方様々だ。そして生徒集会が始まる。
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