オノノペタマルの生態について

@azuma123

第1話

 荒川に生きる動物に、オノノペタマルという魚がいる。あまり見られることのない生物のため、世界ではツチノコ同様、未確認生物として扱われることがほとんどだ。しかし、オノノペタマルは実在する。これは、わたしが見たオノノペタマルの生態の記録である。

 オノノペタマルは荒川、それも、水の濁った場所にしか生息しない。体長は幼体で一センチから三センチ、成体で三十センチほどに到達する。見た目は小さいヒトのようで、頭が一つに手足が二本ずつ。頭部前面には目が二つと口一つ。首元にエラがあり、立ち泳ぎのような姿で淡水を遊泳する。成長し、どれだけ早く泳いでも、速度は毎秒二センチほど。これは、クラゲの泳ぐ速度と同じくらいである。オノノペタマルは主に、水中深くにある水草を食べる。たまにアメンボや小魚を捕食する個体もいるが、泳ぐ速度が他の生態に比べて著しく遅いこと、また、筋肉が発達しておらず非常に軟弱であることから、おおむね捕食される側の生態だ。そのため、あえて水の濁った場所で暮らし、その姿を隠していると考えられる。おそらく、現在生存している個体も、多く見積もって百匹程度だろう。

 わたしはこのオノノペタマルをより詳しく調べるため、荒川にて数週間、キャンプを行った。まずはオノノペタマルとの良好な関係性を築くため、彼らの好きな水草を持ち寄る。彼らの生息していそうな場所を確認し、そこに水草を沈める。水草には手紙を結び付け、そこには陸にキャンプ地を張っている旨と、生態確認に協力いただきたいという依頼を記載した。投入した一日目に動きはなかったものの、翌日、複数のオノノペタマルが水面に頭を出していることを確認。生態から、彼らが小心者であると推測できるため、恐怖心を煽らないようこちらからの行動は控えることにした。それが功を奏したのか、しばらくすると、彼らは一匹のオノノペタマルの死骸をこちらに投げつけてきた。死骸を手にとったわたしに、オノノペタマルの一匹が言う。「それが我々の身体である。調べればよろしい」

 わたしは彼らから許されたのだ。急いで研究チームの仲間に連絡をとり、オノノペタマルの死骸を手に入れたことを伝えた。わたしの仲間はすぐに荒川に駆けつけ、死骸が入ったクーラーボックスを回収する。これで、オノノペタマルはめでたく未確認生物から外れ、その個体の少なさから保護動物として認められることだろう。しかし、だからといってこれでキャンプを終えてしまえば、結局、オノノペタマルにとってわたしは、死骸を持ち帰っただけの人間となる。そんなことでは申し訳ない。わたしはこのままキャンプを続けることにした。彼らへは、予備にとっておいた水草と感謝の意を記した手紙を用意し、一度目と同じ場所に沈める。数時間経過したのち、オノノペタマルが十匹ほど水面に頭を出していることを確認した。

 そのあとすぐに、先ほど死骸を回収していった研究チームの一員がこちらに戻ってきた。なにか、慌しげに叫んでいる様子。彼の言葉が早口すぎて、わたしにはよく聞こえなかった。彼に何を言ったのかを聞き返そうとした、横目に、オノノペタマルの大群、おそらくゆうに千匹は越えているだろう大群が、陸に上がってきていることを目視。


 彼の手記はここで終わっている。

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