第70話.制圧

 俺は、新田さんに問われた、敵ヒーローの人数について回答する。


 といっても、俺もはっきり数えた訳ではないので、そこまで参考になる回答は出来なかったが。


 それを終えると、見つからないように、しっかり転移先の周囲に人がいないかを確認する。


 そして、窓からテレポートを使う。


 まずは校舎内から出て、そこから道に移動。


 てか、この時間帯に制服を着たまま歩いていると危険だな……。


「寮に寄って着替えてから行かないか? のんびりしてる暇はないけど、必要経費だと思う」


「だねぇ。流石にうちの学校とゾディアックに関係があるとバレたら大変なことだからね」


 そうなんだよな。


 面倒ではあるが、俺たち超能力者からすれば、誰にもばれずに自室に忍び込むことなど訳ない。


 テレポートで窓の向こうに転移すればいいだけだからな。


「よし、じゃあ行こうか」


「おっけー。終わったらここ集合で」


 俺は頷いて、テレポートを使う。


 もちろん一発で成功。


 結構な距離があったが、今やあっさりと成功するようになった。


 俺も随分と成長したものだ。


 って……靴はいたままだったな。


 やっべ。


 まあ返ってきた後でしっかり掃除しておこう。


 ひとまず靴を玄関の靴箱に入れることだけはやっておく。


 そのまますぐに服を脱いでいく。


 えーっと、私服私服。


 思ったより手間取って2分ほどの時間を消費した末、準備が整う。


 その後すぐにテレポートで戻った時には、すでに星川が待っていた。


「あー、遅れた。ごめん」


 女子より着替えが遅い男って……。


「大丈夫。さ、行こっか」


 星川は周りを見渡すと、早速テレポートを使い、俺の視界から消える。


 俺もそのまま後を追うが、しばらく進んだところで……。


「ちょいちょいストップストップ」


 俺は前を行く星川を止める。


「ん?」


「いや、さっき教室から確認した時、結構な人数が移動してるのを見たんだよね。多分、前回よりも規模が大きいと思う。だからあんまり無警戒に進んでいくと大変なことになるかも」


「あー」


 ざっと見た感じ100は軽く超えてた気がするんだよな。


 いつも通りの道でアジトに向かうと、突然沢山の敵に襲われる可能性がある。


 星川は俺も未だに実力の底が分からないほどに強いし、俺も前回のヒーローとの戦いで一つレベルが上がったと思う。


 だから今の俺たちなら、例え多少の数のヒーローに襲われても大丈夫だ。


 しかし、あの人数は「多少」なんてものじゃなかった。


 流石にあの中に飛び込んだりしたら、一巻の終わりだと思うほどに。


「じゃあこの通りの一本右側に行った道を通ろうか」


 そう言って、星川は方向を転換する。


「いや、念には念を入れて、さらにもう一本奥の道を使おう」


「心配性だね。まあ間違ってないけど」


 俺の提案に、星川は苦笑いしながら頷く。


 この慎重策に意味があったかどうかは分からないが、少なくともその結果、アジトのすぐ近くまでくることができた。


 しかし……。


「……こりゃあ、とても中に入れそうなんてないね……」


 星川が苦々しい声で呟く。


 俺もこれには頭を抱えそうになる。


 そう、アジトはすでに大量のヒーローに入り口を制圧されていた。


 新田さんには、アジトに来い、と言っていたが、アジトに来るというのは、もちろん内部に来いってことだよな。


 でも、この状況でそれを試みるのはあまりにも無謀。


 どうしたものか……。


 いや、でも新田さんも、今ヒーローたちに入り口を制圧されているくらい知っているのではないか?


 攻められてると知ったら、とりあえず外の様子くらい確認しようと思うだろう。


「とりあえず、新田さんに指示を仰いでみよう」


 俺はスマホを取り出して、すぐさま新田さんに向けてメッセージを送る。


 10秒ほどで返信がやってきた。


『何がだ?』


 え?


 俺は、「アジトの近くまで来ましたが、どうすればいいですか?」というメッセージを送ったのだが、なんと回答は得られず。


 嘘だろ?


 この状況で外の様子をご存じない?


『え、知らないんですか? アジトの外を制圧されてるんですけど』


 俺はまさか、という気持ちで新たなメッセージを送る。


『知らん。俺も今向かってるところだし』


 え?


 あ……。


 そりゃそうだわ。


 すぐに忘れちゃうけど、新田さんって高校生なんだもんな。


 勝手にアジトにいるもんだと思ったけど、学校にいたんなら知らないのも当然だ。


「ねぇ、どうだったの?」


「いや、回答は得られなかった。新田さん学校にいるからね」


「あー、そういえば」


 再び途方に暮れているところに、さらにスマホの通知が届く。


 それは新田さんの追加のメッセージだった。


 内容は……。


『待ってろ。もう着くから』

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