第30話.いざ横浜へ

 結局、ミーティングが終わったのは、20:30だった。


 寮の食堂は閉まってしまったので、悲しくコンビニのおにぎりを買って食った。


 ミーティングの内容は、パトロールのシフトが書かれた紙の裏にある実際にヒーローたちが攻め込んできた時の具体的な作戦についてを1つ1つ確認しつつ、実際に代表者ミーティングに参加してきた新田さんが補足しただけだった。


 果たして俺の寮への帰宅時間がこんなに遅れるだけの不利益に釣り合うミーティングだったのだろうか。


 しかし、全くこの時間が全く無意味だったとは言えない。


 何故なら、今日ゾディアックのアジトにやってきた俺の目的は果たされたからだ。


 ――今日ゾディアックのアジトにやってきた俺の目的。


 それは、今日学校で強制的に校外学習の班を決定し、それについて一ノ瀬さんが「事情が変わった」と言ったこと。


 その真意を聞くことだ。


 俺は、ミーティングの行われた6番隊の隊室を出る直前、星川と共に一ノ瀬隊長に呼び止められた。


 俺は「早く帰りたいのに」と不満に思いながらも、それを外面に出さないように努めてその場に残る。


 そんな中、相変わらず空気の読めない南沢さんが「何が始まるのー?」などとニヤニヤしながら妨害してきたが、一ノ瀬隊長の一睨みでようやくおふざけが許されない空気を察してくれたのか無言で立ち去った。


 そして、全員が部屋の外に出たところで、一ノ瀬隊長はこういった。


『昼間のことについて、お前たちに話しておこうと思う』


 そう言われて、俺は薄々理解していたある推察が正しいことを確証する。


 元々すでに一ノ瀬隊長に呼びだされる前に、核心には迫っていないものの、その外堀を埋めることができるだけのピースは出そろっていた。


 さらにいえば、俺の頭の中では、ほとんどそれらのピースは組み合わせることができかけていたんだ。


 一ノ瀬隊長が言った「事情」というのは、恐らく今回のニュースの事だ。


 そして、から俺たちの校外学習の班は関係者で一纏めにされた。


 つまり、校外学習で俺たちは今回のニュースの問題に関わることをやることになる。


 ここまでが俺の推察なわけだが……。


 このタイミングで一ノ瀬隊長がその説明をしようとしたことで、俺の中で「おそらく」だったのだ「確信」に変わった。


 思考が俺の脳みそを駆け回る中、一ノ瀬隊長はその答え合わせをするように「事情が変わった」といった話について話してくれた。


 俺の考えは、やはりというべきか、当たっていた。


 具体的にどんなことをやるのかは、明日指令書のようなものが上から渡されるらしく、学校でその紙を渡すとのことだ。


 そんな機密情報を学校なんかで渡していいのかと思うが、流石にクラスメイトに見られるようなヘマはしないし大丈夫か。


 と、まあそんな感じで得るものも大きかった。


 しかし、こうも具体的な対策の話を耳にすると、昔は憧れるだけだった世界が、自分の手の届く場所にあるのだと実感できる。


 それがなんだか俺にはとてもうれしくて、ゾディアックが危機的状況を迎えていると完璧に理解したはずなのにも関わらず、ワクワクしてしまっていた。


 学校に帰るのが遅くなったことの不満は、気が付けば月光が淡く路面を照らす夜の道を歩く俺には微塵も残っていなかった。


 そして、結局ヒーローがすぐには攻めてくることはなく、無事に日が過ぎていき……。


 ついにその日を迎えた。




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「おはよう」


 校外学習当日の朝。


 昇降口の前で1学年の生徒がクラスごとに整列する。


 そんな中俺は、バスの席で不本意なことに隣になってしまった男、戸塚に声をかける。


 並び順は出席番号ではなく、バスの席順だ。


「おはよう。楽しみすぎて昨日は寝れなかったりした?」


 そして開口一番の軽口。


 相変わらずだ。


 もはや慣れすぎて、反論したりすることもなくなった。


 しかし、今回に限っては……。


「寝れないってことは無かったけど、楽しみにしてたってのはあながち間違いじゃないかもな」


 戸塚の軽口に答えながら、自然と今日の任務の内容が頭をよぎる。


「あー。でもあれは楽しいのか……?」


「いや、普通の校外学習のプログラムに従うよりは随分楽しいと思うが……」


「そうか?」


 戸塚は微妙な表情をするばかりで、俺の気持ちを理解してはくれない。


 なんか俺が可愛そうなやつみたいな感じになっているのが納得いかない。


 ふざけやがって……。


「まあでも気は抜くなよ。簡単な任務とは言えないものだからな」


 しかし、戸塚はいきなりさっきまでの張り付いたような笑みをやめ、まじめな表情を見せながら低く呟く。


「んなことお前なんかに言われなくても分かってるわ」


 こうして、俺たちの校外学習が始まった。

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