第49話 逮捕
「――もう一つの話はこのリートが受けた妨害についてだ」
その言葉を告げた国王の視線は、確かに東方騎士団長を捉えていた。
東方騎士団長は、生唾をゴクリと飲み込む。
「へ、陛下。どう言うことですか」
明らかに自分を睨む国王に対して、東方騎士団長は耐えきれずそう聞き返す。
だが、その問いに対して国王は返さなかった。
他に団長たちは一体目の前で何が起きているのかと困惑していた。
「――連れて参れ!」
国王が鋭く言うと、裏から憲兵たちが現れる。
――二人掛かりで一人の男を脇に抱えて連れてくる。
その者を見て東方騎士団長は思わず顔を引きつらせる。
その者は、他の誰でもない、東方騎士団長の腹心だったからだ。
「この者は、リートに毒を盛り、さらにはリートが立ち寄る村にトロールとゴブリンを放った犯人だ。すでに憲兵たちが調べ上げている!」
――その言葉に、東方騎士団長は顔面蒼白になる。
他の騎士団長たちは息を飲む。
「何か言い訳があるか、団長」
「そそそ、そんな! 違います! 陛下! 私は何も!」
「しらを切るでない! 証拠も揃っているぞ」
「ほ、本当に違います! 私は何も関係ありません!」
「黙れ!」
国王が一喝する。
「一体何のためにこのようなことをしたかは知らないが、民を守るべき騎士団長が、魔物を放つなど言語道断」
――と、もはや言い逃れはできないと思ったのか、とうとう騎士団長はその名前を出す。
「わ、私は、ただウェルズリー公爵に命じられて!」
その言葉に、国王の眉が動く。
「ほう。その話はよく聞かねばならぬな。憲兵たち! 騎士団長を牢屋に打ち込め!」
「そ、そんなぁ!! お、お許しを!」
東方騎士団長は、そのまま憲兵たちに連れていかれる。
その姿を、他の者たちは固唾を飲んで見守った。
「――見ての通りだ。東方騎士団長の後任を決める必要がある」
国王はこの事態を説明するために団長たちを集めたのだった。
「そして皆のそれぞれの騎士団でも不正義がまかり通らぬよう務めるのだ。わかったな」
「ハハッ! 陛下!」
†
「突然のことで、驚かせてすまない」
東方騎士団長が憲兵に連れて行かれたあと、リートはイリスとともに玉座の間へと通された。
そこで国王から詫びの言葉をかけられる。
「いえ……確かに少し驚きはしましたが……」
「先ほど、東方騎士団長が言っていた通り、この件はおそらく君の父親が絡んでいる」
リートはそれに対してなんと返すのが正解なのかかわからなかった。
だが、血の繋がった息子として謝罪は必要だと思ってそれを口にする。
「陛下、申し訳ありません」
「バカを言うな。お前が謝ることではない」
国王はリートを責める気など毛頭ない。
「君がウェルズリー公爵から家を追い出されたことは知っている。もうあの男は君にとっては他人でしかないのだ。責任を感じる必要などない。いや、正直に言おう。それどころか私は、君のおかげでウェルズリー公爵と東方騎士団長を排除することができたのだ」
「……それはどう言う?」
「ウェルズリー公爵たちは、先王、つまり私の父に仕えていた。父は彼らを相当気に入ってな。だが、そのおかげで彼らはあまりに強大な権力を持ってしまった。だから私が即位してからは、バランスを保つために、彼らを優遇しなかった。それはすなわち、彼らからすれば冷遇された、と言うわけだ。だから彼らは私を脅威に感じて、密かに暗躍していたのだ」
「暗躍?」
「その通り。兵力を蓄えていたのだよ」
「まさか。それでは――反乱でも起こす気だったのですか?」
リートはまさか実の父がそんなことをしているとは思わず驚く。
「反乱まで画策したかはわからん。だが、いざとなれば寝首をかくことができたのは間違いない」
「そんな……」
「今回、東方騎士団長の悪事を一つ暴くことができた。だが、まだウェルズリー公爵の尻尾はつかめていない。これからそれを追求していくことになる。だから一応、君には知らせておかないといけないと思ったのだ」
リートは目の前に広がる宮中の陰謀に驚くばかりだ。
「そして、これから近衛騎士の役割は極めて重要なものとなる。一つ、私や娘を守るのに尽力してくれ」
「――はい、陛下」
†
ウェルズリー公爵領。
「なんだと!? 東方騎士団長がリートへの妨害容疑で逮捕されただと!?」
その知らせを団長の部下から聞いたらウェルズリー公爵は、腰が抜けて椅子に座り込んだ。
「バカな……」
ウェルズリー公爵は既に引退の身だが、それでも後任の東方騎士団長が自身のコントロール下にあったから、実質的に騎士団を支配できていた。
しかし、騎士団長が解任されれば、それもここまでだ。
いや、それどころか。
このままでは自分の身すら危ない。
「クソッ……まさかこんなことになるなんて……」
騎士として一代で公爵まで上り詰めた。
それが、こんなところで――
この後、おそらく自分にも出頭命令が下るだろう。
そこでなんとか身の安全を守らねれば……。
†
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