第4話気味の悪い蝋人形
昔から姉はそうだった。
何をするにも口答えをして更にはこの私に対して『公爵家の娘として恥ずかしくない行動をとりなさい』と耳にタコができるかと思う位言われてきた。
公爵家の娘だから私の行いは許されると言うのに何で姉なんかに苦言を言わなければならないのか。
いつもすまし顔でわたくしを見下し、何か話しかけても表情一つ変えない姉を使用人たちは気味の悪い蝋人形と裏で言われている事を私は知っている。
むしろ表情一つ変えないその姿はまさにその通りだとすら思う。
そんなんだから両親から愛されないのだ。
そう私は思っていた。
姉の婚約者が決まるその時までは。
そして私は廊下に備え付けられている蝋燭台を手にして姉の部屋へと入る。
とりあえず、両親にはクロード殿下の婚約者を姉ではなく私に変更してもらうようお願いするとして、しかしそれだけではこの私の怒りは収まる訳が無い。
あのいつもバカにしている姉の、婚約者であるクロード殿下に会いに行くためにこの家を出ていく時のあの【表情】を思い出す度に私の中の怒りで視界が見えなくなる。
表情なんか無い欠陥品であると思っていた姉が私に初めて見せた表情は【哀れみ】の表情をしていた。
許される筈がない。
その表情は私がする側であり、姉はされる側であるのだから。
「絶対に許さない」
この私を怒らせたことを後悔させるだけでは生ぬるいのだが、この私と同じ血が流れているというただそれだけで姉を亡きものにする事が出来ないという事が歯がゆくて仕方がない。
そして私は姉の部屋へはいると、ベッドの上、枕元の横に置かれている、姉上が唯一大切にしているクマのぬいぐるみを左手でわし掴むとそのまま床へ怒りのままに叩きつけ踏みつけると、手に持った蝋燭台で何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も力の限り刺し続ける。
このクマのぬいぐるみが姉そのものであるかと思うと、そしてこのクマのぬいぐるみを見た姉の姿を想像すると今まで味わったことのない爽快感が私を満たして行くのであった。
◆
城内に作られた庭園を、俺は今リーシャと二人で歩いていた。
その遥か後方にはリーシャの両親と、俺の両親が俺たち二人を双眼鏡で覗いているのが分かるのだが、あれだけ豪華でかさばるドレスを両夫人が来ていてバレていないとでも思っているのだろうか?
しかしながらここでその事を指摘してリーシャと二人の散策が無くなってしまうよりかはましだと言えよう。
俺の母親であるならば『ではここは両家で散策を致しましょう』等と空気の読めない発言をしかねない。いや、する。絶対にすると確信できる。
恐らくは今も乗り込みたくてうずうずしているはずである。
そう思いながら俺の少し後ろをついてくるリーシャへ目線を向けると、それに気付いたリーシャが「どうかしましたか?」と小さく首を傾げ恐る恐るといった雰囲気で問いかけてくる。
評価低めに言って可愛すぎる。
天使かよ。
いや、天使だった。
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