第37話.初代表者ミーティング

「では早速その子が今日の議題にどう関係あるのか教えてもらおうか。一ノ瀬」


「はい」


 一番隊長の言葉に、一ノ瀬隊長が立ち上がる。


「じゃあ能見、頼むぞ」


 そう小声で俺に耳打ちする一ノ瀬隊長。


 え、そんないきなりバトンタッチ?


「いや、頼むぞって……何を話せばいいんですか?」


「何を言っている。俺が知るわけないだろう。お前の任務の話なんだからな」


 あーね。


 つまりあの報告書に書いたようなことを話せばいいってことか。


 にしても一ノ瀬隊長、考えてみると俺の報告書の内容について知りもしないのにここに連れてきたって……。


 信用されていると喜んだ方がいいのか、計画性が無いと嘆いた方がいいのか。


 まああの一ノ瀬隊長に限って計画性が無いとは考えにくいか。


 俺は素早く話すことを頭の中でまとめると、一つ大きく深呼吸をして話を始めた。


「では、一つ私が先日行った任務において得た重要な情報についてお話させていただきたいと思います。まず――」


 そして俺は横浜で得たヒーローの動員数についての情報を話し、今回の竜ヶ峰紅夜の発言がブラフである可能性を提言した。


「ハッ、んなもん信用できるかよ。構成員になりたてのガキの得た情報なんて真に受けるなんて馬鹿だぜ」


「そのような偏見は慎むべきですよ」


 そして俺の言葉に5番隊隊長が鼻を鳴らし、一ノ瀬隊長がそれを咎め、にらみ合いに発展する。


 他の人たちは何も言わない。


 その後はしばし静寂が場を支配する。


 そんな静寂を破ったのは、3番隊の隊長だった。


「ふむ、しかし情報の真偽はおいておいても軽視できるものではないですね」


「だな」


 それを皮切りにまともな話し合いへと発展していく。


 ふぅ、よかった。


「君、その情報はどんな人間から聞いた? そして他にも人数など。もう少し細かく教えてほしいな」


 しばらくボーっと隊長、副隊長の話し合いを眺めていると、5番隊の人たちとは逆の隣から小さく声を掛けられる。


 こっちは7番隊か。


「えーっと……」


 俺は昨日の事を思い出す。


 この間をどう勘違いしたのか彼は……。


「あぁ、悪い悪い。申し遅れたね。俺は7番隊隊長の鳴神勤司なるかみきんじだ。君は?」


 別に名前が気になったわけじゃないのに、自己紹介をしてくれる。


 軽いノリだけど隊長なのか……。


「俺は6番隊の能見蓮です。情報を聞いた人間はしっかり若くて口が軽そうなのを選びました。聞いた人数は1人です」


「ふむ……」


 そして俺の返答を聞くと、すぐに鳴神さんは顎に手を据えて虚空を見つめだす。


 これは考え事に集中しちゃった感じか。


 にしても情報を聞いた人間がどんな人間だったかとかは、情報の真偽の判別に役立つかもしれないけど、人数とかは本当に聞いて意味があるのだろうか。


 まぁ俺が考えても仕方のないことか。


 その後はしばらく活発に意見が交わされ続けて……。


「とりあえずすぐに結論を出せる問題ではないし、少し保留としよう。絶対にとは言えないが、敵もブラフを仕掛けてくるということは性急な行動に出るつもりはなさそうだからな」


 最後は1番隊隊長の言葉で場が静まった。


 確かにな。


 敵のブラフを逆手に取った時間的猶予の予測。


 流石の着眼点だ。


「それでは改めて代表者ミーティングを開始しよう」


 1番隊隊長の言葉で空気が引き締まる。


「お前の出番は終わりだ。退出しろ」


 え?


 一ノ瀬隊長から突如かけられる無常な言葉。


 うん、無理矢理連れてきておいて用済みとなったら追い出されるんですね。


 まぁ当然かもしれないけどさ。


 文句を言いたくなったが、流石に逆らうことは出来ないので、不満を心の中に押しとどめて会議室を静かに出た。


 音をたてないように扉を閉めた俺は、緊張から一気に解き放たれて、大きく息を吐いた。


 あ、そういや報告書の提出、出来てねぇ。

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