第49話将来成りたいモノ



そう、珍しくもはしたなく叫ぶリーシャ様を見てシャルロットは理解する。


リーシャ様は今までクロード殿下の婚約者となるべく私が想像していた以上の苦労と努力を強いられてきたのだという事に。


それも、最低でも友達がこの歳まで一人もできない位の環境であったという事が。


そう感じた時にはシャルロットは無意識に身体が動いていた。


「リーシャ様。今一度リーシャ様へ忠誠を誓わせて頂く事をお許しください。グラデアス王国、ひいてはクロード殿下並びにご婚約者様であるリーシャ様に栄光と繁栄を」


シャルロットは椅子から立つとドレスが汚れる事など躊躇う素振りも見せず片膝を付き、胸に右手を当て、首を差し出す。


「い、いきなりどうしたのですか………?そんな事をしなくともシャルルが言った事を疑っている訳では────」


そしてシャルロットの考えている事が理解できず軽くテンパってしまうリーシャ様の言葉を不敬であるとしりつつも遮り、シャルロットは頭を上げて言葉を紡ぐ。


「それと、私の友達に幸あらん事を」

「わ、わたくしもっ!わたくしもシャルロットに………わたくしの友達に幸あらん事をっ!」


そう返してくれるリーシャ様は顔を真っ赤にしながらも力強く私の幸せを願ってくれた。


その事が何物にも代えがたき幸福となって私の胸へ染み込んでいくのを感じながら、私は酔った時にいつもしつこいくらいに言う父上の口癖を思い出していた。


『忠誠心とは、それが忠誠心と気付く前に身体が動くものである』────と。


初めて私がリーシャ様へ忠誠を誓ったあの日、あの時の気持ちに嘘偽りはない。


しかし、心からリーシャ様へ忠誠を誓ったと言うよりかはリーシャ様より自分の方が劣っていると思ったからである、と今の私ならば理解できる。


父上の言葉の意味を、この歳でやっと理解できた様な気がした。


そしてこの時、私は本当に将来成りたいモノを見つける事ができた。


それはクロード殿下の妻ではなく、クロード殿下とご結婚なされたリーシャ様の身の周りの世話をする側仕えのメイドである。


そして私には今まで培ってきた侯爵家としての教養があるのだ。


初めこそクロード殿下の婚約者となる為に学んできたのだと思っていたのだが、リーシャ様の側仕えのメイドとなるべく学んできたのだと、そして父上の口癖も含めてそう思わずにはいられない。


今思い返せばこそ、それらは全て私がクロード殿下の婚約者ではなく将来の王妃様の側仕えのメイドとしての教えであり教養であったのだと、理解できる。

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