大塚くんとそれぞれの想い

 私は自分自身の容姿があまり好きじゃない。

 最初は仲が良かった女友達も、その子達が好きな男子が私を好きという事が多く、徐々に疎まれていった。

 もし私が可愛くなければ、変わらず仲良くいられたのかしら。

 告白してくる男子に「何で私なの?」と聞くと、みんな口を揃えて「綺麗だから」と言う。


 私の評価は見た目でしかされないの?

 見かけ以外で私の何に惹かれたの?


 もちろん、見かけから始まる恋だってあるわ。

 でも、私にそんな恋はいらない。



 自暴自棄になっていた頃、容姿を気にする必要が無いオンラインゲームを始めた。

 ハンドルネームはいっしーにして、男性のキャラを選んだ。

 そこでハンドルネーム「KAI」に出逢う。

 初心者の私に対してとても優しい人だった。

 1年近くの仲になり、同じ市内に住んでいることを知る。

 そして、一度リアルで遊ぶことに。

 1年近くの仲だけど、顔も知らない相手だった。

 弟に頼み、いっしーになりすましてもらい会うことに。

 それを私は影から尾行。


 待ち合わせをした場所には、同級生くらいの男の子がいた。


「もしかして、KAIさんですか?」


 弟が尋ねる。


「はい。いっしーさんですか?」


 間違いなくこの人だ。


 二人は軽い挨拶を済ませてカフェへ。

 私は近い席に座る。

 弟は私の1つ下だ。

 近い年頃で同性だからか、話は盛り上がっていた。

 彼は今日の為に遊びのプランを計画してきたそうだ。

 私は嬉しかった。

 女の子とデートする訳でもないのに、と思いながら。


 その後は雑貨屋、服屋、本屋、ゲームセンターと巡る。


 そして最後にご飯屋に行こうとしたところ、弟がスマホを失くしたことに気付く。


 通ってきた道を探すが見つからない。

 近くの交番に行くも、スマホの落し物は無いとのこと。


「後は僕1人で探しますので、KAIさんは帰って下さい」


 これ以上付き合わせるのは悪いと判断した弟。


「俺は全然大丈夫だから、探そう!」


 笑顔の彼。


「本当に悪いので……」

「わかったよ、後1回だけ通ったところ探そう!」


 それでも見つからず、彼に帰ってもらう。


 そこから私と弟で更に1時間半探す。

 しかし見つからない。

 もう諦めて帰ろうとしたところ、帰ったはずの彼がいた。

 まだ探していたのだ。

 私は咄嗟に隠れる。

 彼は通り雨を浴びたかのように汗をかいていた。

 それだけ真剣に探していてくれたのだろう。


 いっしーはゲームで仲が良いだけで、今日初めて会ったばかりの人。

 寧ろ、適当な理由を付けて先に帰ってもおかしくない。

 彼は帰ったフリをして探してくれていた。

 他の誰でもない、いっしーの為に。

 私は嬉しかった。

「白石未玖」の容姿ではなく、「いっしー」と言う私の内面を好きでいてくれてる気がして。

 だから、入学式で彼を見つけて運命だと思った。

 私は彼をもっとよく知りたい。


 そして、彼の特別になりたい。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 私は最低だ。

 一番大切な人を自分の愚かさで深く傷つけた。

 私の身勝手によって。


 私は大塚海都が今でも大好きだ。


 当時、女子達の間で「嘘告白」が流行していた。

 流行る理由は2つあった。

 1つは、からかって盛り上がるから。

 そしてもう1つは、告白することで返事がくるから、相手が自分の事が好きなのかが知れる。

 もし断られれば、「ドッキリでした!」と逃げられる。

 最低な行為だ。


 そして、私が嘘告白をすることに。

 違う相手を選ぶこともできた。

 しかし嘘の告白であれ、人生で初めての告白はかいくんが良かった。

 馬鹿な女心だ。

 それに優しいかいくんなら許してくれる。

 そんな風に勝手に信じてた。

 でもそうはならなかった。


 あの日に戻れたらと何度願ったことか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る