アロンダイト
サキュバス・クイーン達は、サキュバス傘下にいる亡者の一人『アロンダイト』を前線部隊から呼び戻した。
ネームド・デスナイト・アロンダイトは、かつて
王国では、アロンダイトは、裏切り者の元勇者として歴史に名を刻まれている。魔王軍に転身後は、勇者の異能を存分に発揮して王国に大打撃を与えたが、年老いて力が減退するとデスナイトに転生して前線部隊の一翼を担い続けていた。サキュバス傘下では三人しかいない、正面から勇者と渡りあえる貴重な戦士の一人だ。
性格は傲慢・卑劣・陰惨で、騎士とは対極にある存在だ。アダーラはこの性格を見込んで、
生前は、何人ものサキュバスを孕ませ、たくさんのアーク・サキュバスを娘に持っており、サキュバスのことを性欲のはけ口、子を生む道具程度にしか見ておらず、内心では見下している。
ネームドになった娘が数名おり、次期クイーン候補に名を連ねているので、待遇改善を期待しているところだ。
「俺に何の様だ。こんなところで悠長におしゃべりしていられるほど、前線には余裕はねえぞ」
「魔王様の許可はいただいてるから安心なさい」
「前線ばかりだと飽きちゃうでしょ?
貴方にしかできない、とっておきの任務を用意したの。
「
ああ、あの乳臭いガキか、サキュバスのくせに性欲すらわかなかった、ゴミ女。で、そいつがどうした?」
「最近、調子に乗ってるのよ。
ネームドのアーク・サキュバス達を狩ってるの。
中には貴方の娘もいるわよ……アリーデ」
「クイーン候補だったやつか……気にいらねぇな。
で、まさか俺に下級サキュバスごときを狩ってこいって話じゃねえだろうなぁ?」
「もちろん、そのまさかよ。
認めたくはないけれど、サキュバスの天敵みたいな感じになってるのよ。
でも、クイーン自ら出向くわけにはいかなくてね……。
だから、『一番強い』貴方にお願いすることになったの。
おねがい、観光旅行気分でちゃちゃっと殺してきてくれないかしら?」
「観光ねぇ……」
「ついでに街や城の一つや二つ、うっかり壊してきてくれてものいいのよ?」
「ほぅ……うっかりか」
「もちろん、〝受肉〟させてもらえるよう手配するわ」
「受肉か……大盤振る舞いだな」
「いままで前線で頑張ってくれたのだし、これくらいはさせてよね。
どお? 引き受けてくれるかしら?」
「で、何をどうすればいいんだ?」
……
ヘーゼルの街に城はないが、交通の要所として栄えている宿場街だ。
冒険者ギルドに、ヘーゼルに魔王軍のサキュバスが最近出没しているという情報が寄せられた。
その真偽を確かめ、何かあれば壊滅させるのが今回の任務だ。
この街に娼館はないので、どこかの宿にサキュバスが根付いている可能性を考え、屋根伝いにサキュバスの気配を丹念に探って行った。
広場の方を見ると
注意深く近づいてゆくと、数人のサキュバスが混ざっている気配がした。
広場から少し離れた高台に登って、サキュバスの動向を伺った。
魔王軍のサキュバスではない可能性もあるので、慎重に対処する必要がある。
しかし何もないのに、次々と広場に人が集まってくるのは異様な光景だった。
おそらく、魅了のスキルで人を集めているのだろう。
目的がまるでわからなかったが、ここまでたくさんの人を操っている以上は黒確定だ。何か起こる前に殲滅しておく必要があるだろう。
そう思いながら、周囲の状況を再確認する。
すると、ブレスレットの一つがバチッと砕け散った。
次は、アンクレットの一つが砕け散る。
状態異常のレジストに失敗した感覚が身をよぎった。
見覚えのある危険な気配を感じ、
どんな状態異常か確認しようとした、その瞬間、悪寒が走るのと同時に、
さっきまでいた場所を確認したら、青白い肌をした一人の男が漆黒のフード付きマントを羽織り、歪んだ笑みを浮かべて立っていた。
「いつのまにか成長したじゃねぇか、小娘。
よろこべ、孕ませたくなった。
俺の子を産ませてやる」
そこに立っていたのは、かつて勇者だった時の自分だった。
しかし、彼からは死者特有の気配がする。
ドノバン=ローウェン卿に似た気配だ。
<デスナイトか……>
年齢的にもかつての
レオナルド=リーウェイ卿がたまにやる受肉という魔術だろう。
とてつもなく大量のミスリルと人肉が必要になるので簡単にはできないのだ。
そこまでして、ここに彼がいるということは、狙いは
これは
「おーっと、テレポートは禁止だ。
広場に集めた奴らを皆殺しにするぞ。
大人しく犯されて死ね」
<なるほど、そういう狙いか>
「俺は
「そういや名乗ってなかったな、教えてやるよ。
俺はアロンダイト。
〝お前〟の仲間と家族と王様は俺が皆殺しにしておいた。
次はお前の番だ」
アロンダイト……王国の裏切り者の一人。
何代か前の王を殺した男だ。
裏切る前は勇敢で誠実な騎士だったと歴史書に記されていた。
アロンダイトは続けた。
「マーキング済みだ。
街を見捨てて転移しても、もう逃げ場はねぇぞ」
状態異常はマーキングだ、マーキングした相手へ転移座標を固定できる厄介なスキルだ。転移して逃げてもつぐに追いつかれる。
「俺は魔王軍のサキュバスしか狩らない。
デスナイトとは戦わない」
「そうか、なら魔界に持って帰って、孕ませてやる。
アーク・サキュバスを産むまでは生きられるぞ、よかったな」
……
エッタは、白いフード付きマントを羽織り、ペールブルーのユニコーンに乗って、砂漠地帯シャマールを疾駆していた。
いくつかの都市国家を当たってみたが、どこかの
エッタはユニコーンの一団の情報をあつめているところだった。
遠くに明かりが見えた。
かなりの量だ。
ロマではない様だ、おそらく遊牧民族だろう。
エッタは情報を聞くため、速度を上げて光の方へ向かった。
……
「ヒューッ! いゃっほぅ!」
ネームド・デスナイト・ドノバン=ローウェンは、久しぶりの晩餐を楽しんでいた。
数百年ぶりの大物が釣れたのだ。
餌は
ネームド・リッチ・レオナルド=リーウェイが転移防止結界を張ってくれているので逃げ場はない。
獲物の名は、ネームド・デスナイト・アロンダイト。
命のやりとりをしたことはないが、名前だけは聞いたことがある男だ。
なんでも生前は勇者で、王国を裏切って王を殺したとか。
とんだクソ野郎だ。
狩りの相手にはちょうどいい。
……
そして、街の守衛に後を任せると、王都に転移した。
そこから瞬間移動や縮地を併用して王宮に向かう。
守衛に事情を話し、王に謁見の許可をとった。
謁見の間に通されると、国王はすでに玉座についていた。
「
アロンダイトが単身、古戦場にいるとは驚いた。よくやってくれた。
フォールクヴェールを向かわせたいところだが、ローウェイ卿達が嫌がるだろうか?」
「おそらく、邪魔されたくはないでしょうね。
ですが、事後処理をする分には問題ないかと」
「おお、そうか、ならばフォールクヴェールと一緒に宮廷魔導士も数名派遣することにしよう。
あの二人には、いかにアロンダイトとて敵うまい。
だが死体を放置して復活されてはかなわん。
せっかくのチャンスだ、アロンダイトに引導を渡してやろう。
「もちろんです」
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