第29話二人仲良く落ちていく

ああ、シャルロット様のこの反応から見ても、やはり周りからは今のわたくしはクロード殿下の婚約者に嫌々させられた令嬢であるという風に見られているようである。


こればかりは今まで自分が素直になれなかった、いつもクロード殿下がわたくしの事をお慕い申しているとおっしゃってくれているその現状に甘えてしまっていた付けが今来たのであろう。


そして、やはりクロード殿下に助けを求めなくて正解であったと思う。


こんな、わたくしの情けない行動の結果起こっている不祥事なんかにクロード殿下のお手を煩わせるなど、やはりわたくし自身が許さない。


「シャルロット様、それは違いましてよ」

「あら、どう違うと申しまして?私にも分かりやすいように説明して頂けるかしら」


夏も終わりこれから冬が訪れるのを告げるかの如く、肌寒い風がわたくし達を通り抜け、美しい金髪と、それに劣らない赤く燃える様な赤髪が靡く。


しかし、それとは対照的に二人の感情は、今まで感じた事のない程の熱量をもって熱く高ぶり始めていた。


元々家柄も良く喧嘩などしたことも無い二人からすれば、その感情をどう扱って良いのかも分からず、まるで熱いマグマの様に身体を駆け巡って行く。


「わたくしはクロード殿下の事をお慕い申しております。世界の誰よりもです。この気持ちに関してだけは負けるつもりもございませんし否定されるなどもっての外でございます」

「ふん、どうだか。口では何とでも言えますものね。そう、例えばですけれども本当にクロード殿下の事をお慕い申しているのだとしたら、この池に入って頂けるかしら?」

「あら、何故クロード殿下をお慕い申している事の証明として、わたくしが池へと入らなければならないのでしょうか?その理由をお教え下さいませ。明確な理由がございましたらこのリーシャ、池でも何でも入って差し上げましてよ」

「ふん、所詮は口だけという事でよろしいのですね?やはり、リーシャ様はクロード殿下をお慕いしていないという事であると判断致しますわ」


口調こそ貴族令嬢そのものであるのだが、その内容はまるで平民の幼い子供同士の口喧嘩のそれである。


そして両者一歩も譲る気配を見せず、口論とも言い難い難癖に難癖で返す様な口喧嘩は平行線を辿る。


そして子供の喧嘩というものは大概口喧嘩で終わらなければ手が出てしまうのはどの時代においても変わらない。


そして二人はどちらからともなく互いの髪の毛を掴み引っ張り合い、倒れ、転がり、池へと二人仲良く落ちていくのであった。

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