シンデレラ 幸せ調査隊

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シンデレラ 幸せ調査隊


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 ・・・こうしてシンデレラは、王子様と結ばれ、幸せになりましたとさ。めでたしめでたし。



 で、終わった物語でありましたが、果たしてその結婚生活は幸せなものなのか?疑念が沸き起こり、我々調査隊三名は、その結婚生活の実態を調査すべく、城の使用人として潜入し、探ることになった。




 国民に見守られながら、国を挙げての結婚パレードを終えてから三年の後――――



  当時、城に住むことを許されていたのは……

 

 王様とその妻であるお妃、皇太子(第一王子)とその妻であるシンデレラ、第二王子、第三王子であり、各々に仕える使用人と料理人、雑用係であった。

 しかしこのうち第二王子は、第一王子の結婚パレードを見届けた後、城を出ていた。


 シンデレラは、貴族の娘という事で迎え入れられていたが、その家庭に於ての扱いは使用人かそれ以下のものであった事は、実は我々しか知らない。それ故シンデレラの言動に、皇太子を始めとする城の住人は疑問を抱く所が多かったようだ。


 何しろ、城の掃除やら皆の食事の支度、洗濯といった雑用事をいちいち手伝いたがった。貴族の娘がおおよそ嫌がるような事であり、普通であれば使用人の仕事であるにも係わらず、だ。


 晩餐会に於ての立ち振舞いも、皇太子妃に相応しくない低頭平身な様は、王族とは思えず、寧ろ恥さらしでしかなかった。



 そんなシンデレラに、皇太子は少々嫌気がさしていた。

 シンデレラが雑用を手伝いたがる事は、使用人にとっても有り難迷惑な事で、シンデレラをどう扱ってよいか頭を悩ませていた。


 城内で浮いていたシンデレラを、唯一理解していたのは、シンデレラと年の近い、第三王子だけだった。

 第三王子もまた、王子でありながら三番目という事で、その存在はあってもなくても良いものであり、城内では使用人に近い扱いを受けていた。

 


 これは、当然キナ臭い。何か匂う。

 それを察知した我々の主人が、我々を調査に向かわせたのだ。 




 皇太子25歳、シンデレラ20歳、第三王子19歳となっていた。

 寒さも和らぎ、草木が芽を出し始めた冬の終わりに、事態は急展開を迎えた。いや急展開というよりは、見えない所でほつれていた糸が少しずつほどけ、修復しないまま、気が付いた時には縫い目だけを残しバラバラになってしまった、といった所だろうか。



「・・・王子、私はこの城に、皇太子妃に相応しくなくない存在のようです。どうか私を、城から追い出して下さい」


 シンデレラは皇太子に懇願する。


「何を言い出すんだ。君は、僕の大切なきさきだ。君を追い出すなんて事、出来るわけないだろう。」


 皇太子はシンデレラを説得しようとするが、その発言の裏側には、皇太子のある思惑が働いていた。皇太子が離婚するなどという事は、王族存続に関わる不名誉な事。そんな決断を簡単に下せるはずがなかった。

 愛している振りをしながら、シンデレラを妃の座から降ろす方法。王家の家紋に傷を付ける事なく、シンプルかつ誰も疑う事のないような方法。ある程度算段はついていた。


 これは、第一王子としてのプライドも掛けた戦い、とも言える作戦であった。


 


 我々調査隊の潜入捜査がなければ、恐らくは何の疑問もなく見過ごされたであろう幸せな結婚の、その結末。

 変えることの出来ない人のさが、それが、運命を変えるのか――――




 城門から城へと続く、客人を迎える長い道。その道の両側には美しく整えられた草木、花壇がある。管理しているのは当然庭師であるが、今日もまた、シンデレラと第三王子は草むしりをしながら談笑していた。

 そんな姿を、客人に見られてはいけない。そんな事も分からない二人を、宮殿から見ている皇太子。その眼差しは、まるで殺気を帯びているかのように冷淡なものに見えた。


 仲睦まじいシンデレラと第三王子。誰の目から見ても、二人が互いに想いを寄せている事は明らかだった。

 シンデレラは城を出て、第三王子と結ばれる事を願っていたに違いない。第三王子もまた、同じ考えであった事は、想像に難くない。

 

 そんな二人の淡い純粋な心を、利用しない手はない。そう、皇太子は考えていたのだ。



 シンデレラから城を追い出してくれと懇願されてから数日の後、皇太子はシンデレラに提案する。


「お互いに少し、距離を置くために、第二王子の住む別荘へ行ってみないか?その間に考えさせて欲しいんだ。僕は君を愛している。追い出すような事はしたくない。けれど、君が幸せでないなら、僕は身を引かなければならない。急には無理だ。だから、少しだけ準備期間が欲しいんだ」


 シンデレラを心底心配し、想ってくれているかのような皇太子の提案を、シンデレラは受け入れた。



「それなら、別荘までの案内役として、第三王子を供に付けよう。あまり大事にはしたくないんだ。大勢の供を連れて歩くより、その方が君も気が楽だろう?」

 

 大事おおごとにせず、城を出る。シンデレラにとっては魅力的な提案であった。そう、第三王子と山に馬乗りの練習に行く、その程度の事として。今までも時々やっていた事。誰も何かを疑うような事はないだろう。


 早々に準備を整えた。荷物は最小限に留め、そうして二人はひっそりと城を出た。


 第三王子も当然の事ながら、何の疑いもなく寧ろ喜んでお供役を引き受けたのだ。別荘までの道のりを案内出来るほど覚えてはいない事も忘れ。

 念のため、地図は渡された。兄の用意した地図に疑いを持つ事などない純粋な弟は、言われた通りにシンデレラと二人、馬に乗り出掛けて行くだけだった。



 城を出てしまってからは、我々調査隊では追跡できず、我々調査隊の主人に報告し、その後の事は任せるより外なかった。

 


 

 二人が出掛けてから三日後、城内は葬儀の支度で慌ただしくなっていた。皇太子妃であるシンデレラと、第三王子が同時に亡くなったのだ。国内に於いては大ニュースだ。

 一部、駆け落ちかとの疑念を抱く者も現れたが、城内の使用人達は、二人は馬乗りの練習に山に行き、崖から転落してしまい帰らぬ人となったのだ、と口を揃えて証言していたため、不幸な事故だった、と王様や皇太子を憐れむ者が殆どで、お互い想いあっていた事を感じていた使用人達でさえ、疑う者はいなかった。


 しかし実の所、馬ニ頭の亡骸は見つかったものの、肝心なシンデレラと第三王子の亡骸は見つかってはいなかった。

 崖から転落し、その崖の途中に馬だけが無惨に横たわっていたが、二人はその更に下を流れる川へと落ちてしまった、そう考えられた為、遺体のないまま葬儀は執り行われた。





 我々は城を後にした。何も出来なかった。何の役にも立てぬまま、シンデレラと第三王子をみすみす死なせてしまった。後悔の念を拭いきれぬまま、主人の元へ向かった。



「よくやってくれたね。お前達。ありがとう」


 主人の口から、意外な言葉が発せられた。


「いえ、私たちは、何のお役にも立てないまま、お二人を……」

「そんな事はない。ご覧。二人の姿を」


 我々の主人は、目の前の水晶玉に映しだされたシンデレラと第三王子の様子を見せてくれた。

 


「元はと言えば、私がシンデレラに安易に魔法をかけてしまった事が原因。二人の命は、当然私が守らなければならないもの。何が幸せなのかなんて、他人には分からないものなのにね。私が愚かだったわ。あぁ、それからね、馬も無事よ。安心して。大木を馬の亡骸に変えておいたの。」


「でもあれは、あの時はシンデレラに魔法をかける事が最善の策だった、と……私たちは思います」


「ありがとう。そう言ってもらえると、私も少し気が楽になるわ。それでもね、やっぱり考えさせられたわ。300年も生きてきたけど、その場しのぎの優しさは、かえって相手を不幸にしかねない。幸せも、優しさも、何年経っても難問なのよ」


「あの二人が、幸せに暮らしていけるといいですね」




 我々調査隊と、魔女である我々の主人は、しばらく水晶玉に映し出された二人の笑顔を見守っていた。





 おしまい。 

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