第85話.運命
「ふぅ」
とりあえず2人
さて、他にすぐに倒せそうなヒーローは……。
少なくともすぐに戦い始められる距離にはいないか。
「能見……!」
ん?
俺は自分の名を呼ぶ方へ振り向く。
「あぁ、新田さん」
「お前、いつからそんなに強くなったんだよ……」
唖然とした表情でそう呟く新田さん。
確かに、さっきの橘との戦闘で俺は大幅に強くなったな。
驚くのも無理は無いか。
ここまで急激な成長を遂げたんだしな。
まぁ、それは今までの積み重ねがあってのことなんだけど。
「まぁ、いつから……と言うと、きっかけになったのは新田さんを助けた時ですかね? その時の体験をさっきの戦闘でも発揮して、感覚を今掴んだってのが正解でしょうか?」
俺は自分の成長を分析する。
「そ、そうか。いつの間にか、お前に超能力の技術で負けてしまっていたようだ」
ショックを受けたような、でもそんなに落ち込んでいないような。
むしろ喜んでいるような、呆れているような。
苦笑いしているような、心底面白くて仕方がないと笑っているような。
そんな俺の眼からは伺い知れない様子を新田さんは見せた。
俺は新田さんを抜いたのだろうか?
昔見たあの新田さんの圧倒的強さを思い出すと、どうにも自分がその実力を上回っているとは思い
でも、それはやっぱり自分を客観的に見れていないだけか。
ま、そもそも俺はゾディアックに入ってから日が浅いからな。
入る前も、入った後も、努力を怠ったつもりはないし、胸を張って俺は強くなるための努力をしたと言える。
しかし、それが自分の自信になっているかというと、それは首をかしげざるを得ない。
やっぱり、自分が迷惑をかけた悪いイメージが頭の中に強く残り、自分は足を引っ張る側の人間だと思ってしまう。
って、これも悪癖だな。
俺は強い。
本部ヒーローをこの短時間で2人も倒したんだ。
自分の強さの分析とか、そういうのは今やるべきことじゃない。
「新田さん、指示をください」
「え?」
俺の言葉に対して、新田さんが普段に似合わぬ間抜けな声を出した。
「え? ってなんですか。隊長に指示を仰ぐのは当然でしょう?」
「あ、あぁ。そ、そうだな。悪い」
そう言って苦笑いをする新田さん。
深呼吸を一つした後、いつものような真剣な顔つきに戻ると、新田さんは静かに口を開き……。
「目指すはあの敵ヒーローの密集している場所。生憎と顔は見たことがないが、本当に竜ヶ峰紅夜がこの場にいるというのなら、常識的に考えてあそこだろうからな」
それを聞いて、俺は笑みを浮かべると……。
「つまり、指揮官を殺せば、大逆転勝利。このシンプルで相当に難易度の高いシナリオを選ぶってことですね?」
「ま、そういうことだ。行くぞ!」
俺の確認する問いに、無表情のまま頷くと、自ら走り出した。
テレポートを使わないのは、敵ヒーローにこちらの姿がバレバレだからだな。
俺もその後を追って、地を駆ける。
にしても……。
新田さんは星川の過去を知らないはず。
まあ、副隊長だし、俺の知らないところで星川の過去についてはある程度把握されている可能性はあるが。
それにしても、星川が竜ヶ峰紅夜を倒したいと考えていることまでは流石に知らないはずだ。
あの話をしたのは、休日にプライベートで偶然出会った時だからな。
一ノ瀬さんが竜ヶ峰紅夜を倒したいと思っているのは知っているだろうか?
まぁ、一ノ瀬さんの方は、6番隊の元隊長だし、最低でも噂程度には聞き及んでいるだろう。
でも、俺が一ノ瀬さんに竜ヶ峰紅夜を倒してくれと言われていることは知らないはずだ。
あれは、わざわざ一ノ瀬さんが人払いをしてまで、俺にのみ伝えた話だからな。
だというのに、ここに来て6番隊の目的と、俺の目的。
その両方が噛み合っている。
全く、これが運命の悪戯ってやつか。
柄にもなく、そんな非科学的なことを考えてしまう。
「おい、能見。ボーっとしている場合じゃないぞ。もう敵は目の前だ」
おっと、そうだった。
そんな自分の世界に入り込んでいる場合じゃない。
俺は懐にしまいこんであるナイフを取り出し、鞘から抜き放つ。
敵もこちらを完全にロックオンして、今にも乱戦が始まりそうな雰囲気が漂う。
敵だけじゃない。
味方も、こちらの動きを察知して、参戦しようとしている。
優に100を超えそうな数が、すでに半径30mほどに集まっている。
一ノ瀬さんを失ってしまった、ついこの前のゾディアックアジト前での乱戦が嫌でも重なる。
クソ、あの時とはもう違うってのに……。
不安のような、嫌な感情が胸の奥からせり上がってきそうになる。
「……ふぅ」
眼前の敵に視線を固定したまま、軽く息を吐く。
そして……。
「「かかれ!」」
敵の部隊長と思われる男と、新田さん。
双方の号令に呼応し、一斉に敵味方が動き出した。
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