第83話.目標との距離
「い、言う! 言う! だから……もう……やめて……くれ……」
「うんうん、それじゃあまずは、竜ヶ峰紅夜が普段何をしているのかを教えてもらうおうかな? 言っておくが嘘は混ぜない方がいい。こちらだって何も知らないわけじゃないんだからな」
最も、ここまでやれば、流石に嘘をついたりはしないと思うが。
「竜ヶ峰さんは――」
そう言って、痛みに顔を歪めながら、橘はゆっくり話し始めた。
橘の言うところによると、竜ヶ峰紅夜の就いている役職は、最高責任者兼、総司令官らしい。
最高責任者の役職については今は関係ないので割愛するとして、重要なのは総司令官の方だ。
この役職はその名の通り、起きた問題などを把握し、ヒーローたちに指示を出すのが仕事だ。
だから普段は、ヒーロー本部にこもって仕事をしている。
そのため、よっぽどの事でもない限り、現場へは顔を出さない。
しかし、現在は非常事態という事で、現場にて直接作戦の指揮を執っているようだ。
そして、橘は右腕として、ハーラルへの援軍を送ろうとする俺たちゾディアックの妨害の任務を任されたわけだ。
って、橘のことは今はどうでもいいな。
にしても竜ヶ峰紅夜。
戦場に赴いているとは……。
こりゃ、まみえることくらいはできそうだな。
戦うことはできるだろうか?
しかし、総司令官ならば、その周囲には沢山のヒーローがいて、守っているだろう。
それを突破して竜ヶ峰紅夜の
何人ぐらいいれば行けるだろうか?
いや、それは今1人で考えても仕方のないことか。
それよりも、聞き出しの続きだ。
次に聞くべきは……。
「竜ヶ峰紅夜ってのは、戦闘能力自体はどうなんだ?」
俺がそう問いかけると、橘は急に元気を取り戻したように、ニヤリと笑い……。
「ふっ、あの人は俺なんかより全然強い。もし戦おうと思ってんなら、瞬殺されるのがオチだぜ。なにせ……」
少し間を開けて、橘は言葉を紡いだ。
「あの人は世界最強の超能力者だからな。神にも等しいとすら思えるよ……」
----------
「能見……!」
新田さんの姿が視界に映る。
俺はそれを見つけるなり、すぐにテレポートを使って新田さんの
「すみません、遅れました」
「いや、それは一向に構わないが……それより無事だったのか。かなり時間が経っているので心配したが……」
かなりって……そんなに経っているのか?
俺はポケットからスマホを取り出して時間を確認する。
おおっ、マジかよ。
新田さんたちと別れて戦い始めてからもう30分以上経過していたのか。
戦闘中は時間がかかりすぎていると焦っていたけど、これほどの時間が経っているとは思わなかった。
「す、すみません。まさかここまでとは……」
「いや、だからそれはいいって……。で、敵は倒しきったのか?」
「あ、はい。竜ヶ峰紅夜についての情報も得ました。連れて帰るのも難しいと思い、自分が知りたい情報だけ得たらトドメを刺してしまいましたが」
多少時間をかけても連れて帰ったほうが良かっただろうか。
今は非常事態だし、時間の方が大切かと思ったのだが……。
それとも、橘の処遇については新田さんに聞いた方がよかったか?
でも、その間に逃げ出されたりでもしたら大変なことだしなぁ。
そこそこ痛めつけたとはいえ。
「……りゅ、竜ヶ峰紅夜の情報を得ただと……!?」
それに対して、新田さんが固まって、驚いたような表情で尋ねてくる。
「そうですけど……。あれ? 何か問題ありましたか?」
「いや、問題は全くないが……。ゾディアックも竜ヶ峰紅夜については長年探ってきた。しかし、それでも未だ奴については謎に包まれている。一体誰から情報を得たというんだ?」
「いや、なんか右腕を自称するやつを倒して拷問したら吐いてくれました」
まあ、そんな簡単ではなかったんだけどね。
「な……! つ、つつつまり、お前は竜ヶ峰紅夜の右腕を1人で倒したというのか?」
いや、そこまで動揺しなくても……。
確かに俺が橘を倒せたのは奇跡にも等しいことであるけれど。
……って、今になって冷静に考えたら、マジで奇跡だったな。
新田さんが、この信じられないような表情をするのも納得だ。
「まぁ、そうですね。ほんと、奇跡的に……」
ぽかん、と新田さんは口を開けたまま固まっている。
ははは、新田さんのこんな姿は初めて見るかもしれないな……。
やがて、新田さんは我に返り……。
「で、得た情報にはどんなものが?」
情報……かぁ。
「そうですねぇ……。色々聞きましたが、中でも最も重要な情報をまず教えましょう」
「最も重要……?」
「はい。竜ヶ峰紅夜の今の居場所です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます