第50話大罪人
恐らくはリーシャ様の親も、わたくしの親も娘の将来は予め国王によって告げられていたのであろう。
しかしながら、私の親が私に『王妃の側仕えとして』という言葉を使わなかったのは、選べる数こそ少ないものの私に未来を選ぶ権利を与えたかったという親心であり、国王陛下の器の広さが伺えてくると同時に父上と国王陛下との絆がいかに強いかという事が分かる。
そして私は、自分の意思でリーシャ様の側仕えを目指すという事を選べた環境を作って下さった事に感謝するのであった。
◆
「何なのっ!?何なのっ!?何なのよアイツっ!」
父親は王国に牙を向いた大罪人である元宰相アルビンの長男、モーデルとの先程のやり取りを思い出して私は怒りに任せて廊下に置かれたゴミ箱を蹴っ飛ばすと、ゴミ箱は中身を撒き散らしながら転がって行く。
しかし、ゴミ箱を蹴っ飛ばしたくらいでは私の怒りは治らない。
あのモーデルとかいう奴は大罪人の息子であるにも関わらずこの私が腕を絡めて胸を押し付けてあげたというのに、言うに事欠いて「貴様の様な節操の無い女性に触れられると汚れるから俺に触れないでくれないか?」と、この私に対してまるで汚物を見る様な表情で言ってきたのである。
はっきり言ってこんな屈辱は産まれてこのかた初めてである。
「許せない………」
大罪人の息子の癖に。
テメーの方が汚物だろうが、クソが。
何が節操の無い女性であるか。
みんなやってる事をまるで汚物の様に言いやがって。
お前が汚物という行為から私もお前もクロード殿下も、今生きている人類全て産まれて来んだろうが。
それに引き換えお前の父親がやった事は何だ?
国の乗っ取りという大罪では無いのか?
その大罪を犯した人間の息子が、良くこの私に向かって『節操の無い女性に触れられると汚れる』と言えたもんである。
どう考えてもお前の方が汚れているではないか。
それなのに何故クロード殿下はあんな汚物をあんな事件が起きた後も側近の一人として候補に上げ続けているのか理解ができない。
あんな奴肥溜にでも突っ込んどけば良いのだ。
そしてアイリーンは怒りを隠す事もせずドスドスと令嬢達とはかけ離れた足音を立てながら鼻息荒く歩いていくのであった。
◆
俺達兄妹はあの日の事を、そしてクロード殿下の言葉を忘れない。
俺はあの日から大罪人の息子というレッテルが貼られた。
俺は何もしていないのに。
俺は何も知らないのに。
それなのにあの日以降俺達兄妹と母上は周りから父上同様の大罪人であるかの様に見られるようになった。
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