第47話.本部ヒーローの実力

 神速で移動していく俺たち。


 夜のテレポートは怖い。


 闇のせいで、テレポートの移動先が視認しづらいからだ。


 目を凝らしていないと、テレポートに失敗しそうだ。


 だというのに、他のみんなはサクサクと進んでいく。


 クソ。


 レベルが高すぎて、頼もしい反面ついていくのがキツくて困るぜ。


 しかし、雑念が入った瞬間……。


「あ、やべ」


 テレポートに失敗していつの間にか他のみんなは視界から消えてしまった。


 嘘だろ!


 しかし……。


「何をやってんだ!」


 新田さんの声。


 どこから?


 と思った瞬間、俺の視界には6番隊のメンバーが映っていた。


「あ、ありがとうございます」


 新田さんが連れてきてくれたようだ。


 とりあえず礼を言っておく。


 にしても、自分の移動だけじゃなく俺の面倒まで見る余裕があるとか……。


 本当にこの人の実力は、底が知れない。


「さっきは思わず厳しいことを言ってしまったが、お前が新人であることを考えれば仕方のないことだからな。あまり気にするな。まもなく敵と交戦することになる。切り替えていけ」


「は、はい!」


 思わずってのは、こんな状況だというのに、俺が足を引っ張ったことについカッとしたってことか。


 本当にすいませんね。


 にしてもすぐに戦闘かよ。


 まだ落ち着く暇もねえ。


 ひとまず、軽く深呼吸だけをして、前を見据える。


「よし、全員これを着けろ」


 集中した瞬間、一ノ瀬隊長が全員にワイヤレスのヘッドマイクを渡してくる。


「これは?」


「つければ分かる」


 何故こんなのをつけるんだ?


 と疑問に思い、一ノ瀬隊長に尋ねてみるが、望んだ回答は帰ってこなかった。


 仕方ない。


 まあ着けろと言うなら着けますけどね。


 俺は手渡されたヘッドマイクを頭に装着する。


 すると……。


『はいはーい、それじゃあ指示を出していきますねー』


 頭に装着したヘッドマイクから工藤さんの軽いノリの声が聞こえてくる。


 え、これは?


「工藤があのビルの屋上から、クレヤボヤンスを使ってリアルタイムで敵の動きを追っているんだ。それで敵の状況を逐一教えてくれる。あの人はクレヤボヤンスの能力だけはめちゃくちゃ技術レベルが高いからな。それにああ見えて非常に頭がいい」


 心を読まれたかのようなタイミングで、新田さんが俺に教えてくれる。


 顔にでも出ていたのだろうか。


 なるほど、指揮官的な役割を担ってくれているのか。


 でも頭がいいって……。


 全く信じられないな。


 まあこのタイミングでそんな冗談を言う訳がないから、本当なんだろうけど。


『そろそろ来るよ。右の建物の影から飛び出してくる! 警戒を!』


 マジかよ。


 俺は右の建物に全神経を集中させて、戦闘の構えを取る。


 そして……。


「来たよ!」


 きた……!


 そう思って俺が飛び出すのと、他のメンバーが飛び出すのと、工藤さんの声が届いたのはほぼ同時だった。


 いや、実際はほんの少し俺の動き出しが遅かったか。


 出てきた人影は4つ。


 そのすべてに6番隊のメンバーが襲い掛かる。


「「「!?」」」


 しかし、敵もそんな簡単にはやられない。


 素早くテレポートを使って回避。


 しかも方向そのままに移動するのではなく、顔の向きを変えてテレポートを使ったので、移動先を把握するのに僅かなラグが生まれる。


 これで敵は態勢を立て直すことに成功した。


「クソ、少し油断したか」


 一ノ瀬隊長が呟く。


 なるほど、相手がこちらの想像の上を行く優秀さだったわけか。


「だが人数の上では勝っています。一気に寄せましょう」


 そう言ったのは新田さん。


 誰よりも早く飛び出す。


「技術も頭脳も成長したが、やんちゃなのは変わらないな!」


 一ノ瀬隊長が軽い悪態をつきながら新田さんに続く。


 昔から戦闘狂だったのか。


 おっと、俺も冷静に分析してる場合じゃない。


 さっさと行かないと……。


 俺も飛び出す。


 しかし、敵はテレポートでさらに後方に下がる。


 なんで戦わない? などと思ったが、考えてみれば当然か。


 人数不利なら逃げるよな。


『そこの茶色いビルの柱のところに1人いる!』


 ここで工藤さんのサポート。


 誰かが行くか?


 と思ったが、周りを素早く見てみると、他のみんなは残りの3人を追っている。


 まさかの俺しか手が空いてないとか……。


 だったら行くしかねぇ!


 俺はテレポートを発動する。


 流石に逃げるか?


 敵のそばにテレポートをして、目が合う。


 しかし……。


 逃げない!?


 それどころか……!


「パイロキネシス!」


 接近戦かよ!


 おいおい、どうなってるんだ。


 人数不利で逃げ出す気なんじゃないのかよ!


 しかし、ここで逃げることもできない。


 やってやるよ!


 俺はパイロキネシスを使い、真っ向から立ち向かう。


 そのままバックステップで少し下がって……。


「サイコキネシス!」


 そこらへんに転がっているポイ捨てされた空き缶やらごみ袋を投げつけていく。


 引き気味に相手に気休め程度の牽制をして、隙を作り出す目的だ。


 しかし、中々敵は隙を見せない。


 それどころか……。


「いつっ」


 敵の拳が脇腹を掠めて、わずかに炎がかかる。


 燃え移ることは無かったが、当たった部分が少々焼けこげる。


 ヤバい。


 単に長時間運動を続けたからと言う理由とは別の理由で、心臓が脈を打つ頻度を上げる。


 すなわち焦りだ。


 接近戦における勝敗とは、超能力以上に身体能力の優劣によって決定される。


 サイコキネシスや、パイロキネシスなどを使うとは言っても、結局やってることは近接格闘だからだ。


 俺は身体能力に関しては自信があったのだが……。


 流石はヒーロー。


 高校生なんかとは鍛え方のレベルが違うってか?


 この状況、どうする?

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