33.オーランド君の看病に行くようセリカが説得される話

 オーランドが手当てを受ける一方、騎士たちはゴトフリーと、なぜかここにもいたデリックを追い詰めていた。


「教会に歯向かう気か! そこの! よろいの装飾からして副団長! 答えろ!」


 名指しされた騎士―—副団長は首をかしげる。


「いいえ? 皇太子殿下とオーランド様は教会からは、大聖堂に教会の馬車で出頭しろ、と言われただけです。ここは大聖堂なんかじゃなくて、王都から南部州、ズーデンに向かう主な街道の、さらにそこからも外れた野原の中じゃないですか」


「それがどうした!」


「大聖堂にお二人を向かわせよ、という教会の意向を無視して、二人を連れ去ろうとするぞくにしか見えませんよ。本当に、教会は独断で皇太子を暗殺しようとする恥知らずや、領主と皇太子を誘拐ゆうかいしようとする勝手な連中を抱えて、本当に神の代理人なんて、名乗れるのでしょうか? 少なくとも、中下級貴族は皇太子を暗殺しようとした教会に、不信感を持っていますよ?」


「教会は、教会だから意味があるのだ!」


「そもそも、アルス王即位を認めた時点で教会に反発する人間は結構いた、ときいていますが……不思議なことに、皆様急病で亡くなっていますね? 王都では、よく病気が流行るようですから、ゴトフリー様が『病気』で亡くなられても、おかしくないですよね?」


「逃げましょうゴトフリー様!」


「もう無駄ですよ。二人まとめて丁重に我々のもとで保護させていただきます」


 二人は騎士に連れられ、馬に乗せられて王都の方へ連れていかれた。


 それを見届けた副団長は、オーランドのもとに馬を進ませる。


「オーランド様の容態はどうですか? レミーさん」


「フォーサイスさんに俺が預かっていた薬箱からいろいろ出して、治療してるんすけど、良くなっているようには見えないんすよ」


 レミーは真っ青な顔色のオーランドと、その横で懸命の治療をしているフォーサイスを見下ろす。

 フォーサイスはオーランドの血を抜いては輸血を繰り返し、毒を抜こうと試みている。


「やめてくれ母上……父上の言いつけ通りにいい子にしていますから……だからやめてください……カーラ、許してくれ……だからやめてください」


「オーランド様? フォーサイス様の治療は適切なのでしょうか?」


「騎士さん、どうも、オーランド様は毒のせいで正気を失っているらしい。こんな感じになっているのは、フォーサイスさんが来る前からだ」


 フォーサイスに疑いの視線を向ける騎士に、レミーは弁解する。


「おそらくディアナに口を割らせる薬を塗った剣で少量斬りつけるつもりだったが、それが大量に体内に入ってしまったのでしょう」


 フォーサイスが分析する。


「オーランドの毒ってなんなの?!」


 馬車の中から、おそるおそるディアナが出てきた。


「ごま油のような香りがしたので……おそらくは……チョウセンアサガオではないかと」


「なにそれ?」


「ダチュラ、とも呼ばれます。猛毒を持つハーブです。うまく調合出来れば体を切り裂いて病巣を取り出しても目覚めない眠り薬になりますが、基本的には、毒です。薬の効きはじめに興奮状態になる人もいることから、口を割らせるための自白剤じはくざいとしても使われます。解毒剤は……あるにはあるのですが、同じくらいの、猛毒です。私では扱えない」


 フォーサイスの説明に「なるほど、だから最善策として、毒が入った血を抜いて、血を足していると」と、騎士。


「打つ手なしですね……一旦、帰りましょう」


 オーランドが毒に倒れ、彼が滞在中の屋敷へ搬送されたとセリカが知るのは、ディアナが王城に戻ってすぐのことであった。

事の顛末を聞いて真っ青になるセリカ


「……治るの? もしかして命の危険あるの?」


「わかんない……自発呼吸があって、脈がしっかりしてるから、すぐ死にはしないだろう、ってフォーサイスさんが」


「チョウセンアサガオの毒が血管に……どうしたらいいの、間違えて食べた時に吐きださせろってことしか知らない……でも、呼吸と脈があるなら大丈夫なのかしら? ねえ、意識はあるの? あ、起きてるかどうかってこと」


「よくわかんない。ずっとうわごと言ってる、ってフォーサイスさんが言ってたから、正気じゃないのかな?」


「なんて言ってるの?」


「なんか、ずっと謝ってるって……合間合間にカーラ、カーラって言ってるって」


 セリカは目を見開く。

 驚いているような、悲しんでいるような、なんともいえない表情にディアナにはみえた。

 どんな言葉をかけたらいいのかディアナが迷っているうちに、突然レミーが頭を下げた。


「セリカさん、頼みがある、オーランド様のとこ見舞いに行ってやってくれないか、オーランド様がやられたの俺のせいなんだよ」


「……私が行ったって解毒剤にもなんにもならないでしょ」


「……あんまりわかってもらえないかもしれないが、惚れた女がそばにいるだけで男はすごく嬉しいもんなんだよ。行ってやってくれよ」


「別にそんな仲じゃないし」


「あんたがそうじゃなくてもあっちは滅茶苦茶そうだよ!人助けだと思って行ってやってくれ、頼む!」


「ディアナは、どう思う? 私と、オーランドの関係について」


 セリカはディアナに話を向ける。

 レミーの考えはディアナにはよくわからないが、男同士だけで通じる理屈があるみたいだ、というのは、仲が悪かったはずのレミーとブレナン先生がなぜか男二人の話し合いで意気投合したことで知っていた。

 それに、毒だ。オーランドが命を落とす可能性だってある。


「わからない。だけど、危険な状態だし、最悪の場合、最後の顔合わせになってしまうかもしれないから、会いに行った方がいいんじゃないかな?」


 セリカ、口ほどオーランドの事、嫌いじゃないみたいだし。

 ディアナの言葉にセリカはため息をつく。


「……わかった。行くわ」

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