第71話.決断

「おお! 新田さんがそろそろ来てくれるって」


 俺は一気に安心感が出てきて、喜びの声を上げて星川に伝える。


 しかし、星川のテンションはあまり変わらない。


「いや、でもさ、新田さんが来てくれるのは頼もしいけど、流石にこの人数はどうしようもならないでしょ」


「…………」


 俺は、星川に言われたその言葉に、一気に現実に引き戻される。


 それな。


 100人相手に2人も3人も変わらない。


 いや、新田さんは鶴城さんと来ると思うから、4人か。


 それでも変わらない。


 いかに新田さんが強いと言えども、1人で何十人何百人を相手取ることが出来るわけがない。


 一気に喜から哀へ。


「はぁ……マジかよ……」


 俺は落胆して大きくため息をつく。


 そんな時……。


「うわ、想像以上にえぐいな」


「え?」


 後ろに新田さんが現れた。


「どうするんですか? あれはとても4人じゃ突破できませんよ」


 あの数のヒーローを相手にするには、せめて今の10倍の人数が欲しい。


 この数字でも最低ラインと言ったところだが。


「だな。内側からカバーを貰うか」


 そう言って新田さんはスマホを操作し始める。


 なるほど、内側から援軍を頼むのか。


 でも……。


「いきなり全面戦闘をするんですか? もう少し、守りに徹しつつ情報を集めるとかして、じっくりと進めた方がいいのでは?」


「あぁ、俺もそう思うし、多分空さんはその作戦で行くはずだぞ。あの人は堅実なタイプだからな」


 え……?


「じゃあ何故……?」


 100人のヒーローと戦闘したら、そんなじっくりなんて展開にはならなくなるだろ。


「いや、お前は何か勘違いしていると思うぞ」


「勘違い?」


「あぁ、俺はカバーをしてもらうとは言ったが、ヒーローと戦うなんて言った覚えはない。最も、多少の交戦は免れないだろうが、戦闘は必要最小限にするつもりだ」


 よくわからない。


 どういうことだ?


 俺のそんな心中を読み取ったのか、新田さんは軽くため息をついて……。


「簡単だ。まず俺たちがヒーローたちの待機している場所のど真ん中にテレポートするだろ? で、んなことをすれば当然敵が俺たちを殺しに来るだろ?」


 当然だな。


 って待て待て、んなことをやろうとしているのか?


「そこで、俺たちはアジトの入り口の方に逃げる。敵はそれを追う。そしてこのタイミングで、中から味方に出てきてもらうんだ。入り口は狭いから、例え戦闘になっても人数差による不利は無い」


 なるほど。


 新田さんにこうはっきり言われると、成功してきそうな気がするが、騙されてはいけない。


 こんなの所詮机上の空論。


 そんなものに命を預けられる訳がない。


「……本当にそんなに上手くいくんですか?」


「俺が信じられないのか……?」


「…………」


 いや、答えづらすぎる。


 正直、本心でその問いに答えれば、当然「yes」になるわけだが、そんな馬鹿正直な回答できるわけがない。


 新田さんはかなり信用してるけど、それでも何年も共に過ごしてきたというほどの信頼もない。


 まだ出会って2か月くらいだ。


「なるほど、沈黙が答えか。実に分かりやすい回答だ」


「っ」


 ですよねー。


 あそこで黙り込んだら、肯定してるのと同義ってのは俺にも分かる。


「まあ、それは当然の事だから良い。ところで、お前にすでに選択肢がないってことは気が付いてるか?」


 突然そんなことを言って、左側を指差す。


「え?」


 何を……、と思って、俺は新田さんの指差した方向を見てみると……。


「っ……!」


 声が出そうになって、慌てて口元を手で抑える。


 視線の先には、なんと追加のヒーロー集団がいたのだ。


 おいおい、冗談だろ……。


 すでに十分以上の数が揃ってるだろ……。


 さらに追加って……。


「……なるほど……これはヤバいですね」


 額から一筋の汗が流れるのが分かる。


 のんびりしてたら状況は悪化するばかり。


 そういうことか。


 どうやら覚悟を決めなくちゃならないようだ。


「分かりましたよ。で、具体的な作戦は?」


「いや、そんなもんねぇよ。てか、具体的かどうかは置いといて、さっき作戦の概要は言ったろ? アジト内からのカバーについてはすでに話がついている」


 マジかよ。


 てかいつの間に連絡とってたんだ?


 全然気が付かなかった。


 はぁ、仕方ない。


 もうこうなったら死ぬ気で行くしかないな。


 実際に死にそうなところが笑えないが。


「じゃあ行くぞ!」


 そう言って新田さんがテレポートしていく。


 それに星川も続いた。


 最後に俺も、テレポートしたくないと叫ぶ本能を押さえつけて、危険に身を投じた。

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