第19話無視してあげましてよ

しかし、わたくしはクロード殿下の婚約者であるのだ。


それは行く行くは王妃になるという事でもある。


にもかかわらず夫となるクロード殿下の手助けをするどころか手を煩わせて、問題を解決するというのは愚策である。


未来の王妃であるのならば自分の周りくらい自分で何とかしなければならない、とわたくしは思う。


クロード殿下に一言『助けて』と言えば助けてくれるだろう。


クロード殿下に『助けてと言って良いのか?』と問えば「君一人で抱え込む事はない。その代わり我が大変な時は手伝って欲しい。それでおあいこである」と言うであろう。


しかし、しかしである。


わたくしは昔からクロード殿下に助けて貰ってばっかりで、逆にわたくしがクロード殿下を助けた事など一度も無いのである。


故に、だからこそわたくしのお母様がああまで厳しくわたくしを育てて来た事がようやっと理解出来るようになって来た。


親の心子知らずとは言うのだがわたくしも少しは親の心が分かるような年齢になって来たのだ。


少しずつ親の気持ちが、わたくしの事をいかに愛して下さっていたかという事がわかるという事は、あの日に理解していたとしてもやはり実際に肌で感じ理解する嬉しさはある。


そう、それはわたくしが大人になって来ているという事でもあり、クロード殿下との子供が出来た時を真剣に考え出した事が大きく影響しているのだろう。


それは同時にわたくしと殿下が結婚する日が近づいて来ているという事である。


だからこそ、今のままではいけないのである。


王妃になるわたくしが貴族の娘達の信頼を得ることすら出来ずに王妃になる事を想像するとゾッとする。


それは即ち貴族令嬢のトップに君臨しなければならないわたくしが、貴族令嬢を束ねる事すら出来ないなど例えクロード殿下が許そうともこのわたくしが許さない。


そしてわたくしは決意を再度引き締めふんすとやる気を出すものの、しかしながら人間関係という難題に今日も頭を悩ますのであった。





「あら、これはこれはリーシャ様では御座いませんか」

「シャルロット様、おはようございますわ」

「ふん、無視してあげましてよっ!それではご機嫌よう」


あぁ、今日も殿下の婚約者であるリーシャ様を無視してしまった。


もしこの事が両親にバレれば説教コースは間違いないであろう。


しかしながら私はリーシャ様を許す事が出来ない。


それは他の令嬢も同じらしく、皆リーシャ様を無視している。


皆少なからずクロード殿下の事をお慕いしているのだ。


その殿下にむかって婚約者という羨ましい立場であるにもかかわらずリーシャ様がクロード殿下へかける言葉は「嫌いですわ」や「お慕いしておりません」などという言葉ばかりではないか。

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