第43話 毒
ランドを瞬殺したリートとシャーロットは、そのまま振り返らず、観客席の方へと向かう。
「二人ともさすが!」
サラが拍手を送る。
「ありがとう。まぁ敵を倒したのはシャーロットだけどな」
リートはそう言ってシャーロットの肩を叩く。
「よくやった」
「いえいえ! 師匠が譲ってくださったからです!」
リートがあえてシャーロットに見せ場を作ったことは、どうやらバレているらしい。
――と三人が和やかな雰囲気で話していると。
突然、横から声をかけられる。
「一回戦突破おめでとう、リート」
その声の主は――カイトだった。
「……俺も一回戦は勝ったんだけどさ」
カイトは口角を上げてそう言う。
――カイトはこないだまで第九位階(ナインス)だったので、小隊長試験を受ける資格がなかった。
しかし、つい先日東方騎士団で行われた特別選抜で、第七位階(セブンス)に昇格したと、サラから聞いていた。
だから、彼も小隊長試験を受ける資格があるのだ。
そして――
「次は――俺とお前の戦いだ」
――二週間後に行われる二回戦で、リートはカイトと当たるのだ。
リートはそれを聞いても、特に何も思わなかった。
ハッキリ言って、眼中になかったのだ。
カイトの実力は、リートに遠く及ばない。多少強い相方を連れてきたとしても、その差がひっくり返るとは思えなかった。
――だが、カイトはなぜか余裕綽々だった。
「まぁお互い、正々堂々戦おうじゃないか」
そういい残してカイトは踵を返した。
†
――その頃、ウェルズリー邸。
ウェルズリー公爵はコンタクトミラーで、東方騎士団長と話していた。
「やはり、リートは一回戦を突破したようです。次はカイト殿と当たります」
その言葉に、リートの父親は頷く。
「正直に言おう。お前もわかっていると思うが、今のカイトの実力では、リートに勝てない」
自身が最強の騎士として勇名を馳せたウェルズリー公爵。さすがに今の時点でカイトがリートに勝てないという現実は受け入れていた。
だが、それくらいで手をこまねいてはいられない。
どんな状況でも諦めない。
目的を達成するためなら、どんな手段も厭わない。
だからこそ、騎士団長と公爵の地位を手に入れたのだ。
そして今回も――
「毒を盛る。これで解決だ」
その言葉に、現東方騎士団長は眉をひそめる。
それは何もリートのことを心配したのではない。
「しかし神聖強化を持っている者は、ほとんどの毒を無効にします。彼に効く毒となると限られていますが、公爵は毒を避ける方法を教えているのでは?」
公爵は陰謀渦巻く宮中で生き抜いていた。
当然、毒を盛られたことも何度もあった。
その際には、毒に関する様々な知識が、公爵を救ってきたのだ。
だからその知識は、自分を継ぐはずだったリートにも受け継がれている。
――しかし。
「あいつには教えていない毒がある」
その言葉を聞いて、東方騎士団長は驚きを隠せなかった。
「まさか……息子に裏切られることを想定して?」
「当たり前だ」
公爵はそう断言する。
――これが若くして騎士団長に上り詰め、王族に次ぐ公爵の地位にまで上り詰めた男なのだ。
「毒を届けるから、実行は頼んだぞ」
公爵の言葉に、東方騎士団長は恐れを感じながら頷くのだった。
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