第26話バカップル

しかし、これにサインしたからと言ってゼフ君がすぐに騎士爵と成れる訳ではないのでそこは少し我慢して欲しい。


これから、この書類を一度ロードデル国王へ渡し、ロードデル国王のサインを貰った後に半年後に行われる新興貴族の発表を主にした式典を執り行う予定である為、そこで初めてゼフ君は貴族となる。


そして当然騎士爵である為一代限りであるのだが、そこはあまり関係ないだろう。


さて、これで俺ができる事は全てやり終えたのだがこれにはゼフ君以外にもニーナが未だ話の流れについていけてないのかニーナにしては珍しく頭の上にはてなマークが出ている様な表情をしているのが見える。


しかしニーナ程もあろう者ならばすぐに気付きそうなものであるのだが、この短時間で様々な事が起こった為処理し切れていないのかも知れない。


「戻って来い、ニーナ」

「はっ!?……とっ、すみません殿下」


その為、未だ頭の上にはてなマークを出しているニーナの名前を呼び思考の渦にハマってしまっているニーナの意識を強引に引っ張り出せた事を確認した俺はそのまま説明へ入る事にする。


「先程ニーナにサインをして貰った書類であるのだが、実はあれは我とミーシャの妾契約ではなくてここにいるゼフ君とミーシャの婚約を承諾する書類である」


ここまで話せば流石に理解したのかニーナの目が見開くのが見て取れる。


「すまんな、騙したみたいになったのだが裏切りに対する我ながらの報復と思ってくれ。実はな、ニーナには内緒で娘であるミーシャと話し合った事があってその時知ったのだが、どうやら君の娘のミーシャはそこにいるゼフ君の事を好いているらしいのだ。で、あるのならば俺の愛妾になるよりも好いている者同士でくっ付いた方がミーシャの幸せに繋がると我は思っておる。その為に、近衛騎士とはいえどただの一騎士と貴族での婚約となると少なからず良く思わない者が出てくる可能性があった為にちょっとした小細工をさせて貰ってゼフ君を平民から騎士爵へと押し上げさせて貰った。しかし、婚約するかしないかは当事者であるミーシャとゼフ君次第ではあるのだがな」


そして俺はミーシャへと視線を向ける。


「私は、今もなおゼフをお慕い申しております。その為、今回の婚約の件は喜んでお受けしとうございます」


母親に似たのか淡々と自分の気持ちを言葉にするミーシャであるのだが、その顔は耳まで真っ赤に染まっていた。


そして俺は、ミーシャの気持ちを聞いた後ゼフ君へと視線を向ける。


「俺も、ミーシャが好きだ。愛している」

「ゼ、ゼフ………っ!」

「ミーシャっ!!」


そしてこの日、半ば強引ではあるものの一組のバカップルが誕生したのであった。

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