第15話 決闘会当日



 週明け、リートは宮殿の外にある闘技場へ向かった。


 今日、若手の騎士による決闘会が行われる。

 総勢30名が参加する行事で、今年採用された騎士たちが一堂に会する。


「おはよう、リート。準備は万全か?」


 リートが待合室へと向かうと、イリスが話しかけてきた。


「おはようございます、王女様。まぁ、準備はぼちぼちですね……」


 準備といっても、知識を問うような試験ではないので何をしてよいのかわからなかった、というのが事実である。

 なのでこの三日間、リートはいつも通り剣の稽古をして過ごした。


「必ず一番になってくれ。そうでないと、お前を第七位階(セブンス)にした私の面目が立たない」


 イリスはそう言ってリートの肩を叩く。

 一国の王女様の面子がかかっていると言われるとなかなかにプレッシャーだった。


「は、はい……頑張ります」


 ――と、王女様と話していると、リートの目によく知った顔が飛び込んできた。


「――サラ」


 幼馴染のサラ。


「リート……! ……それに王女様!?」


 サラはまず幼馴染であるリートの姿を見つけたが、その後すぐにその脇に王女様がいることに気がつき動揺した。



「おお、サラじゃないか。おはよう」


「おはようございます、王女様」


 リートも、イリスとサラが知り合いであることに少し驚く。


「お二人はお知り合いなんですか?」


 リートが聞くと、イリスが答えた。


「当然だ。今年は中央騎士団に聖騎士が配属されたと聞いてな。ゆくゆくは近衛騎士団に引き入れるために挨拶をしておいたのさ」


 中央騎士団は、王都を守る部隊でローレンス王国の主力部隊だ。

 王室の護衛や特別な任務を行う近衛騎士団と違い、王国の主力として様々な場所で活躍するのが中央騎士団の任務である。


 ちなみにリートの異母兄弟であるカイトは、辺境を守る東方騎士団に配属されていた。

 聖騎士という貴重なクラスを持った人材を、一つの騎士団が独占しないようにという配慮からなされた人事だった。


「王女様は、リートとはなぜお知り合いに……?」


 今度はサラが、イリスとリートの関係性を尋ねる。


「リートは、他でもない私が近衛騎士に採用した。試験でこの者の才能を目の当たりにしてな。一目惚れさ」


 笑いながら自慢げに答えるイリス王女。


「――リートが近衛騎士に!? それはよかった!」


 リートが近衛騎士になったと知ったサラは自分のことのように喜んだ。

 リートは、そのことについてサラに礼を言う。


「サラが力を分けてくれたおかげだよ。ありがとう」


 それは謙遜でもなんでもなく事実だった。

 聖騎士のスキルをサラからもらわなければ、リートが採用試験を突破することはなかっただろう。


「ところで、二人はどういう関係なんだ?」


 今度は王女がサラとリートの関係を尋ねる。


「幼馴染なんです」


 サラが明るい笑みを浮かべて答える。


「そうか。では旧知の仲というわけか」


 と、王女はリートとサラの顔を交互に見る。

 そしてとんでもない爆弾発言を放り込んできた。


「これは女の勘なのだが、もしかしてサラはリートのことが好きなのか?」


 ――いきなりの言葉に、サラの顔が真っ赤になる。


「な、何を……」


 と、その反応を見て、イリスは笑った。


「そうか、そうか!」


 リートはあまりの爆弾発言に、心臓が高鳴ったが、少し冷静に考えて王女が冗談を言っているのだと思い込んだ。


 と、イリスはサラの肩をたたく。


「では私とお前はライバルだな!」


 そこにさらなる爆弾を投げ込む王女。



「ら、ライバル!?」


「リートと一緒に働きたいならば、この大会で優勝して、第七位階に上がって近衛騎士に来い。そうしたら毎日リートと一緒に働ける。いいだろう」


「…………」


「…………」


 リートもサラもなんて答えて良いのかわからず、お互いを見ることもできず、ただ下を向く。


 イリスだけが空気を読まずに、はははと笑っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る