第24話 一晩で


 ウルスたちが村に戻ってくると、ちょうど村長が家から出てきたところだった。


 脇には孫のリリィもいた。




「騎士様、どうかされましたか?」




 村長の質問に、ウルスではなく村の剣士が答えた。




「それがリザードマンは一匹残らず倒されてたんです」




「……なんじゃと?」




 村長は信じられないと言う表情を浮かべた。




「軽く100体はいました。全部倒されてたんですよ!」




 剣士が興奮気味に言う。




「誰がそんな神業を……」




 村長の質問に、ウルスは答えを持っていた。




「おそらく……リートです」




「リート? あの若い騎士様が? たった一人で?」




 村長が驚愕の声をあげる。




 と、騒ぎを聞きつけたのか、頭を掻きながらリートが部屋から出てきた。




「リート、お前が夜のうちにリザードマンを全部倒したんだろ?」




 ウルスが聞くと、リートはばつが悪そうに答える。




「少し(・・)、稽古のついでに倒しましたね。寝付けなかったので……」




「あれが少し(・・)だと? おそらく全部だ。リザードマンは仲間の血に反応する。もし生き残りがいたら集まっていただろうが、洞窟には生きているリザードマンは一匹も残っていなかった」




「そうですか、じゃぁ、あれで全部だったんですね。よかった」




 リートははにかみながら答える。




 ウルスは呆れたという表情で、両手のひらを天に向けた。




「――リザードマンは夜行性だ。だから昼間のうちに退治するのが王道だが、お前はあえて夜に行った――そのほうが効率がいいから。夜なら探す手間が省けるというわけだ」 




「夜は自由行動と言われたので。少しでも早く退治できればいいかなと思って」




 リートが言うと、ウルスは厳しめの口調で言う。




「危ない橋を渡ってもいいとは言ってないぞ。リザードマンは厄介だ。いくら聖騎士の力を持っていても、用心すべき相手だ。軽率な行動だった」




「すみません……」




 リートは申し訳なさそうに謝る。


 だが、そのあと、ウルスは村長に向き直って言う。




「しかし、どうやら、リートのおかげで“お星様の日”には間に合いそうですね」




 その言葉で村長は、リートの意図を理解した。


 リートは、リリィがお父さんとお母さんに会えるように、リザードマン退治を急いだのだ。




「――ありがとうございます!!」




 村長が頭を下げると、脇にいたリリィも目を輝かせる。




「お星様、見に行けるの!?」




「ああ、そうだよ。よかったな」




 村長が嬉しそうに言いながら、孫の頭を撫でた。




「あの騎士さんのおかげだよ」




 村長がリートの方を見ながら言うと、リリィはパタパタとリートの方へとかけていって、リートの腰に抱きついた。




「お兄ちゃん、ありがとう!」




「……どういたしまして」




 リートは少し照れながら、リリィの頭を撫でるのだった。






 †




 リートたちは翌日、王都に戻ることにした。




「騎士様。本当にありがとうございました」




 村長が頭を下げる。




 ウルスは「全てリートのやったことです」と率直に言った。




「リート様。ありがとうございます。なんとお礼を言っていいか……」




 村長が改めてお礼を言う。




「いえ、とんでもありません……」






 そして、村長はリートの目を見て言う。




「今はなんのお礼もできませんが……いつか、このご恩をお返しします」




「お礼なんて。お役に立てればそれでよかったです」




 そういって、リートは村長に別れを告げるのだった。






 †






 ――リートたちが村を出た後。




 村長は自室に戻り、引き出しの中に入れていた一枚の手紙を手にとった。






「あまり気乗りしなかったが……あの少年に借りを返すためと思えば、少しはマシかの」






 ――その手紙に書かれていたのは、






 村長の兄が亡くなったことを知らせるものだった。






 そして、その兄とは――












 ――――ギリア大公。










 ローレンス王朝屈指の大貴族。




 そのギリア大公がなくなったが――彼には子供がいなかった。


 つまり――




 村長こそが――次のギリア大公だった。


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