第55話.弱者
一ノ瀬隊長と戦っているヒーローを、ちょうど挟み撃ちにできる位置に、俺は素早くテレポートする。
そのまま俺は敵を攻撃する。
「なっ――!」
ヒーローは間一髪のところでこれを回避する。
しかし、意識の外からの攻撃にギリギリ対応出来たという感じで、態勢は崩してしまう。
よし、これはもらった。
俺は追撃に少し時間がかかるが、一ノ瀬隊長が上手くトドメを刺してくれる。
初っ端からいいスタートだ。
そう思ったのだが……。
「!?」
突如一ノ瀬隊長の前に敵のカバーが。
クソ、これでもダメなのかよ。
当たり前ではあるが、単純に数が多いだけじゃなく、敵のレベルが高い。
6番隊の隊員をみていたせいで、ゾディアックの隊員の方が質では上回っていると勝手に思ってしまっていた。
しかし、改めて思う。
本部ヒーローの強さはヤバい、と。
だが、だったら俺がトドメを刺せばいいだけよ。
俺はすぐに倒れこんでいる敵へと肉薄する。
そのままパイロキネシスにより炎を纏った左手を繰り出す。
さらに、その陰から右手でナイフを振るう!
この2重に仕掛けた攻撃は、倒れこんでいる状態ではとても防げまい。
テレポートするしかないだろう。
そうなれば地の果てまで追いかけてやるつもりだ。
だが、突如視界が切り替わる。
「え?」
一体何が……。
そう思った瞬間、自身の視界に迫ってくる炎。
は?
何が起こったかがさっぱり分からない。
何とか避けようとしてみて、その時ようやく気が付く。
自分が地面に転がっていることに。
嘘だろ!?
確実に死んだと思った。
しかし……。
ドサッ、という音がして、俺の目の前の炎が霧散する。
え、マジで何が起こったんだ?
とりあえず起き上がり、辺りを見渡す。
そこには、ヒーローにいつの間にかトドメを刺している星川の姿が。
「えーっと……」
「大丈夫?」
俺がどういう状況なのかを尋ねようとすると、星川は開口一番に俺を心配してくれる。
「あー、うん。それは大丈夫なんだけど、これは一体……」
「あぁ、態勢を崩したヒーローにトドメを刺そうとしたでしょ?」
「うん」
「その時に背後からカバーしに来たヒーローが、蓮君と一緒にテレポートしたんだよ」
あー、なるほど。
それで俺の動きを注視していた星川は、俺がテレポートで飛ばされたことを見逃さず、俺を助けてくれたってわけか。
敵も戦場からわざわざテレポートをしてから、俺にトドメを刺そうとした判断は流石だな。
あの場は混戦になっているので、少しでも隙を見せると危険だ。
すぐに敵のカバーが来てしまうからな。
だから、敢えて敵ごとテレポートさせてから俺を倒そうとした。
まあ、結果的には、俺の動きに注視していた星川の刃の餌食になってしまったのだが。
星川も敵に反応する隙を与えずにヒーローを殺していて、地味に技術の高さを見せたな。
「さて、1人倒せたけど、まだまだ敵はいる。戻ろう!」
おっと、そうだった。
ゆっくりと考察している場合じゃなかったな。
「おう」
俺はテレポートですぐさま戦闘に復帰。
一旦一ノ瀬隊長のそばに行ってから、すぐに目についた敵に攻撃していく。
ここまで、星川にかなりの回数救われて、星川がいるから多少無茶しても大丈夫なのが本当にありがたい。
こういう混戦では背後が怖いから、1人の敵に集中するのは避けるべきなのだが、背後は星川が守ってくれると信じて、ここは一人の敵を倒すことに集中する!
リスクは高いが、そんなことこの戦場に身を投じた時点で分かっていたことだ。
俺は背後ががら空きな敵ヒーローに目をつけると、真っすぐに突っ込む。
しかし、右の方から何か塊が飛来してくる。
やべっ、反応が遅れた。
早速の危機。
だが、突如飛んできた塊が空中で制止する。
これは……サイコキネシスか。
結構な重さがありそうなのに、これを綺麗にとめるなんて……。
間違いなくこれは星川の仕業だし、本当に実力の底が知れないな。
さて、危機は去った。
俺の事には今のところ気が付いてない。
パイロキネシス!
俺は手から炎を出す。
しかしその時……。
「おい、来てるぞ!」
少し近くにいた敵ヒーローが俺が迫っていることを、俺が標的としているヒーローに伝えてしまう。
チッ、邪魔しやがって……。
でも、このギリギリのタイミングじゃあ気が付いても遅いんだよ!
あのヒーローもカバーに来ようとしているが、こっちに来る前にこいつを始末すればいいこと。
また、もしもあのヒーローがテレポートでカバーにくれば、それは格好の餌。
テレポート直後の敵なら、俺でも倒せる。
だからそれは絶対にありえないだろう。
とはいえ、あっちのヒーローの事も少し頭に入れつつ、炎を纏った左手を払う。
「ぐっ」
なんとか体を倒して避けるヒーロー。
だがそれでは延命しただけに過ぎない。
これで終わりだ……!
そう思った時だった。
左から突如人影が現れる。
う、嘘だろ……!
いや、大丈夫だ。
星川がきっと助けてくれる。
しかし、直後俺は絶望を目にする。
右側少し離れたところから、驚愕の表情でこちらを見ているのが見えたのだ。
その時、俺は敗北を確信した。
そうなった時の俺の未来がどうなるかも、俺はよくわかっていたはずなのに、不思議と冷静だった。
なんか、出てきた感想は「仕方ない」だったのだ。
まあ、自分でも無茶をしていることは分かっていた。
今まで危機をことごとく回避できていたことが異常だったのだ。
こうなるのも、当然だよな。
そんなことを頭の中では思いながらも、身体の方は反射的に、襲い掛かってきた敵の方を向く。
そして、それと逆の方向に倒れこんだ。
テレポートする余裕はない。
すでに敵が覆いかぶさるほどに迫ってきていて、視界は塞がれていた。
さっき馬鹿にした敵ヒーローと全く同じ状況。
因果なものだな。
敵ヒーローの放った炎が迫る。
捕まえるんじゃなくて、殺す気かよ。
ま、この状況だし当然っちゃ当然か。
全力で抵抗してくる相手に、殺さないで抑え込むのは通常時でも難しい。
ましてや今は通常時ではなく非常時だしな。
そして、俺が諦めて目を瞑ろうとした時だった。
「もう、誰も死なせない」
俺を庇うように、一ノ瀬隊長が立ちふさがったのは。
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