第87話【夏編】神に初めて感謝しよう

そう意気込むわたくしをみて、何故かシャルロットは不安そうな表情をしていた。





季節は変わり夏。


じりじりと肌を照りつける太陽、茹だるような蒸し暑さにセミの大合唱。


梅雨が明けて次にやって来たのはドートルノーム領から馬車で二週間程離れた場所にあるヨルベルク領にある海沿いのリゾート地へと来ていた。


流石に移動も三回目となれば皆慣れたもので今までで一番スムーズに移動出来たのではないだろうか?


「に、似合っているでしょうか?」


そして今、目の前には青い海、青い空、リーシャの水着姿。


来てよかったと、心の底から思わざるを得ない。


この地を選んだ過去の自分に最大限の感謝を。


確かに、前世の水着と比べると布面積は多く、水着と言うよりも水に濡れても良い衣服と言った感じではあるモノのそういう事ではないのだ。


あのリーシャが身体のラインが分かる衣服を着て顔を真っ赤にしつつもどこか期待を込めた目線で俺を見つめて来る。


この状況がたまらなく愛おしいと感じる事こそが重要なのである。


し、しかし。


しかしリーシャよ。


立派に育ったものであるな………俺は、俺は………この奇跡を目に焼き付けつつ神に初めて感謝しよう。


「ク、クロード殿下………?」

「あぁ、いや、何でもない。リーシャが可愛すぎて思わず思考が停止してしまった様である。とても似合っているぞ」

「……………………………………あ、ありがとう……ございます………っ!」


そしてリーシャは俺の感想を聞くと一気に顔を真っ赤にさせながらもなんとか感謝の言葉を告げる。


しかしいつもであればここでシャルロットの影に隠れてしまうのだが今日はその場に留まりもじもじと何かを言いたげにしているリーシャがいる(ものすごく可愛いっ!)。


ここ最近この様に何かを言いたげなリーシャを良く見かけるようになったのでその度に可愛いと思いながら待っていたりするのだが、ここで「どうしたのリーシャ?」と手を差し伸べようとするとまるで『おやつは欲しいけど人間への恐怖心が勝ってしまい結局逃げてしまう野生動物』かの如くシャルロットの後ろに隠れてしまうのでここは根気よく待ちに徹するのが正解である。


「ク……………」

「く?」

「クロード殿下も、その…………似合ってますわっ!!!」


そして五分程待った所でようやく口を開いたリーシャは目をぎゅっと瞑りながら(最高に可愛い)俺の水着姿を褒めてくれ、言いたい事は言ったとばかりに、最近リーシャの定位置になりつつあるシャルロットの後ろへと逃げ隠れてしまう。

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