第258話 初日2

「じゃあお風呂行こっか」

「あ、はい……」


 食事と入浴が問答無用で共用であることは、上空でブーガと過ごした時に聞いている。帰化時の説明でも聞いた。

 それでもどこか信じられないのは、前世の価値観に引っ張られているからか。


 俺はフレアとユレアを交互に見る。キャラではないはずなのに、胸部や下腹部にも視線を走らせてしまった。

 当然ながらバレないはずがなく、


「やっぱりやめませんか。変態さんの臭いがします」

「そう? アンラーさんはそんなことする人じゃないと思うけど。だよね?」


 そう言って微笑を向けてくるユレアお姉さん。十代の俺だったら緊張して赤面してただろうなぁ。

 相棒達はわかってくれている。照れの生理反応を控えめに出してくれた。


「あ、いや、もちろんです……」

「一応言っておきますけど、強引な事したら即処罰されるので気を付けてくださいね。されてもいいですけど。むしろされてください」

「おねいちゃんはくれあがまもる」


 うがーと両手を挙げるクレア。

 ロリを嗜む者からしたらこっちこそ危なそうだけど。いや俺がじゃなくて一般論。ロリの一般論ってなんだ。

 第一、裸なんてユズので見慣れてんだよ。そもそも俺はロリじゃない。

 なんか体内のダンゴとクロが俺を見る目が冷たい気がしないでもないけど、違うぞたぶん? 単に物珍しいだけだぜ。前世じゃまず見れないものだからな。って、言い訳すればするほどそれっぽく見えるな。

 とにかく、要らん疑いをかけらないようにしなければ。


「姉さんはモテるんです」

「アンラーさんに守ってもらおうかしら?」


 話題の半分くらいでおちょくられながら、ぺたぺたと食堂から離れていく。

 といっても大した距離はないし、あの遊牧民のテントみたいなものは遠目にも見えてたけどな。湯気も立ちこめているし、これ、銭湯というやつでは。


 近くまで来てみると、想像通りの大きさだった。

 それなりにレベルアップしている俺だから、もはや距離感も一般人どころではない精度がある。人の感動は大きさの差異スケールギャップからももたらされるものだが、もはや俺には味わえない。まあどのみちバグってて感動自体がゼロだけど。


「どこにします?」

「あっち!」


 一つ一つがスーパー銭湯の建物並にでかいテント群。そのうち目先ではなく三つ先のものをクレアが指差したことで、一同はそこに向かう。


「違いがあるんですか?」

「居心地が色々とね」

「近い風呂は人が多いんです。うるさいし」

「男は鬱陶しいしね」


 フレアは知らんが、ユレアはそうだろうなと思う。グラマラスと言えるほどではないが、若いのに所帯じみていて、ガキに興味を持たない男が好きそうだ。俺はもうちょっと若い方が好きだけど。

 無論、そんなことは言えないし出せないので「あはは……」アンラースマイルで困惑しておく。


「アンラーさん、バカにしてます? うちが子供体型だからって舐めてますよね?」

「なんでそうなるの。フレアは十分綺麗だと思うけど」

「ばっ、……やっぱりバカにしてますよね?」

「私とどっちが綺麗かな?」

「フレアですね」

「私もそう思う」

「姉さんもふざけないでください」

「ふざけてるのはフレアよね。この肌はなに? エルフ?」


 長女が次女の頬をつっつく。健康的でスポーティーな十代女子はそんなものじゃないか。

 いや、さして裕福でもないダグリンの一般人にしては出来過ぎているレベルか。

 だからこそ俺も綺麗とか言ってしまった。成長したらルナと肩を並べられると思う。まあそれでもエルフの足元にも及ばないけど。


 目的のテントに着いたところで、早速くぐっていく。

 既に男女構わず入っては出て行く光景が見えているわけだが、これ、マジで混浴なんだろうか。案外、中で分かれてたりするのかとも思ったが、


(いや普通に混浴だ……)


 むしろ前世より混浴している。混浴しているってなんだ。


 地面はすのこ状で高さが出ており、両端には下駄箱みたいな窪みが並ぶ。何十という老若男女が忙しなく着脱衣に励んでいるが、くつろぐ光景は一切なくてアレだな、修学旅行の入浴みたいだ。


 正面には半透明のガラス――じゃなくてスライムで出来た『スライス』だったよな、それが一面を塞いでいる。向こう側で肌色が動いているが、人の形すら曖昧なほど朧気だ。


「ドアはどこに?」

「どあ?」


 ドアって言葉、こっちにはないのか。


「どうやって向こうと行き来するんだろうって」

「どうって、運んでもらうんですよ。おかしなことを言いますね」


 運んでもらう。


「魔法で向こう側に運んでもらうのよ」


 魔法で向こう側に運んでもらう。


 カルチャーショックどころの話ではないんだが、って、え、おいおい、ちょっとユレアさん? 上着脱ぎ始めましたけど。

 とりあえず前言撤回しておこう。相当着痩せするタイプであられた。


「クレア。アンラーさんが姉さんをいやらしい目で見てないか監視しようね」

「かんしするー!」


 こっちを見ながら脱衣する妹達。

 監視という意味はわかってないらしく、すっぽんぽんになったクレアはスライスの方へ走っていった。


「はやくっ!」


 端で駆け足するクレアだったが、突如ふわりと浮かび上がる。

 そのままボールのように向こう側へと消えていった。同時に、入浴を終えた人達がこっちに戻ってくる――太ってるおじさんと若いお姉さんの二人。着地時に乳房が揺れていた。おじさんの方はもちろんスルー。


「ちなみに度の過ぎた凝視も処罰の可能性があるので気を付けてくださいね」


 ふわりと良い匂いと思われる数字が流れ込んできたと思ったら、フレアが近づいてきていたのだった。

 既に下着姿だ。下は地味なショーツだが、上はベルトブラなのか。中学生相応の控えな膨らみが目に優しい。「バカにしてます?」してないです。良いと思います。


「二人とも早く来てね」


 ユレアはもう裸で、なるほど、安産型で適度に肉付いている感じがエロい。後ろ姿だけでも二度見を容易に誘う。

 ……と、さっきから欲望丸出しすぎて、思わず苦笑してしまう俺。「痛っ!?」ばちんと背中を叩かれた。


(不思議だよな。実物なんて大したことないのに)


 胸も、尻も、脚も唇も、五分もすれば飽きる代物だ。

 所詮は皮膚と脂肪でしかない。ぬくもりのある物質にすぎない。

 なのに、バグっててもなお俺を掴んで離さない。もはや知識と記憶だけなのにな。


(食べ物や睡眠への執着はないから、単に俺がエロいだけか)


「あはは……」


 さらに苦笑いを重ねる俺。

 頭でも沸いたと思ったのか、フレアは怪訝な顔を寄越しただけで続きを脱いでいく。あっという間に、我が家のように、何の恥じらいもなく脱ぎ終えた彼女は、服を窪みに押し込み、先を行く。

 女子中学生の裸体を見る機会なんてまずない。


 バレるの覚悟で、俺はその後ろ姿を最後まで見ていた。

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