第3話【婚約編】一目惚れ



あれから月日は流れ俺は晴れて十三歳となった。


問題という問題も起きず身体面も至って健康そのもの、医者からも太鼓判のお墨付きである。


変わった事と言えば俺の身長が伸びた事と護身術用として習わされている剣術のレッスンにより身体が引き締まってきている位である。


そして分かった事と言えば俺の側仕えのニーナを裏で動かしている人が分かったという事である。


その人物とは現宰相であるアルビン・ハイムによるものであり、将来的に俺の父親である国王を暗殺し、俺を傀儡にする魂胆の様である。


しかしながらその事実が分かったからと言って今の俺にはどうこうする事もできず、今ある現状を甘んじて受け入れるしか無いのだが。


むしろ傀儡となって貰わなければならない為、大事な駒である俺は暗殺される確率が今のところ少ないのが不幸中の幸いであろう。


「クロード殿下、婚約者がお見えになられました」


そんな事を思っていると俺の側仕えメイドであるニーナが先方が来た事を告げる。


「分かった。行こう」


そして本日、先月父上がお決めになった婚約者との初対面の日であったりする。


冬も終わり過ごしやすくなって来た春半ば、日本であれば雪が溶け始め各地で桜が咲こうかという頃合いであろう。


前世の記憶に若干の懐かしさを感じつつ、俺は緊張している事をこのメイドに悟られない様に、そしてリーシャの姿をやっとこの目で見ることの出来る興奮を抑えつつ、彼女が待っているであろう場所へと逸る気持ちを抑えつつ向かう。



「はじめまして。わたくし、この度はクロード殿下の婚約者となったリーシャ・リプルトン・クヴィストと申します。趣味は生花を、特技と致しましてはピアノとヴァイオリンを少々嗜んでおります」


俺が側仕えと共にリーシャとその両親が待つ部屋へと入ると、三人は俺が来るのを待っていたのであろう。座らずに立って出迎え、軽く会釈をした後俺が椅子へ座るのを見て、一拍遅れて着席する。


そしてまずリーシャの両親の自己紹介が始まり、その後にリーシャが軽い自己紹介をする。


本当の趣味は生花では無い事も、ピアノとヴァイオリンも既にプロレベルである事も俺は前世の知識で知っている。


しかし俺は、そんな些細な事などどうでも良くなってしまっていた。


光り輝く金色の髪を悪役令嬢と言わんばかりにクルクルと巻き、その瞳は蒼く透き通っており、その唇は熟れる前のさくらんぼの様に淡くピンク色をしており幼さが垣間見え、その肌はまるで陶磁器の様に白く、しかしながら柔らかさを主張していた。


指は細くしなやかで、胸は十三歳にしては少しばかり発育が良く、しかし太っているという訳でも無く腰はくびれている。


その姿を一目見た俺は、前世も合わせて初めて一目惚れというものを経験した。


知識ではリーシャという娘を知っていた。


しかし知識と実際に会うのとではこうも違うのかと俺は高鳴る胸の鼓動を抑える事が出来ない。


それはまるで人間界に舞い降りた妖精のようで………。


しかし俺は彼女の、感情の無い声音を聞き我に帰ると共に深く自分の胸へと刻み込む。


必ずリーシャを幸せにすると。





リーシャの妹はクヴィスト家の自室で不貞腐れていた。


何んでクロード殿下の婚約者が私では無くてあの気味の悪い姉なのかと。

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