第54話.三度目

「いや、それでも行くしかないでしょ。大丈夫、任せて」


「え、任せてって……」


 一体この状況で何をやる気だ……?


 星川の事は信用しているが、流石に多少不安にはなる。


 だがまあ、俺は今のところ対抗策を思いついていない。


 ここは信じて任せてみるしかない。


「分かった」


 俺がそういうと、星川は静かに頷いて、通路の向こう側を確認し始めた。


 しかし、すぐに何かをするでもなく、ただ時間が流れていく。


 俺はじれったくなって、何をする気なのかを尋ねようとすると……。


「ここ!」


 急に肩に触れられて、気が付くとテレポートしていた。


 しかし、場所を確認する暇もなくもう一度テレポートを使われる。


「よし、移動できたよ」


「え……」


 俺は驚きながら辺りを見渡す。


 一体何が起こったんだ……。


 全然状況が把握できていない。


「上手く人の背後にテレポートして、そのまますぐにこっちに来たんだよ。結構難しかったけど成功してよかったぁ」


 そんなことを軽く言ってのける星川。


 そういうことか。


 凄いな。


 まずそもそも2人同時テレポートってのが難しいのに。


 それに加えて、1度目のテレポートが終わってすぐに2度目の移動先を正確に視界に捉えるとは……。


 今の俺じゃあ、とても不可能な芸当だな。


 その後も、苦心しながらも何とか建物内を伝って、多少時間は掛けながらも、何とか包囲を抜け出したのだった。



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 俺が元の戦場に戻ってきたのは、俺たちが抜け出してから20分ほど経過した頃だった。


 正直、もう敵のヒーローは俺たちを追うのをやめて、この場所に帰ってきてきている気もするし、俺たちの努力が役に立ったのかどうかは分からない。


 そして、戦闘は未だに続いていた。


 死傷者は敵味方共にどれほど出ているかは見当もつかないが、とりあえず新田さんと一ノ瀬隊長の姿は確認できた。


 他のメンバーはざっと見た限りじゃ見当たらなかったが、俺たちのように逃げているだけだと信じたい。


「さぁ、戦闘に復帰しよう」


 俺が入っても、結局また逃げ出す羽目になるかもしれない。


 しかし、俺の中に、新田さんや一ノ瀬隊長が戦っている中で、しっぽを撒いて逃げ出すという選択肢は無かった。


「ちょ、普通に私たちだけで戦うのはやめよう」


 しかし、星川は俺を止めた。


「……増援がくるのを待てってことか?」


 そういえば、一ノ瀬隊長も桐原さんに今の星川みたいなことを言っていた。


 多分、一ノ瀬隊長と星川の言ってることは正しいだろう。


 しかし、桐原さんはそれが正しいと分かっている上で、戦火に身を投じたし、一ノ瀬隊長もそれに追随した。


 俺も……。


「ごめん。それは無理だ」


 俺は星川に背を向けようとする。


 今更独りよがりになるつもりはないが、俺の中にも譲れないものはある。


 だが……。


「いや、増援を待てってことじゃない。さっきは私たち2人切りで戦った結果、複数人で襲ってくるヒーローに対処できなくてピンチに陥った」


「それは……」


 そんなことくらい俺だって分かっている。


 人数差が絶望的すぎて、俺くらいの未熟者だと一瞬でやられる。


 あの中で生き残るには、恐らく野性的本能とすら言えるような戦闘勘が必要だ。


 それは、どちらかと言うと頭脳的な動きを得意とする俺とは真逆のもの。


 幾多の死線を潜り抜けてきた、その証として手にすることのできる、経験値の賜物だ。


 俺には、それが圧倒的なまでにない。


 なにせ俺はゾディアックに入って2か月しか経過していないのだから。


 センスがあると言われているが、それでカバーするのも限界があるだろうしな。


 でも、だからって……。


「そこで、新田さんや一ノ瀬隊長のそばで戦おう」


「え……。いや、でもそれは……」


 そのことは1度目の抗戦の時も検討した。


 けど、結局俺たちじゃあ足手まといになって迷惑をかけることになるから、ということで取りやめになった。


 なのに今更なんでそんなことを……。


「結局2人でやっても勝てない、その上援軍は待ちたくない。だったらもうこの方法しかないでしょ?」


 確かに。


 いつまでもわがままばっかり言っていても仕方ないか。


 俺も死ぬのは流石に嫌だしな。


 でもなぁ……。


 どうしても、迷惑をかけて、それが取り返しのつかないことまで発展したら、などというネガティヴな思考になってしまう。


「大丈夫」


「え?」


「私が上手くサポートする。だから思うようにやって。責任は……」


 私がとる、とそう言った。


 責任って……などと思ったが、言葉の意味以上にその迫力に押されて、俺は頷くしかなかった。


 にしてもサポートってどういうことだろうか。


 俺が変な動きをしたら指摘してくれるとか?


 いや、でもそんなの1秒を争う戦闘中に役に立たないよな?


 うーん、よくわからん。


 でも、悩んでいる場合でもない。


「分かった。頼むよ」


 俺はこういうしかなかった。


 そして、戦場に三度飛びこんだ。

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