第64話.援軍

「なっ……!?」


 敵ヒーローの声。


 やはりこの攻撃には対応できないか。


 正直、確信しているとは言いつつも、やはり僅かに不安は胸の中で渦巻いていたからな。


 そして……。


「ぐっ」


 視界は塞がれていて、敵ヒーローの姿は見えないが、呻き声と、手に伝わってくる確かな感触で、俺は自分が勝利したんだと理解した。


「一ノ瀬隊長は、返してもらう」


 俺は、ヒーローに最後にそう言って、トドメを刺した。


「ふぅ」


 激闘が終わり、俺は安堵の息をつく。


 しかし、勝利の余韻に浸っている場合じゃないんだよな。


 大変なのは、今までよりも、むしろここから。


 俺は、床に寝転がっている一ノ瀬隊長を担ぐ。


 まず、動けない一ノ瀬隊長を連れて、本部アジトに帰らなくてはならない。


 目指すべきは、本部の医療室だ。


 本部の医療室は、最新鋭の医療設備が整っている。


 医師の腕も最高クラスだ。


 だから、あそこに戻れば、大体のケガなんかは何とかしてくれるはずだ。


 だが、問題はそこじゃない。


 まず、俺が一ノ瀬隊長を連れてテレポートを何度も使用しないといけないところ。


 まあ、これだけなら何とかなるだろう。


 しかし、本部アジトの前では敵がわんさかいる。


 あの中を、動けない一ノ瀬隊長を連れて抜けるのは、はっきり言って無理だ。


 でも、それでも他にこの状況を打開する策は無い。


 やるしかないか……。


 だがその前に、まずはこの建物を出ないとな。


 俺は一ノ瀬隊長を背負って、走り出す。


 そのまま、すぐに建物を出て、テレポートを使い始めようとすると……。


「蓮君!」


「え?」


 背後から声が掛けられる。


 この声は……。


「ほ、星川? なんで……」


 あの時、俺は星川の言葉を無視して自分の意思を貫いた。


 後悔は微塵もしていなかったが、星川には悪いことをしたと思った。


 だというのに、俺を探して、力になろうとしてくれてたのか?


「今はそんな話をしてる余裕はないでしょ? 交代で一ノ瀬隊長をテレポートさせよう。1人で結構きついでしょ?」


 ……!


 わざわざそれだけのために……。


 俺は何度も星川の忠告を無視してるのに、怒るどころかそこまで……。


「うん、ありがとう」


 俺が素直に礼を言うと、星川は微笑み……。


「じゃあ、行くよ?」


 無言で俺は頷く。


 そして、星川が一ノ瀬隊長を連れてテレポートをする。


 俺はすぐにその後を追う。


 そして、今度は俺が一ノ瀬隊長を連れてテレポートをする。


 こうすることによって、連続で負担の多い2人同時テレポートを使わずに済む。


 休憩を挟むことが出来るのだ。


 このまま、アジトの前に戻って、上手く建物の中にまで入り込む。


 星川がいれば、行ける……!


 そのまま俺たちは順調にテレポートで一ノ瀬隊長を連れたまま、目的地であるゾディアックアジトへと近づいていった。


 そして、ほどなくして俺たちはあっさりとそこまで来て……。


「どうする?」


 星川が動きを止めて尋ねてくる。


 どうするって言われてもねぇ……。


 選択肢はそもそも無い。


「強引に突破して、アジト内に侵入する。それしかないな」


 俺は覚悟を決めて息を吐く。


 それに、俺がさっき見た時はかなり俺たちゾディアックサイドが不利に見えたが、今は目に見えて俺たちの方が人数が多くなっていて、優勢だ。


 この状態なら、敵ヒーローたちも俺たちになんて構っている余裕はあるまい。


 流れ弾や、味方の邪魔をしないようにだけ気をつければ、なんとかなる。


 何だかんだ言って、さっきの戦いと比べれば今の状況の方が余裕かもな。


「だね。じゃあ、行くよ!」


「おう!」


 俺は星川の言葉に、力強く頷くと、今度は俺からテレポートを使って、戦場の隅の方に移動する。


 そのまま今度は星川が。


 徐々に徐々にアジトの入り口へと迫っていき……。


 よし!


 俺たちは、驚くほどにあっさりとアジトへ入ることが出来た。


「はぁ……。なんだよ。全くの杞憂じゃんか」


 今までの警戒心は一体何だったのか。


 実際に挑戦してみれば、驚くほどあっさりとクリアできるじゃないか。


 医療室はアジト内の地下2階にある。


 入り口から最も近い階段を下りたら、すぐ近くにある。


「急ごう。一ノ瀬隊長がやられてから、結構な時間が経ってる。のんびりしてたら大変なことになりかねないよ」


 そ、そうだった。


 まさか、もう死んでるなんてことないよな……?


 嫌な予感に体を動かされ、チラリと一ノ瀬隊長の方を見る。


 そこには、僅かながら体が動いているのが確認できた。


 ふぅ、まだ大丈夫か。


 これで間に合わなかったら、せっかくここまで来たのにも関わらず、全てが無意味に終わってしまうからな。


 俺は一ノ瀬隊長を担いで走り出した。


 少しでも早く、医療処置を施さないとな……。

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