第14話.逃げ

「ちょっと蓮君! なんで先に1人で帰っちゃうの! ……ってあれ?」


 俺が新田さんにその戦闘で最も重要な技術というのを教えてもらおうとしたとき、勢いよく部屋に入ってきたのは星川だった。


「お前も来たか。ちょうどよかった。今こいつにある戦闘技術を教えてやろうと思っていたところだったんだ。お前も聞け」


「あ、はい」


 星川は分かっているのか分かっていないのか、微妙な表情でこちらにやってくる。


 そして新田さんは話し始めた。


「まず、2人とも勘違いしているだろうが、そもそも戦闘において重要なことは敵を倒すことなんかじゃない」


「「え?」」


 衝撃的な新田さんの前置きに、星川と俺は思わず同時に声を漏らす。


「自分がいかに死なないかだ。攻撃は最大の防御とは言うが、圧倒的な力の差があった場合、攻撃が敵に届くことはないので防御になりえない」


 なるほど……。


 俺も星川も息を呑んで続きを待つ。


「重要なのは、彼我の実力差を正確に見極めてだ。今回はお前たちに敵から逃げるためのスキルを教えてやる」


 お、おー……なんか思ってたのと違うけど、確かに言ってることはもっともだ。


 命あっての物種。


 戦闘技術を学ぶ前に、まずは自分の身を守るのが先決だというのはこの前の任務で痛感したしな。


「と言っても内容は簡単だ。敵がテレポートを使ったタイミングに合わせて、自分もテレポートを使用して戦場から離脱する。知っておくだけで格段に逃走の成功率が上がる」


 な、なるほど。


 めちゃくちゃ簡単なことだけど、かなり効果はありそうだ。


 テレポートを使うときは、どんな達人であろうともその能力の特性上視界が遮られてしまう。


 その瞬間を狙ってテレポートを発動することで、敵に移動先を読まれることなく転移することができるというわけか。


「これなら習得するのに時間がかかるという事もあるまい。聞くだけですぐに実践で役立てることができる」


 確かにな。


 星川の方もチラリと伺ってみると、感心している様子だった。


「……ということで、私は今からある任務に向か分ければならないのだが、お前らにもついてきてもらう」


「「え……?」」




 ----------




 この人のやることはいつも唐突だ。


 最初に出会った時も、一言も声をかけることなくいきなり襲い掛かってきたし、今日も突然俺の前に現れて戦闘で役立つ技術を教えてやるとか言ってきた。


 そして今に至っては……。


「よし、それじゃあもう一度おさらいするぞ。任務の内容はヒーロー狩り。作戦は特にない。超能力者の世界では、事前に建てた策は基本的に役に立たない。だから臨機応変に立ち回らなくてはならない。以上」


 そう、突然任務に連れて行かされることになった。


 しかも超高難易度。


 ――ヒーロー。


 正式名称は違法超能力者捜査部隊I(Illegal)P(Psychics)I(Investigation)U(Unit)だ。


 ヒーローというのは、この部隊の設立当時、一部の国民がそう呼んでいたことが広まっただけの通称だ。


 ヒーローの仕事というのは、その名の通り犯罪を犯した超能力者を取り締まることだ。


 つまり、俺たちみたいな悪の組織とは相容れない存在というわけだな。


 そこで、俺たちゾディアックはそんな親の仇のような存在であるヒーローを定期的に狩りに言っているというわけだ。


 しかし、犯罪を犯す超能力者を取り締まるのがヒーローの務め。


 ならば、ヒーロー自身もそういう人間たちを上回る力を持っていなくてはならない。


 つまり簡単に言えば、ヒーローもすべて超能力者なのだ。


 となれば到底今の俺が勝てるような相手ではない。


 この人はそんな任務に突然俺たちを連れて行こうというのだ。


 それでも俺たちはそれに従って最善を尽くすしかない。


「では行こうか」


 俺たち下っ端に決定権など存在せず、上司の命令は絶対の世界なのだから。


「はい」


 こう答えるのが正解というもの。

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