第84話.来光

「奴の居場所が分かったぁ!?」


 さっきから驚いてばかりだな。


 この人。


 ま、俺が自覚できてないだけで――いや、自覚している以上に、俺のもたらさんとしている情報が大きいってことだろうけど。


「はい、奴は今現場に出てきて自ら指揮を執っているようです。場所は想像がつくかと思いますが……」


「ハーラルアジトか」


 新田さんが俺の言葉を遮って、回答する。


 流石新田さん。


 頭の回転は相変わらず速い。


「そうです。そこでやつは指揮をしている。つまり、このまま俺たちが目指す場所へ向かえば……」


「奴に会うことが出来るのか」


 そう。


 俺は今回の戦いが始まる前から、竜ヶ峰紅夜を倒そうとしていた。


 そして今、それが徐々に徐々に現実味を帯び始めている。


 居場所を知った、情報を得た。


 あとは倒すだけ。


 しかも、それがまさかゾディアックの目的とも重なっているとはね。


 運命なんてものは信じたことが無かったが、そんな言葉が頭を過ってしまうほどに出来すぎた話だな。


「そういうことなら、さっさと行くか。ここでのんびりしていても仕方がない」


 すでに6番隊のメンバーはそろっている。


 橘との戦闘に加えて、情報を手に入れるために拷問もしていたからな。


 一番俺が遅い。


「分かりました。方向は……えーっと、どっちでしたっけ?」


 橘との戦闘に集中しすぎてそんなことすらも忘れてしまった。


「はぁ……。そっちだよ」


 新田さんは呆れたようにそう言って、指をさした方向にテレポートを使った。


「ははは、すみません」


 俺は苦笑いをして、新田さんについていった。




----------




「うわ、すでにかなり大規模な戦闘が始まっていますね」


 俺は建物の影から、ハーラルのアジトの前の様子を伺う。


 そこには、多く見積もっていた予想をも上回る数のヒーローと、建物内にこもり、必死に入り口を死守しようとするハーラル構成員の姿。


 そして、ハーラルアジトの入り口を包囲するヒーロー、それを包囲する、ゾディアック、レイス連合軍の姿があった。


 この規模の超能力者が、ここまで派手に戦闘を繰り広げているのは、見ていて実に壮観と言う他ない。


「しかし、これは援護しにくいですね。これだけ入り乱れていると、どこをカバーすればいいかもよく分からない」


「とりあえず、端から隙を見て削っていくしかあるまい。味方の邪魔にならないように戦うぞ」


「「「はい」」」


 新田さんの号令で、6番隊のメンバーが一斉に散らばっていく。


 俺も……。


 ナイフを構え、目についたヒーローに肉薄する。


 右から敵のカバー。


 標的は、まだ俺の存在に気が付いていない。


 距離は10mほどだろうか。


 分かる、全てが分かる。


 思考がクリアだ。


 焦りとか苛立ちとか、そういう余計な感情が全く存在しない。


 動きもいい。


 もしかして、橘と戦ってた時の感覚が残っている?


 いや、感覚が定着しているのか?


 ま、悪いことじゃないなら、今は気にしなくていいか。


 今やるべきことは、考えることよりも……。


「1人でも多くの敵を屠ること!」


 一気に敵の懐に潜り込み、ナイフを振りぬく。


 手ごたえあり!


「うくっ……!」


 俺がったと思った瞬間に、敵が呻き声をあげる。


「まずは1人……。ん……?」


 そう呟いた瞬間、背後から敵の気配を感じ取る。


 ガキィィ。


 金属と金属が強くぶつかる音がする。


「ッ!」


 腕に力を込めて、それを跳ね返す。


 そして、態勢を整えて敵の姿をはっきりと捉えて、俺はその姿に苦笑いを浮かべた。


 それは、敵ヒーローが手にしていたもの。


 ――ナイフ。


 なるほどね、普段は犯罪者にも慈悲を与えるヒーロー様も、今日は殺す気ってわけだ。


 面白い。


 それに……。


「今の俺なら、敵がナイフを持ってようが、丸腰だろうが、あまり大差ない!」


 敵が突っ込んでくる。


 距離を詰めながら、左手を使ったパイロキネシスの薙ぎ払いを行ってくる。


 だが、これは目くらまし。


 本命は……。


 右手によるナイフの攻撃!


 読める、読めるぞ。


 だったら敢えて左手から出したパイロキネシスの炎に突っ込む!


 しかし、ただ真正面から突っ込むのではなく、身体の姿勢を低くしながらだ。


 こうすることによって、相手のパイロキネシスを利用して敵から姿を眩ませて……。


「くっ……」


 敵が俺の姿を見失い、焦っているところに、テレポートだ!


 自分から目眩まし用のパイロキネシスを使わない分、テレポートのモーションに一歩早く移れる。


 これが、唯一の戦闘中に無理なくテレポートを使う方法。


 パイロキネシスは確かに、近接戦闘において最も使い勝手がいい超能力だ。


 殺傷能力もあるし、ある程度の距離ならば攻撃が届く。


 目眩ましにも使うことが出来たりと、小回りも利くしな。


 しかし、万能なものなど、俺は知らない。


 気づかれることなく背後への移動に成功する。


 そして……。


「っ……!」


 敵ヒーローのほんの僅かな呻き声。


 しかし、すぐに力を失い、物理法則に従って体が崩れ落ちる。


 心臓を刺した。


 即死だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る