第48話.最高のサポート

『蓮! テレポートを使え! 俺がサポートする』


 どうしようかと悩んでいると、工藤さんの声が耳に届く。


 おっと、そういえばクレヤボヤンスで様子をずっと見ていてくれてるんだっけか?


 でも……。


「逃げるんですか!? そしたらこいつがフリーに!」


 そろそろ誰かの手が空く頃だ。


 俺は耐えるだけでいい。


 それくらい俺にもできる。


『いや、逃げるなんて言ってないぞ? 俺はテレポートを使えと言っているんだ』


「え、でもそれじゃあ絶対に防戦一方になっちゃって戦闘なんてままならないのでは?」


『まあまあ、いいから俺を信じろ』


 えぇ……。


 信じろって言われてもなぁ。


 これが新田さんなら迷わないんだが、この人だとどうもな。


 まぁ、でも信じる他にないか。


 現状、自力では手詰まりなのも事実。


「分かりました。テレポート先は自由でいいんですよね?」


『あぁ。俺の指示があるまでひたすらテレポートで逃げ回ってくれ』


 何をするつもりなのだろうか。


 全くこの指示の意図が読めない。


 だが了承したからにはやらないとな。


 俺は適当なタイミングを見計らって……。


「パイロキネシス!」


 からの速攻テレポート。


 適当なビルに移動する。


 遮蔽物に身を完全に隠した後、頭だけをチラリと出して元居た場所を確認する。


「!?」


 テレポートで敵ヒーローが消えた瞬間をばっちり捉える。


 しかもその視線の先は、多分こちらの方を向いていた。


 何故移動方向がバレているんだ!


 俺は慌てて再度テレポートを使う。


 今度は移動した直後に後方を確認。


「!」


 やっぱり追ってきている!


 パイロキネシスを使う暇もない。


 完全な鬼ごっことなってしまった。


 しかし、これまでの戦闘で、身体能力においても超能力においても俺が劣っていることはよく分かった。


 それはテレポートにおいても同じ。


 このままじゃ追いつかれる……!


 そう思い、何度目か分からないテレポートを使い、移動した直後だった。


『今だ! 振り向いて殴れ!』


 耳に工藤さんの怒鳴り声が響き渡る。


 んなこと言われたってそんなすぐに反応できるわけがない。


 ……そう思った。


 しかし、何故か体が反応した。


 まるで体が誰かに操られているみたいに、工藤さんの声と同時に後ろを向いた。


 振り向くと同時に、敵がテレポートで丁度真後ろに移動してきた。


 嘘だろ!?


 こんなピンポイントでヒーローのテレポート先を見切ったっていうのかよ!


 工藤さんあの人は!


 戦慄のような驚きを覚えながら、俺は拳を振り上げる。


「――な!」


 驚くヒーロー。


 それはそうだろう。


 なんて言ったって、テレポートしたと思ったら、拳を振り上げた敵の姿が視界に飛び込んでくるんだもんな。


 未来予知でもされてるんじゃないかと思いたくなるほどに、信じがたい現実だろう。


 驚く敵に、同情の念すら覚えながら拳を振りぬく。


「あ゛――」


 ヒーローのどてっ腹に突き刺さった俺の拳。


 痛みのせいで、乾いたうめき声をあげるヒーロー。


 ふぅ、工藤さんの神サポートのおかげで何とか倒せた。


 そんな油断が俺の中に生まれた時だった。


『おい!』


 工藤さんによる聞いたこともないような真剣な怒鳴り声。


 ……!


「あ、やべっ」


 それに驚いた俺はすぐに現実に引き戻されたが……。


 呆然と立ち尽くした眼前には、すでに敵の姿はいなかった。


 やってしまった。


 完全に仕留められる敵を油断したことで逃がしてしまった。


 自責の念が胸の奥からせり上がってくる。


 しかし……。


『詰めが甘かったなー。ま、油断しちゃうのは仕方ないよねー。戦闘経験もあんまり無いっていうしさ』


 そんな俺とは反対に、呑気な声で俺を慰めてくれる工藤さん。


 まぁ、やってしまったことは反省しなくてはならないが、それをいつまでも引きずっていても仕方ないか。


 この人の事だから、このことを伝えるために敢えて明るい反応をした、なーんてことはないだろうがな。


 俺は深呼吸をして気持ちを切り替える。


 そして……。


「工藤さん、状況を教えてください!」


『おっけー。あ、今蓮がヒーローを倒したことで敵が撤退したね。一ノ瀬隊長からも指示があるから集まるようにっていう命令が出てる』


 あ、そうですか。


 マジかよ。


 せっかく次の敵との戦闘に向けて集中したのに、これで終わりかよ。


「あれ、てか元来た道どっちでしたっけ?」


 慌てすぎてて覚えてねぇ。


『はぁ……。蓮って意外とドジなのな。ほら、後ろの方向だよ』


 くっ……。


 この人にこんなことを言われるのはマジで我慢ならねぇ。


 でも事実すぎてぐぅの音も出ねぇ。


 道忘れちゃうとか、自分でもアホだと思うわ。


 まぁそれぐらい切羽詰まるのも、仕方ないと言える状況ではあったが。


 俺は教えられた方向の道をテレポートを使って帰っていく。


 すると、すぐに新田さんたちが見える。


「勝ったようだな。工藤さんから聞いたぞ。よくやった」


「凄いね。大活躍じゃん!」


 新田さんと星川が褒めてくれる。


 普段なら喜べるのだが、今回はほとんどが工藤さんの力なので、素直に喜べない。


 いや、それどころか俺は失態を犯しているしな。


「ほら、さっさと元の持ち場にもd……」


 急に一ノ瀬隊長が言葉を途切れさせる。


 一体なんだ?


 そう思っていると、一ノ瀬隊長はポケットからスマホを取り出して電源をつける。


 しかし、スマホをポケットにしまい込んだ時の一ノ瀬隊長の表情は、何故か真っ青で……。


「本部が……襲撃を受けているらしい……」


 その言葉で、全員が凍り付き、一ノ瀬隊長が顔面蒼白な理由を知ったのだった。

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