無知 に 弱み
「正義者・・・ですか」
俺の同行者が疑問に思いながら呟く。
なんて言うか、俺は口にする事すら憚れていた。
目の前のコイツは自らを正義者と名乗った。
聞き間違いセイギシャって別の言葉かも知れないなんて考えてると女が中央階段からゆっくりと降り、俺達へと近付いてきた。
「で、俺達に何の用なんだ。あんな使い魔みたいなのまで使って」
「そうだな・・・一番は君だ、奴隷の希望と呼ばれた奴隷、ミミナ」
「私?」
なるほどね。つまりはこのビッチに用があったってわけか。
なら俺は不要ってわけか。 こいつにはまぁ助けてもらった恩もあるがシカタナイナー。
「よかったなーお前を必要としている人間に出会えて、俺とお前はここまでのようだ。達者で暮ら・・・セヨッ!?」
手を上げながら屋敷を後にしようとしたら腕首をとてつもない力で握られる。もちろんビッチが俺をこの屋敷から出さないように拘束している。
いやいや、俺不要ならいいだろうに。
「私はこの方の奴隷です、申し訳ありませんがこの方の合意が無ければあなた方の話を聞く気はありません」
「そう・・・なのか・・・?」
正義者さんは頭を傾げていた。そりゃそうだろう、完全に俺はこいつを身捨てるように出ようとしたのだから不思議に思うのもわかる。
どうもこのビッチのこの勝手な押し付けにも少し慣れ出している自分もいるのがどうも腑に落ちないが。
ここは一つ、情報の一つや二つ手にしたいところか。
「面倒だからあ単刀直入に聞くけど、あんた等の目的はなんだ?」
「王政の改善」
「その手段は? グインズで何をするんだ?」
「そこから先は言えん」
じゃあここまでのようだな。
俺の手首を握る手の首を逆に握り返す。その行動に驚いたのかまた赤面してるが無視して屋敷から出ようとする。
「ここから出られるとでも思ってるのか?」
正義者さんのお言葉で次々と俺達を包囲するように武装した人間が現れる。
こんな行動、悪役の何者でもないのがわからない物なのか。
恐らく目的はこのビッチなのは明白。ならば俺は用済みの可能性も高いのだが、こいつの依存症度をこの正義者達は知っているのだろうか。
自分の手で殺さなかった場合このビッチは一体どういったことをするのか個人的には気になるところではあるけど。
殺した相手に我が身大事に従うような女では無いだろうとは思いたい。
「レーグ様、ひとまずここは言うことを聞いてみてはどうでしょうか。このままだと何もわからないままだと思いますが」
耳元で囁くように小声で言ってくる。なんか別の意図を感じるがまぁいいや。
コイツの案に乗るのも考えたが、何処までこいつ等が教えてくれるのかわかった物じゃない。だからその選択は見送ろうとしていた。
それにコイツは多分、奴隷逆神の代償を知らない。
いつでも俺の力でこいつ等を吹き飛ばせるとでも思ってるのだろうが、悪いがそんな事出来るならこんな小賢しい事なんてしてない。
その事を考えてほしい物だ。
「まあいい。じゃあほい」
とりあえず両手を上げて降参の意思を告げる。そんな俺達をまじまじと周囲の奴らは武器を構えながら見ている。
俺達の武器が無い事を確認しているようだが。
「念の為言っておくが俺の素顔は見せれん、それが条件だ」
「条件? 馬鹿を言うな。こちらに従っ」
ヒュンッ・・・!!
正義者さんの頬が掠めた。
俺の指ームだ。当然当てようなんて最初から思ってないし思ったら激痛で倒れる。
「そうゆう事だから、下手な真似をするならここの奴ら皆殺しにするくらい造作もないってことは理解しておけ」
「このお方はあのゴブリンジャックをお一人で倒された方ですので」
思わぬ乗っかりに笑いそうになった。
ゴブリンジャックってたしかあのデカイゴブリンだよな。
ビッチの言葉を信用できない雰囲気だ。なら。
ガシャンッ!
「あれは・・・!」
「まさか、本当に」
まさかこんなしょうもない使い方になるとは思わなかった。
証明と言わんばかりに俺はあの大剣を投げ捨てた。どうぞと片手で確認を促すも誰も近付こうともしなかった。
驚愕しているのは間違いなかったが、今度は大剣が本物なのかどうかと疑い出した。
流石にこれ以上の物を出せなんて言われても困る。
「いいでしょう。信じます。これ以上悪戯に同志達を減らされても困りますので」
ようやく話しが前に進みそうだな。
思った通りこの正義者の女がリーダーってわけか。そのリーダーさんのありがたいお言葉で俺達への警戒もやっと解かれた。
ここから・・・ってわけか。こいつ等が一体何をしようとしているのか。
そして神災に対抗する為の研究とやら。
こいつ等がそれをどうにかしようとしている可能性は非常に高い。
悪くない流れ。
流れだけは・・・。
「あ・・・あの、そろそろ手を・・・あいや!、ずっとこのままでも良いと言いますか、このままが良いと言いますか・・・!」
一気に気が抜けそうになった・・・。
・ ・ ・
その後は一枚の紙を渡され結局解散になった。
紙には指定された場所が記載されておりまた明日そこへ来てほしいとのことだったので、俺達は宿に戻ってきた。
俺はある物をローズの商品の中にあった事を思い出し手に取った。
「痛っ!」
俺はとある物を付けようとしたが、突然弾かれるかのように奴隷紋から力が勝手に出てきた。
「仮面なんてつけれるわけ無いだろう、そんな事も知らないのかい」
「は?」
さも当然かのように言うローズ。
やっぱり駄目か、せめてこの奴隷紋を隠せる何かがあればと思ったけど仮面を付ける事も出来ないなんて。
溜息をつきながら仮面を元に戻した。
明日の事を考えると念の為の準備をしておこうと思ったが、仮面を付けるくらいしか特別何か思い付かなかった。
「それにしても、彼女は一体何をしているんだ? 帰ってきてからずっとあの調子だが?」
ビッチの事だ。
アイツは帰ってきてからと言うよりもあの屋敷を解散してからずっとあの調子だ。当然こっちから聞くわけも無く黙っていた。
「はぁ・・・んんんっ・・・ふぅー」
気持ち悪い声を上げながら自分の手首の匂いを嗅いでる完全にやべー奴だ。
結局、やる事も無いから適当に椅子に座ってストレージを整理しているとローズがニヤニヤしながら隣の席に座り出す。
「今度はどんな事に首を突っ込んだのかね?」
「変な言い方するな、ただの情報収集だ」
好きで突っ込んでるわけじゃない。
このままだと金が消費されるだけだ、奴隷紋を消す前にこっちの身が滅ぶ。
少しでもいいからさっさと方向性を決めていきたいし、出来れば神災に関することはもちろん、奴隷紋の事も知っていきたい。
「お前がもったいぶらずに知ってること全部話せばいいだけだと思うが?」
「だから言ってるコ~ン、知ってる事しか知らない。何が知りたいんだ~いってね」
そればかりか。
ならばここは意地悪に徹してもいいかな。
「なら正義者共って何者だよ、ここのグインズじゃあ何が行われ様としているんだ?」
「二つも質問攻めするなんて大胆だね~、とりあえず正義者ってのは君が思う通りの人間達だよ。王国、アルトリス大陸にある『インシス王国』に異を唱える人々ってことだね。 やってることは盗賊紛いな事を大きくしたような物さ。インシス軍を襲撃したり、騎士団にちょっかい出したり。そんなに良い噂を聞かない連中さ」
あれ。思ったよりも教えてくれて拍子抜けだ。
インシス王国か、確かに散歩している時にポスターとかでそんな名前ッ見た記憶あるなとは思ったが、国の名前だったのか。
ローズの言う通りなら想像通りヤバい連中って認識で良さそうだな。
「これに関しては皆目見当も付かない。知っている事と言えば、奴隷を使っての神災対策。恐らくではあるが、奴隷逆神の事はまだ知らないだろうがね」
「根拠は?」
「わかるだろ? 奴隷逆神は奴隷専用、殺してしまっては意味がないじゃないか。そうゆう事だよ」
なるほど。奴隷商のローズが言うって事はそれなりに繁盛している。奴隷が良く売れているって事は、消耗品として扱われているって事か。
ただの人間を使った研究。それもただの研究じゃなくてその人間は新たに補充する必要のある代物。
そう、物だ。
神災の為、多くの人間を救う為・・・。
どれだけ取り繕っても奴隷は物。今この世界をまとめている人間とは違う生き物、ただ形や言語が同じというだけの物だ。そこに例外なんて物はない。
「よくわかった。相変わらず奴隷には厳しい世界ってのがよーくな」
「それはそれはよかったよかった。君には非常に期待しているのだから励んでくれたまえよ」
何に期待しているんだが。相変わらずこの女狐の立ち位置が良くわからん。
考えるだけ無駄だと思うが、ローズの考えは相変わらず読めない。
「とりあえず今日はもう寝るわ」
「はいよ~良い夢見るんだよー。彼女のほうは現実に戻さないとだけどねー」
そういえば話に夢中で忘れていた。
全く気にせず奴隷逆神の話とかしてたけど、あの調子だと聞いてないだろうと思うから大丈夫か。
大丈夫だよな・・・。
「はぁ~~・・・ん~~~」
平常運転、大丈夫そうだ。
・ ・ ・
「あ???」
俺は指定場所まで来て唖然としていた。
何度も指定記載があるメモを何度も見返すも目の前のご立派な御屋敷の前で口を大きく開き塞ぐことが出来なかった。
ビッチは特別な感情を抱かないのかフードも取ってケロっとしてる。
さぞかし素敵な御屋敷に住んでいた経験がお有りの様でいいですね!
俺だって、俺だって・・・全く思い出せん。
そんな馬鹿みたいな事をしていると、突然敷地への入口が開く。
魔法なのか、自動で鉄格子が動き出した。
「お待ちしておりました。どうぞこちら・・何か?」
「いや、別に」
お前が出迎えるんかーーい! そこは執事とかじゃないんかーーい!
しかもなんかドレスなんか着込んで、今から一体何をするつもりなんだよ。昨日と全く正反対の衣装で声を聞くまでわからんかったわ。
良く見たら前髪ぱっつんの黒髪ストレートで無駄に奇麗な髪してるな。どっかのビッチにも負けないくらい美人じゃん、胸は無いけど。
「立ち話も何ですので、どうぞ屋敷の中へ」
手招きされ俺達は黒髪ぱっつんの後を付いて行く。
そこそこのお嬢様、なのは間違いない。はずだが・・・この黒髪ぱっつんが昨日会った正義者で合っているか少し不安になる。
ただでさえ正義者なんて名前を使ってるくらいには怪しさ満点なのに、無駄にデカイ敷地、ご立派な御屋敷。
だがそこには・・・俺達の前を歩くぱっつんしか居ない。居ないように思える。
使いの一人や二人居ないと不自然なほど人の気配が一切しない。
「敷地内に人はいませんのでフードをお取りになっては?」
「却下」
誰かに見られたらマズイのレベルをぱっつんは知らんだろうに。
こいつが何者なのかもわからないのに、俺が奴隷であることを明かすわけないだろう。
そして少し歩いた先、屋敷の前まで到着するとぱっつんがどうぞと案内する。
屋敷内も外から見た外形通りと言っていいのか、普通に奇麗だ。
だが気持ち悪い。
本当なら一人くらい「お嬢様おかえりなさい、この方達は??」みたいな会話があってもよさそうな物が一切ないし物音一つしない静寂が不気味過ぎる。
「先も言った通り誰もいませんので、お気になさらず。こちらへどうぞ」
いやいやいやいや、お気にはしないけどお気持ちは悪いっての。
そしてビッチはビッチで溶け込むように澄ました顔してるし。なんなんだよ、また俺だけ変って奴かよ。
そんな葛藤を一人でしていると応接間のような場所へとたどり着いた。当然誰かいるわけではない。
正義者の仲間の一人や二人は居てもおかしくないと思ったが、それすらもないとは恐れ入った。
「では、改めて自己紹介させて頂きます。私はこの別荘の主『ファレン・センザー』と申します、以後お見知り置きを」
「センザー・・・もしやセンザーとはあのですか?」
「はい、ご想像しているモノで間違いございません」
うんうんうん、あれね。あのセンザーね。うんうんうんあのセンザーね。帰っていいか俺。
「ぁぁ~・・えっと・・・。センザー様、あなたのようなインシス王国の魔法士団一つを任せられている方が、何故?」
よし、よくやったビッチ。素晴らしい説明口調助かる。
なるほど、この黒髪ぱっつんはインシス王国の魔法士って奴なのか、魔法士って何だ?
まあ多分騎士の魔法版のような物か恐らく。
「魔法士団の団長だから、とお答させて頂きます」
「ふーん、正義者って名前の通りって奴ですか? 裏もしっかりと見えるからこそって奴ですか?」
「では、そうゆうことにしておきましょう」
はぁぁぁああぁぁあームカツクー。
理由は口に出さないってやつですねームカツクー。
本当にどうしてこう女っていう生き物はあの子のようにお淑やかじゃないんだろうか。
「本題に入らせてもらうと、本日の夜0時に正義者達同志による作戦行動が行われます。お二人にはその参加をお願いしたくこちらへ来て頂いた次第です」
はあ・・・。作戦行動ですか。
それは何って質問はきっと参加しないと教えてくれないってやつですよね。
「もし断ったら殺さるってやつか?」
「そんな事はしません、他言無用を約束して頂けるならば」
はいはい。そうですかそうですか。
こっから先に進むにはこっちの首を縦に振らないといけないって奴か、めんどくせ。
黒髪ぱっつん。見た目と仕草、口調、色々な意味の姿勢。
なんだが俺と正反対の人間だという事がはっきりとわかる、もちろんビッチとも違うタイプの人間。
一言で言うと糞真面目そうって印象だ。
そして思った事がもう一つある。
「なぁ、なんでそんなソワソワしてる・・・っていうか生き急いでる感があるように思えるんだが?」
糞真面目って所に更に拍車をかけたような行動。
昨日の今日にそんな大事そうな作戦を俺達なんかに参加してほしいなんて。まあ今日という日をずらせないのはわかるが、どうも腑に落ちない。
それなら昨日伝えて今日のその作戦とやらに備えればいいだけの話のはず。
「・・・・・・」
「なんですかその睨みは? まさかこんな普通の談笑でも参加しないといけないってやつですか?」
俺の口が悪いのはまあ悪いとは思ってる。
けれど、こうも頑なにされてとどうしても煽りたくなってしまった。
一体何がどうあってこんな事になってるのかも教えてくれないとなると困る色々と。
「ご参加頂けない。と言うことでよろしかっ・・・」
ガシャンッ・・・!!
ん?
なんだ、何かが割れる音? 部屋の外・・・入口か?
それからすぐに何か声が聞こえる気がする。さすがに何を言っているかまではわからないが、何か困っているような感じだった。
「・・・申し訳ありません。少々お持ちを」
そそくさと席を立ち上がり部屋の出入り口へと向かう。
俺達に外の様子が見えないようにしているのか、扉を少しだけ開けて外へと出ていったぱっつん。
「・・・って・・・しょっ!」
「・・・すが・・茶・・・した方が」
「すぐ・・・て!」
ん~~~。
普通の人間ならここで黙ってる。普通の人間なら・・・。
バタンッ!!!!
俺は意味も無く強烈にうるさく、叩きつけるように、驚かすように、あのぱっつんがただただたじろぐようなそんな表情を見たいが為に。
扉を開いた。
「っ!?」
「レーグ様・・・ステキ」
「あら、お客様。ビックリしてしまいました」
目の前には割れた食器達、それを拾うとする家政婦? そしてその家政婦を止めようとしてるぱっつん。
もちろん全員が目を見開き今の事態を把握しきれていない。
よし!その顔だぱっつん。その顔が見たかったんだ。
もう満足!ってわけにはいかない。
「ふむ・・・誰もいない。説明はあるんですか? こちらとしてはその言葉を信じて、この屋敷に入ったつもりなんですが弁明があるなら聞きます」
「・・・・・・」
黙っちゃったか。ならならこっちにも手はあるぞーーい。
「初めましてお母様、自分は団長の友人のレーグと申します。主に商人として全国を回っている者です」
「あら、そうでしたか。娘がいつもお世話になっております」
お母様だったんかーーい。ちょっと冗談で言ったらまさかの大当たりかよ。危うく動揺する所だった。
にしてもお母様? 当主はぱっつんで・・・この家政婦みたいな人がお母様。ふむめちゃくちゃ訳ありっぽいな。
それにぱっつんの動揺が手に取るようにわかる。今考えを巡らせこの状況をどうやって打破しようかと考えてる面だ。
ん~む。なんだか乗ってきた。
「では、今日よろしくお願い致します。予定時刻前にここへ来ればいいですか? 2時間前くらいでいいですかね?
「ぁ・・・あぁ、よろしく・・・お願いします」
そうして、俺達はぱっつんさんに背を向け屋敷を後にした。
お母様には出来るだけ見えないように見えないように・・・俺の口角は最高潮にまで上がりきっていた・・・。
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