第36話.一触即発
「失礼しまーす」
俺はゾディアックのアジトに到着すると、すぐさま6番隊の隊室に入った。
誰かいるかなーと扉を開けながら、顔だけを出して確認すると、中には一ノ瀬隊長と新田さんが。
一瞬ノックし忘れたことに後悔しかけたが……。
「ん? 能見か」
しかし、一ノ瀬隊長も新田さんも一心不乱にパソコンと向かい合っている。
普段ならもう少し丁寧な対応をしてくれる新田さんも、こちらを軽く一瞥してほんの少し声をかけてくれただけで、すぐにパソコンと繋がったディスプレイに目を落としてしまう。
一ノ瀬隊長に至ってはこちらを見ることもしてくれない。
というより集中しすぎて俺の存在に気が付いてるかどうかも怪しい。
この様子ならノックをしなかったことなんて問題ないか。
「あ、あのー、何かあったんですか?」
「まぁまた状況が変わってな」
恐る恐る俺が尋ねてみると、新田さんはディスプレイに顔の向きを固定したまま、はっきりしない返答をしてくれる。
普通なら分からないようなこの返答だが、俺はそれですぐに察した。
あのニュースの事だよな。
というかさっき確認したばかりで、この忙しさを見れば、聞かずとも分かるか。
しかしそういうことなら……。
「あの、それについてなんですけど少し知っていることがあるので、お忙しいところ申し訳ないですが、少しだけ聞いていただけないでしょうか?」
「ん? なんだ?」
一ノ瀬隊長がここで初めて俺に言葉をかけてくれる。
というか存在についてはギリギリ無視してただけで気が付いていたのか。
「はい、実はお二人が多忙になっている原因であるであろうあのニュース。実はガセの可能性が非常に高いです」
「何⁉ どういうことだ?」
俺の言葉に突如真剣な顔になって忙しなく動かしていた手を止める一ノ瀬隊長。
新田さんも同様に手を止めてこちらを向く。
「えーっと――」
「いや、いいや」
俺が話始めようとしたところで、本題に入ることすら許されず発言を遮られる。
一ノ瀬隊長はディスプレイに視線を一瞬戻し……。
「お前も来い」
「え? 来いって……」
何に?
その俺の疑問をぶつける前に、答えがフライングで返ってきた。
「このニュースを受けて12:00から行われることが急遽決定した代表者ミーティングだ」
まじかよ……。
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ガチャリ。
部隊長ミーティングが行われる会議室という部屋は、アジト内の他の部屋と比べて、高級感がにじみ出た扉が付いていた。
そんな扉に取り付けられた、くすんだ金色のノブを新田さんがくるっと回して扉を開く。
「6番隊入ります」
まず新田さんが室内に入り、それに一ノ瀬隊長と俺が続く。
会議室の中にはすでに俺たち6番隊以外の席がすべて埋まっていた。
俺たちが最後か。
新田さんと一ノ瀬さんが席に着く。
俺も……ってあれ?
俺の席は?
「お前が参加する予定は無かったから席は当然ないぞ。そこで立っておけ」
混乱している俺にそっと教えてくれる新田さん。
ですよねー。
ひどすぎる。
「さて、それじゃあ全部隊の代表者が揃ったところで始めるとしよう」
「いや、その前に!」
代表者が揃って、一番偉い人(多分1番隊隊長)がミーティングを始めようする。
しかし、俺たち6番隊の隣に座っていた人が水を差すようにそれを手で制する。
なんだ?
「おい一ノ瀬。そのガキはなんだ? 舐めてんのか?」
え、俺?
いや、まあ確かに隊長でも副隊長でもない俺がいるのは違和感しかないのかもしれないけど。
凄く悪感情を持たれているようで、非常に気まずいのだが……。
「俺の判断で連れてきました。何か問題でも?」
一ノ瀬隊長も視線をしっかりと受け止めて睨み返す。
まさに一触即発である。
「問題あるに決まってるだろ。ここは代表者ミーティングだぞ。関係ないガキ連れてきてどうするんだ」
関係ないガキってひどいな。
代表者ミーティングに関係ないってことだろうけど、その言い方だとゾディアックにすら関係がないとも取れてなんか悲しい。
一応超能力者だし、そんなに軽んじられる存在じゃあないはずなんだけど。
「関係ないなんてどうして言えるんです? あなたは何も知らないはずですが?」
しかし一ノ瀬隊長も引かない。
一ノ瀬隊長が庇ってくれるというのはなんだか新鮮だ。
「チッ、言うようになったな。2代目の癖によ!」
「初代も2代目も関係ありませんよ。今は同じ立場です」
「あぁ?」
喧嘩は続き、ますます雰囲気は悪くなっていく。
事の発端が俺であるだけに非常に息苦しい。
しかし2代目ってなんだ?
同じ隊長クラスなのに、この5番隊長の人に敬語を使っているのと関係がありそうだが……。
「まぁまぁ、喧嘩はそれくらいにしておけ。一ノ瀬にも何か考えがあるのは分かった。まずは話を聞こう」
一番隊隊長と思われる人が会話に割って入って喧嘩を仲裁する。
「チッ」
「……」
そしてひとまずはお互いに溜飲を下げる。
こうして、不穏な空気のまま俺の初めての部隊長ミーティングは幕を開けた。
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