Final episode
第66話.目的
「一ノ瀬さん!」
ロックの掛かっていなかった医務室の扉を乱雑に開けて、俺は医務室の中に足を踏み入れる。
しかし、中に入ってみていざ顔を上げてみると、すでに大勢のゾディアックの隊員が集まっていた。
その中には星川を含めた俺以外の6番隊メンバーもいる。
てか今日普通に学校あったろ。
俺は帰りのHRが終わってすぐに来たはずなのに、その俺よりも早いってどういうことだよ。
他にも、代表者ミーティングで顔を覚えた、隊長連中もほとんど揃っている。
中でも驚きなのは、桐原さんもいることか。
一ノ瀬隊長と桐原さんは、複雑な過去があって仲が良くないって聞いていたんだけどな。
なんだかんだ表面的には仲が悪くとも、内心では何かあれば、心配にはなるのかもしれない。
「お、能見か」
入室するなり、周りを見渡して色々考えていると、一ノ瀬隊長に声を掛けられる。
そう言ってきた一ノ瀬隊長は、前日重傷を負った人物とは思えないほど元気な顔つきをしていた。
よく分からない医療器具を沢山体に着けてはいるものの、身体も起こしている。
だからって、俺の罪が消えるわけでもないが、それでも少しホッとしてしまう。
「あの、すいません、一ノ瀬隊長。俺が余計なことをしたから……」
まず、開口一番に出た言葉は、これだった。
別に、謝っておかないと怒られる、などと言う考えが働いたから言った訳ではない。
ただ、心の底から申し訳ないという思いが沸き上がってきたからこその言葉だった。
「いや、余計ってことはないだろう。お前は自分の無力さを分かったうえで最善のパフォーマンスを発揮した。それでもあいつらには届かなくて、それで俺が勝手に助けた。それだけだ」
その声音は淡々としていた。
励ますでもなく、ただ、事実を冷静に告げているような。
だが、俺はその言葉に凄く救われるような思いがした。
「それにな。俺は俺自身が怪我をしたことで生じる不利益よりも、お前を守ったことで得られる利益の方が大きかったと思うぞ。結果論ではあるかもしれないがな」
そう……なのだろうか?
俺は、一ノ瀬隊長に守ってもらってから、敵ヒーローを1人しか倒せていない。
一ノ瀬隊長が無事だったら、俺よりも遥かに多くの敵を倒せていたに違いない。
「分かってねぇな」
しかし、俺がさっきの一ノ瀬隊長の言葉について考えていると、不意に一ノ瀬隊長がそう言った。
「え?」
「表情からもうお前の考えていることは分かる。大方、俺が無事だったほうが、お前が無事の場合よりも多くの敵を倒せていたとかだろ?」
「……!」
図星だった。
てか俺ってそんな表情から考えていることを読み取られるほどに、分かりやすい奴なのだろうか。
「確かにその考えは間違っていないだろうな。流石にお前よりも俺の方が強いのは、俺の驕りではなく、客観的な事実だ」
「だ、だったら……」
何も間違えではないではないか。
そう言おうとしたが、一ノ瀬隊長は俺の言葉を遮って……。
「でも! お前は一つ肝心なことを忘れている」
「肝心な……こと……?」
「そうだ。何より、俺がお前を助けたことで、お前が『生きている』じゃねぇか!」
「……!」
そして一ノ瀬隊長は、付け加えるように「ついでにお前が俺を助けてくれたので、俺も生きている」と言った。
ま、一ノ瀬隊長を俺が救えたのは、相当運が良かったから、一ノ瀬隊長が最初に言ったように、完全なる結果論だがな。
俺は、一ノ瀬隊長の言葉に、涙を流しそうになり、ぐっとこらえた。
「ありがとうございます」
そして、礼を言ったのだった。
その後は、色々他愛もない話を他の集まった人たちとして、去ることになった。
俺も、最後尾で他の人たちについていくように部屋を出ようとしたが、その直前……。
「なぁ、能見」
「なんですか?」
一ノ瀬隊長に引き留められて、俺は足を止めて振り向く。
「悩んだんだが、お前にだけあることを話したいと思うんだ」
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「はぁ!」
アジトから帰ってきて、飯を食って風呂に入ってと、
高校に入ってから――正確にはゾディアックに入ってからはいつもこんな感じだ。
さて、疲れてるし寝るか。
俺は立ち上がると、部屋の照明を落として再び床についた。
そのまま目をつぶれば睡魔が……襲ってくることは無かった。
眠れねぇ。
ベッドに入って20分ほどして、俺は思った。
うとうとすらもしない。
体は疲れている。
それは間違いない。
だというのに、一向に眠くはならないのだ。
思い当たる節はある。
それは、興奮だ。
昨日は俺がゾディアックに入ってからの日々の中でも、間違いなくダントツで一番色々あった日だった。
いいことも――悪いことも。
だったら、昨日はもっと眠れないはずだろ、と言いたくなるだろうが、昨日はそんな興奮を上回るほど疲れが半端じゃなかった。
けど、今日は適度に疲れている程度で、疲れよりも興奮が勝っている。
そんな感じなのだ。
あと、今日医務室を出る直前に引き留められた一ノ瀬隊長の話。
あれも衝撃がデカかったな。
今も6時間以上経った今でも動揺しているほどだ。
ゾディアックに入った当初は、ただ憧れていただけで、別に何か具体的な目的があった訳じゃなかった。
でも、色んな人と関わって、色んなことを知って、今では入ったばかりの頃の軽いノリなど微塵もない。
一ノ瀬隊長のあの話を聞いて、達成しなくちゃいけない目的が出来てしまった。
ヒーローとの戦争は、一時休戦となった。
向こうも軽くない被害を受けているからな。
でも、この平和はすぐに破られる。
その時のために、俺はさらに強くならないといけない。
すべては、「竜ヶ峰紅夜を殺すため」に!
そう思ったら、何故かスッと冷静になっていき、俺は眠りに落ちた。
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