大塚くんと中学2年
「おはよう、かいくん」
「おはよう、明楓」
幾度となく繰り返してきたやりとりだが、心なしかどこか上の空という感じの明楓。
どうしたの?と聞きたかったが、話したくないことも中学2年生の女子ともなれば、1つや2つくらいあるだろう。
そのうち自分から話すかもしれないと自分の中で納得する。
「今日、朝練なくて良かった」
「かいくん朝弱いもんね」
「英語の小テスト、勉強した?」
「私の心配より自分でしょ!」
「それもそうか、ははっ」
そんな当たり障りのない会話をしながら学校に向かっていると、突然、明楓が足を止めた。
今までに見たことがないくらい真剣な表情だった。
「かいくん、今日の放課後教室に残ってて」
「ん……?わかった」
明楓の前では何も気付いてないかのように振る舞った。
何度でも言わせて貰うが、俺は鈍感系主人公じゃない。
十中八九、それが告白だと理解する。
喜びのあまり、放課後なんて待たないで今ここで俺から告白してしまおうかと迷った。
だが、折角明楓が勇気を出して告白しようとしてくれている。
告白されよう。
そんな言い訳紛いな思考で、今ここで告白することはやめた。
長い付き合いだが、この類の呼び出しは初めてだった。
学校に着き、授業を受けるが最早それどころではない。
まだ告白された訳でもないのに、有頂天であった。
それはさながら、当選番号を知っているロト7を買うような心地であった。
当選したら何を買おうと考える様に彼女になったら、何処へ行こう何をしよう。
必然の妄想である。
そんなこんなであっという間に時間は流れ、放課後を迎える。
教室には俺と明楓の2人だけが残っている。
やけに教室がすんなりと2人だけになる。
空気を読めるクラスメイトを持った。
教室の後ろで2人は向かい合う。
「かいくん……今日はどうしても伝えたいことがあります」
心臓の音がうるさい。
明楓に聞こえるんじゃないか。
告白というものはされる側もとても緊張する。
「ずっと好きでした、私を幼馴染ではなくあなたの彼女にしてください!」
「喜んで!」
迷う間もなく、返事をしたその刹那。
ーーガラガラガラッーー
人間、嫌なことは感覚で分かるものだと理解させられた。
振り返ると、ドアにはクラスメイトの男子2人と女子3人が冷やかすような面でこちらを見ていた。
生まれて初めて血の気が引く感覚を味わった。
あれは人を祝福する様な雰囲気ではない。
「ドッキリでした!!」
「残念!」
「いや〜、名演技だったなぁ」
「私なんてドキドキしちゃった!」
クラスメイト達は、ドラマのワンシーンでも目撃したかのように盛り上がる。
ドラマのワンシーンだったらどれだけ良かっただろう。
後に知ることになるが、嘘告白と言うものが流行っていたらしい。
口の中は鉄の味が広がる。
「ごめんね」
俯きながら明楓は言う。
謝るな。
どうせなら笑ってくれ。
怒りの感情はもちろんあった。
そんな感情より、唯唯悲しかった。
流行りの為とは言え、見世物みたいな扱いを他の誰でもない明楓にされたことが。
俺は何も言わず教室を出る。
盛り上がるクラスメイトを横目に俺を追いかけて教室を飛び出す明楓。
「待って、お願いだから待って!かいくん!」
もう俺に神崎の声は届かない。
もう俺は騙されない。
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