友よ

宵闇(ヨイヤミ)

第1話

僕は昔から変わり者として扱われてきた。

最初は仲良くしてくれた友人達ですら僕の元を去り、いつかのように笑いかけてくれることはもうないのだ。願っても手に入らぬ物しか周りにはなかった。そんなこんなである七夕の日の夜に僕は星に“欲しいものを具現化出来るようになりたい”と幼い頃に願った。

するとどうだ。翌朝目が覚めた時に『消しゴムがそろそろ無くなるから新しいのが欲しい』と思ったら目の前に新しい消しゴムが出るではないか。僕はまさかと思い『今人気のあの番組のグッズが欲しい』と思った。すると目の前にそれがでてきた。『筆箱が欲しい』『新しいおもちゃが欲しい』色々思い浮かべてみた。その全てが具現化され目の前に出てくる。

幼かった僕はこれを周りに自慢したいと思った。まずは母にその事を話すが、子供の戯言だと思われたのか適当な返答をされる。実際に見せると母は驚いていた。次に父にそれを言う。やはり戯言だと思われたようだ。なので父にも同じように見せてみる。母と同じように驚いた顔をしていたよ。

学校へ行きみんなに話をした。

少しは興味を持ってもらえるのではないかと期待していたが、ここでも戯言だと思われてしまった。僕はそれが悔しくて、実際にそれをやってみせる。するとどうだ。やはり皆驚いた顔をするではないか。

それからは皆話しかけてくれるようにもなり、遊びにも誘ってくれるようになった。

だが大人になった今なら、それは僕がそういう力を持っていたから構ってくれていたのだと分かる。それが分からないほどに昔の僕は馬鹿だったのだ。

小学校を卒業し中学へ進学する。隣の小学校と合併し生徒が増える。そこでまた僕はこの力を見せると、また新しい友人ができた。しかしそれもこの力のお陰だろう。

そして次は高校へと進学した。

小・中学校で友達とそれなりに関わってきたお陰で、ある程度のコミュニケーション能力がついた。なので次はそれを活かそうと思い、力のことを回りに言わないようにした。

だが難しかった。コミュニケーション能力は確かについたはずだが、一言も言の葉を交わしたことのない人に話しかける方法を僕は知らなかったのだ。普段なら力を見せて欲しいと周りから言い寄ってくるものだから、自分から話しかけに行くことがなかった。

すると後ろの席に座っていた男子生徒が急に肩を叩く。なんだと思い振り返る。

「俺、木崎 司!お前、名前は?」

「僕は…坂村 健太」

「健太か。これからよろしくな!」

司と名乗ったその男子生徒は犬のような奴で、笑顔がとても明るかった。


それから僕は司とよく話したり行動したりするようになり、いつの間にか親友と呼べる程に仲が良くなっていた。

「健太さ、俺に何か隠してる事ない?」

「隠してる事?」

「うん」

「なんでそんなこと聞くの?」

「いやぁ、なんかあるんじゃないかなぁって思ってさ」

勘が鋭いやつだと、その時初めて思った。

ここまできたなら話してしまおうかと、そう思ったのだが、それを話した後にこの力目的で友達ごっこをされるのは嫌だった。初めての友人、初めての親友である司とそんな関係にはなりたくなかった。しかし此奴はそんな奴じゃないと心の中で思っている僕がいた。

「何かあるなら言ってごらん?俺ら親友だろ?」

あぁそうだよ。僕達は親友だ。僕もお前の事を親友だと思ってるし、良い奴だと確かに思ってるよ。

司の言の葉はどうやら僕の決断を惑わすようだ。言わないと決めていたが、僕の決断は司の言葉で揺らぎ、言うという決断に倒れる。

「実は……」

僕は全てを司に話した。この力のことや、小・中学校での事、何故話さなかったのかについて。ありとあらゆることを話した。

「俺がこんなことでお前を利用したりするわけがないだろ?」と、司は普段の笑みを浮かべて言う。やっぱり此奴は良い奴だと、僕は心の中で再確認した。


高校卒業後、僕と司は同じ大学へと進学し、奇遇なことに同じ学科を専攻していた。

そしてそれからの4年間も僕らは一緒に学び、同じ時を過ごしていた。


大学卒業後はお互いに違うところへ就職したものの、職種は同じだった。その事もあり僕らはよく飲みに行ったりもした。

その度に仕事の愚痴や、お互いの考えなどを話しては盛り上がっていた。


ある日、いつも通り司と飲んでいると、店に数人のサラリーマンが入ってきた。その中の一人が、僕と目が合うなりこちらに来るではないか。なんだと思いよく見てみると、小・中学校の同級生だった。久々に見ると顔が変わっているなぁと思う。

「久々だなぁ、健太!中学卒業以来じゃないか?元気だったか?」

「うん、元気だったよ」

「今でもあの力って使えんの?」

「使えるよ」

「なら試しに金てか出してみてくんね?」

「出来るかな…お金は試したことがないんだよ」

「じゃあ丁度いいじゃん!試しにさ、ほら!」

そういうので、僕は試しに“お金が欲しい”と思ってみた。すると目の前に封筒が出てきて、中を見てみるとそこには福沢諭吉が入っている。それも1枚ではなく複数だ。

それを隣に居た司が覗き見ていた。

目の前の同級生は封筒に入っていたのが分かったのか、こちらをずっと見ている。きっと、その金を俺にくれ、とでも考えているに違いない。それを察したのか司が急に立ち上がった。

「健太の同級生?」

「そうだけど、お前は?」

「俺はこいつの親友の司だ」

同級生は少し驚いた顔をする。そしてそれは笑みへと変わる。

「お前もこいつの力目当てだろ?こいつの力って便利だもんなぁ、欲しい物は買わなくても手に入るんだから」

あぁ、やっぱりなぁ。こいつそんなこと思ってたんだ。そりゃあそうだよな、僕はただの便利な駒に過ぎないんだ。でも司はそんなこと思ってない…はずだ……

「確かに健太の力は便利だよ」

「だろ?お前もそう思うだろ?」

「だがな、俺はそんな理由でこいつと仲良くしてるんじゃねぇんだよ。俺は、こいつが、健太のことが良い奴だって思うし、一緒に居て楽しいとか思えるから居るんだ。お前とは違う」

その言葉を聞いて僕は嬉しくなった。

司を信じていてよかった、少しでも疑った自分が馬鹿だった。もし過去に戻れるならそう思ってしまった時の自分を殴りに行きたい気分だ。

同級生は反論しても無駄だと思ったのか、仲間の待つ方へと去っていった。

「司、ありがとう。そう言ってくれて……僕、嬉しかった………」

「当たり前だろ?俺はお前の親友だ!力なんて関係ないんだからさ!」

涙が目から零れ落ちる。酒が入っているのが効いているのか、止まらない。いや、酒は関係ないか。今まで溜め込んだ物が涙に変換され、全てが流れ落ちているようだった。


店を出る頃には僕の目は赤くなっていて、少し酔いも回っていた。

タクシーで家まで送ってもらい、感謝を告げて僕は帰宅し、司も帰っていった。



本当の友人とは彼のような人のことであり、彼のような人が周りから評価されていくのだろうと僕は思った。


これは僕と彼の友情の物語であり、もう何百年も昔の話である。

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友よ 宵闇(ヨイヤミ) @zero1121

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