第21話.俺の挑戦

「待てバカ!」


 新田さんに星川を助けに行くと言ったら絶対に止められる。


 そう思った俺は何の前触れもなく瞬テレポートで新田さんの前から姿を消した。


 しかし、新田さんの力は俺の想定以上で、俺の意表を突いたテレポートにも対応し、俺の移動場所に正確に転移すると、俺の右腕をがっしり掴む。


「お前の力で助けられるわけないだろ。感情的になるな。お前は数少ない超能力者。そういうやんちゃは、もっとじっくり修練を積んでからにするんだな」


 クソ……。


 新田さんは俺の腕をつかんだまま転移を使おうとする。


「待ってください。星川だって数少ない超能力者です。しかも俺より優秀だ。多少の面倒事に首を突っ込むリスクに見合う価値はあると思いませんか?」


 俺の言葉に新田さんは一瞬動きを止める。


「……優秀だろうと超能力者だろうと、ルールを守れない奴はいらない。その行動の裏にどんな事情があろうともだ。さっき出てきたヒーローは2人だったが、今頃追加でヒーローが動き出している可能性もある。対してこちらから応援に行けるのは俺と半人前にもならないお前だけ。これらのことから考えるにあいつにそんな価値はないな」


 だが新田さんの考えは曲がらない。


 あくまでも新田さんの行動理念は組織の利益。


 人間らしい情を持っていないという訳ではないだろうが、それを押し殺すこともゾディアックに入ったものに必要な覚悟。


 そういうことか。


 なら……。


「力づくしかありませんね!」


 俺は言葉を発すると同時に拘束されていた右腕で思いっきり新田さんの腹に肘鉄を入れる。


 入った……!


「俺は超能力トレーニングだけで無く、肉体のトレーニングも毎日欠かしたことは無い」


 しかし、苦しむ様子が微塵も感じられない新田さん。


 無抵抗でノーダメージ……だと……!?


 ダメだ。


 俺じゃあヒーローから星川を救うどころか、そもそもこの新田さんを振り切れない。


 万事休す。


 自分の無力さを呪い、俺はがっくりと項垂れる。


 しかし、その後に放った言葉は俺の予想外のものだった。


「いいだろう」


「え!?」


 あまりの驚きに、勢いよく新田さんの方を見て目を大きく見開いてしまった。


「勘違いするな。二度とこのような暴挙に出ないため痛い目を見て来いという意味だ」


 ツンデレかよ。


 きもいわ。


 でも……。


「ありがとうございます!」


 俺は叫びながらテレポートを発動した。


 最後の方の言葉は届いたかどうかわからない。




 ----------




 星川とヒーローの姿を視界に捉える。


 思ったよりも近い場所で戦闘をしていた。


 元々ヒーローは逃げに徹していたのにも関わらず戦闘をしているのは、恐らく途中で新田さんがいなくなったことに気が付いたためだろう。


 そして戦況はというと……。


 星川が劣勢だった。


 俺の予想通り、新田さんが他のヒーローと戦っているときは乱入を危惧して100%の力を出していなかったようで、本領を発揮したヒーローは星川の上を行く実力だった。


 しかし、新田さんが話したヒーローの追加はまだ来ていないらしく、そこは非常に幸運だ。


「チャンスなら今しかない!」


 新田さんがそう叫ぶ。


 言われなくとも分かってますって!


 俺はすぐに瞬間移動を発動しようとする。


 しかしその時……。


「おっと、ちょっと待ってもらおうか」


 自分の体のすぐ前に現れた人影。


 混乱する俺を待ってくれるわけもなく、スタンガンを突き出してくる。


 頭で考えては確実に間に合わないタイミングだったが、俺の反射が働いてくれて、間一髪身を引いて回避する。


 比喩でない目と鼻の先に迫った危機に息が詰まるような思いをするが、その後俺は背後への瞬間移動の対策として振り向いてパイロキネシスを発動。


 これも半ば無意識のような形だったが……。


「おっと!?」


 ヒーローの方も俺を舐めていてくれたようで、強引に突っ込んできてパイロキネシスにたたら踏む。


 そのおかげで何とか一息つくことができた俺は新田さんにカバーをもらおうとするが……。


 俺たちの行く手を阻んだヒーローは俺の目の前に現れた奴だけではなかった。


 新田さんの方にもまた敵が張り付いたのだ。


 どうすれば……。


 頼りにしていた新田さんの助けはすぐには望めず、俺の行く手を阻むのは本物のプロヒーロー。


 だが、冷静にこいつを見てみれば俺にも勝ち目はあると思てくる。


 そもそもヒーローの資格を得るためには、超能力者であり、かつヒーローの高等専門学校、もしくはヒーローの普通の専門学校を卒業していなくてはならない。


 とは言っても基本的にヒーローは高等専門学校を卒業した後、さらに4年間専門学校でみっちり戦闘訓練を積む。


 合わせて7年間。


 貴重な存在である超能力者を失わないために、国はこうして長い時間をかけてヒーローを育成する。


 だから基本的にヒーローは、専門学校を卒業する22歳から、超能力者が現れ始めた時代に生まれた30歳までぐらいの年齢が多い。


 だが目の前のこいつはそれ以上に若そうに見える。


 もちろん俺より年上ではあるが。


 となればこいつが22歳より若い理由は、専門学校に通わずに高等専門学校の3年間だけでヒーローになったためだ。


 珍しいケースではあるが、家庭の事情でそういうこともあるのだろう。


 とはいえ、所詮は見た目での判断に過ぎない。


 実年齢よりも若い年齢に見える人間なんていくらでもいるだろう。


 そのため、こいつが専門学校に通ってないヒーローだと断定することはできないが……。


 それでも、俺の考察が当たっていれば、今までの戦闘よりは勝てる可能性がある。


 それにゾディアックに入ってからの約2週間。


 決して長い時間ではないが、俺はこの期間で何倍も成長できたと確信している。


 これまでの苦労、劣等感。


 それらの悪感情を払拭するためには、目の前のこいつヒーローを倒して自分の価値を証明するしかない。


 ここで俺は、こいつを倒す!


 固い決意を胸に、俺はテレポートを発動し、火蓋を切った。

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