第53話 デュアルスキル


 リートたちは道を進んでいく。


――――――


 ――――


 ――


「……ガルルゥゥ」


 ――向こうに、ようやく巨体が見えてきた。


 三頭犬ケルベロス。


 リートたちの10倍はあろうかという巨体。

 三つの頭についた六つの瞳がリートたちを睨みつける。


 ラーグとリートは剣を抜き構えた。


「ガァァァァッ!!!」


 ケルベロスが跳躍し、リートたちにその鋭い爪をたたきつけようとする。


 リートたちは地面を蹴って、左右に分かれてその一撃を躱す。


 三頭あっても体は一つ。ゆえに、二人が固まらなければどちらかにしか攻撃できない。


 ケルベロスはリートに向かって跳躍した。


 だが、そうなればラーグが自由になる。


 ラーグはすかさずケルベロスの背後から飛びかかる。


「――“魔斬剣”!」


 跳躍から生み出される銀の閃光。

 魔力を鋭く研ぎ澄ませた刃は、ケルベロスの背中に勢いよく振り下ろされる。


 だが、剣がその毛並みに到達した瞬間、猛烈な反発が待ち受けていた。

 ラーグは自身の全力の一振りが、そのまま反射してきたような衝撃を受け、吹き飛ばされる。


「――クソ! 硬いッ!」


 すかさずリートも、“神聖剣”をケルベロスに叩き込む。しかし、これも容易に弾き飛ばされた。


「とてつもなく硬い魔力壁をまとってやがる」


 そして、防御の硬さというのは、当然そのまま攻撃力になる。

 ケルベロスはリートに向かって、その前足を思いっきり振りかぶった。

 迫り来る巨体――


「――ドラゴンブレス!!」


 リートは上級魔法で迎え撃つがケルベロスの足は止まらない。

 リートの放った魔法を軽々突き破って襲いかかってくる。

 すんでのところで、


「“神聖結界”!」


 ――結界を張る。それでようやくケルベロスの攻撃が止まった。


 だが、押し返すほどの力もなく拮抗する。

 ――いや、少しずつ押される。


 リートは結界を踏み場にして後方に跳躍した。



 最強の攻撃力を誇る“神聖剣”が通じないとあっては攻略は不可能に思えた。


 だが――


「攻撃受ける瞬間、結界が少し歪んでる! スキル連打で破れるぞ!」


 ラーグがそう叫んだ。


 それならば、とリートは阿吽の呼吸で最上級スキルを放つ。


「“ドラゴンブレス・ノヴァ”!」


 ケルベロスに己が持てる最強の魔法を打ち込む。

 そしてそこにすかさず、


「“魔斬剣”――」


 ラーグが振りかぶる。

 いくら最上級魔法で結界が弱まっているとはいえ、先ほどは簡単に跳ね返された魔斬剣でケルベロスの結界を破り切れるか――


 だが、リートのそれは杞憂以外の何ものでもなかった。

 

「――/“ドラゴン・ブレス”!」


 ラーグの技にリートは驚愕する。


 “魔斬剣”を発動している最中に、“ドラゴンブレス”を発動し剣に炎をまとわせたのだ。


 上級魔法を帯びた上級剣技は、そのままケルベロスの右の首を切り落とす。


「見たか、これが“デュアル・スキル”だ」


 魔導剣士は器用なクラスだが、その中でも器用さを極めた者が会得するスキルが、“デュアル・スキル”だった。

 二つの起動スキルを同時に発動する。

 単純に攻撃力を倍増させることができる優秀な技だ。


 リートは先輩の技に感心する。


「次はお前がいけ!」


 ラーグの指示が飛ぶ。

 ケルベロスの三頭のうち、一つが落とされただけ。首は二つ残っている。


 片割れを切り落とされたケルベロスは、怒りの咆哮。


 リートにはデュアル・スキルはないので、代わりにラーグとの連携で三連打を決行する。


 再びリートは“ドラゴンブレス・ノヴァ”を撃ち放つ。

 そして、それを追う形でラーグも“ドラゴン・ブレス”を重ねがける。


 二重の業火がケルベロスの結界を焼き尽くす。

 そしてその爆炎の上から、リートの天撃が下される。


「“神聖剣”!」


 神聖を帯びたリートの剣は、そのままケルベロスの二頭をまとめて切断した。


「――チッ。半分以上持ってかれたな」


 と、ラーグは笑いながら言ったのだった。

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