幼馴染


「幼馴染はな、やはりお互いの悪いところまで理解してなお……」

「そんなに幼馴染がいいんだったら、その子と付き合うなり何なりすればいいじゃない!」


隣の少女はこちらを睨みつけ、そう言い放つ。


学校からの帰り道、話題は最近学校で出来たカップルへと移った。

何でも彼らは幼馴染であり、長年の想いが成就したという。

親愛が恋愛へと変わる。素晴らしい。

それに感銘受けてしまった俺は幼馴染の良さを語った、語りすぎてしまった。

彼女の表情の変化にも気付かず。


「い、いや、俺にはそんな関係のやつはいない」

「探してみればいいじゃない、家の軒下にでもいるんじゃない」


猫か、何かだろうか。

宥めようにも彼女はこちらを見ず、ムスッとしている。


それにしても彼女には幼馴染がいたのだろうか。

もしいたとしたらそれは……少し寂しいな。

自分は同じ関係にはなれないのだから。

いや、あの手ならば。


「む、そうだ俺とお前で幼馴染になるぞ」

「なにいってんの、幼馴染欲しさで頭が狂ったの?」


心外である。俺はいつだって正気だ。


「いいか、幼馴染で最も重要なのは過去の共有だ。互いの過去に相手の姿がある。そこに他所が入り込む隙間はない。それがこの関係性のきもだ」

「だから私はあんたの幼い頃なんて知らないわよ……まだ、会ってないんだから」

「ああ、俺たちは互いの過去を知らない、だが、共有をしたとすれば…」


彼女の怪訝な顔はまだ崩れない。

そんな顔も可愛いらしいが、出来るなら笑顔を見たい。


「俺の子どもの頃の話をお前に話す、お前の話も聞く。そうすれば、互いの過去を知った俺たちは最早、幼馴染といえるのではないか」

「……」


ふっ、完璧に……頭が悪いな。

なんだ、昔話をすれば幼馴染になれるとは。

これはさすがに彼女もあきれかえっていること……。


「ふふっ」


む、笑ったのか?


「ふふ、ふ……あはははははははっ」

「そ、そんなにおかしいか……」

「馬鹿ね、昔話をして幼馴染になろうとか、あははっ」


彼女は腹を抑えて笑い転げている。目には涙さえ浮かべている。

何はともあれ楽しげで何よりだ。

代わりに俺の心が犠牲になったが……泣きはしないぞ。


「ふっ、冗談だ……」

「つまらないことでムカついていたのが馬鹿見たい、いいわ、話しましょ!」


なんだ、乗ってきたぞ。

だが、彼女は悪戯を思いついたようにニマニマとこちらを覗き込みながら言う。


「あんたの恥ずかしい過去、全部ばらしなさい」

「なっ、い、言えるわけないだろ」

「言い出したからには話してもらわなきゃ、私たちの過去を共有するんでしょ」

「ぐうぅ、仕方ないか。あれはな、小学校に入る前くらいだ……」


俺は恥ずかしい過去を話し、彼女は笑い飛ばす。

意外だったが彼女も同じように話してくれた。自棄になったかのように話していたがその横顔は、夕焼けより更に紅く染まっていた。


過去を共に過ごすことはできないが、語らい、思いを馳せることはできる。

それはきっと今、共に過ごす者の特権なのだろう。

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