第25話騎士爵

「ミーシャ・フォン・ランゲージと申します。この度は男爵という低い身分にありながらこうしてクロード殿下の元に呼ばれる事、光栄に思っております」


そうミーシャは名乗りあげると胸に手を当て片膝をつき、俺に向かって首を垂れる。


「グラデアス王国、ひいてはクロード殿下に栄光と繁栄を」


その一連の流れは見事なものであり一挙手一投足、指の先まで洗礼された動きはさすがニーナの娘だと思わされる。


「わ、私はっ!ゼフと申しますっ!か、家名はございませんっ!平民の身であるわ、わわ、私をこの様な場にお呼びして頂きありがとうございますっ!グラデアス王国っ、ひいてはクロード殿下に栄光と繁栄をっ!」


それに比べてゼフと名乗った近衛騎士の青年は緊張からか身体はガチガチに固く、まるでブリキの様にカクカクと動いてしまうものの何とか名乗りあげると、ギギギという音が聞こえそうな動作で俺へ首を垂れる。


「良かろう。二人とも頭を上げて構わぬ。では、君はゼフ君と言ったかな?」

「は、はいっ!私の名前はゼフであっておりますっ!クロード殿下っ!」

「そ、そうか。しかしもう少しラフな感じで喋ってもらっても良いのだぞ?」

「はっ!ありがとうございますっ!そのお気持ちだけ受け取らせて頂きますっ!」


いちいち声が大きい為少し抑えて欲しいと思ってしまうのは我儘であろうか?


しかし、そのおかげで彼が馬鹿正直で真面目な青年であろう事が伺えて来るというものだ。


「では、ゼフ君にはこの書類に自分の名前を書いて貰おうか。因みにこの書類は君にとっては大変ありがたい内容が書かれているので───」

「か、かしこまりましたっ!」

「───あ、もう書いてしまったのだな。一応ゼフ君はサインが必要となる書類等はこれから全て目を通す様にな。では書類の内容を口頭で申し訳ないが簡単に説明させて貰おう」

「はいっ!お願いしますっ!」

「おめでとうゼフ君。これで晴れて君は騎士爵様だ。ようこそ、魑魅魍魎が蔓延る貴族階級へ」

「ありがとうございますっ!………………え?騎士、爵?この俺が?」


どうやらあれが素のゼフ君らしい。


それを見るに相当テンパっている様である。サプライズ成功だな。


「何をそんなに驚く。複数人いた国家反逆罪の大罪人、その頭を捕まえたのはゼフ君では無いか。その褒美として騎士爵が与えられるというわけだな。おめでとう」

「な、ななな、なっ!」


このゼフ君を騎士爵へとする為にあんなに良い場所に配置させていたのである。


その苦労を考えれば黙って騎士爵を受け取って貰いたいものである。


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