□◇刺客◇□
魔王軍の影の要所、リーンが陥落したニュースは、瞬く間に拡まった。
それは王国だけでなく、王国を裏から支配しようと目論んでいた魔王軍にもだ。
サキュバス・クイーンの耳に入るのも必然だった。
サキュバス・クイーン達は、『サキュバスのみを狩る冒険者』の事は以前から知っていたのだが、今まではただのチンピラという認識で放置していた。
しかし、魔王の政策の邪魔をされて、放置するわけには行かなくなったのである。
急遽、魔都にサキュバス・クイーンが集結し、対策会議が開かれた。
「例の〝下級サキュバス〟が度を超えた
「あの娘はスピカの管轄でしょ?」
「確かにうちの娘だったけど、アダーラにあげちゃったから、私は無関係よ」
「そういえばアダーラはどうしてるの?」
「まだ謹慎中。魔王様のお怒りは当分冷めないとおもうわ。大騒ぎになってるしね」
「でも、彼女が手に入れた勇者たちが配下に入って良い仕事をしているのでしょ?」
「別勘定にきまってるじゃない。小娘の
「で、どうするわけ?」
「逃げ出したときは、すぐに冒険者に狩られて娼館にでも売られるかと思っていたけれど、なぜかサキュバスの天敵みたいになってるし、どういう事かしら?」
「理由はわからないけれど、かなりの重装備らしいから、それに関係があるのかも?」
「なら、身ぐるみをひん剥いてみましょうか? だれか良い案はあるかしら?」
「サキュバスは送り込めないから、魔王様の傘下にいる冒険者達にやらせてみましょう」
「そうね、装備に懸賞金をかければ喜んで働きそうね。ついでに人相書きもつけておきましょう」
「では、そういうことで」
「「「ごきげんよう」」」
……
そういった感じだ。
冒険者達は懸賞金以上に、装備の性能に心を引かれる状況になっていた。
しかし、当の
漆黒のユニコーンに乗った騎士の目撃情報はちらほらでるが、追いかけても行方をくらましてしまうのだ。王都の冒険者ギルドに出入りしているという噂もあるが、見かけた者がひとりもいない状況だ。受付係に聞いても見たことがないの一点張りだった。
そのうち人相書きまで出回り始めた。銀髪で色白の美少女だった。しかも、正体は下級サキュバスだと書かれていたので、それを信じるものはあまりいなかった。
……
王都の北東の果てに、貧しい小さな集落があった。
冒険者ギルドにすら入れない不遇の身にあるハーフエルフが集まり、ローグの技能を習得して、王都で窃盗をして日銭を稼いでいた。
ある日、
その頃には尾ひれがさらにつき、手に入れた者には誰であってもミスリルの冒険者ランクが贈呈されるといったことまで含まれていた。
ハーフエルフ達には願ってもないチャンスだ。
裏社会に生きるこの村の民は、魔王傘下にある街の情報を持っていた。
彼らは、一攫千金を夢見て、サキュバス支配下の街の特定を始めた。
若いハーフエルフの腕利き女ローグ、エッタもみんなを出し抜こうと必死だった。
エッタは、サキュバス支配下の街を視察してみた。しかし、どこも警戒が厳重で、出し抜く隙がなかった。王都にいってみても冒険者だらけで隙がない状況だ。これだけの人数がいて目撃報告が全くないということは代理で取引をしている者がいるはずだろうと推測し、王都の周辺の村を
残るは、亡者だらけの戦場跡地だった。
Sランクのエクソシストなら、あそこでも生き延びられるかもしれない。
とはいったものの、エッタが一人で行くには危険すぎる場所だ。
高ランクの冒険者パーティがいれば、正式参加はできないが、隠れてついて行くことくらいはできるだろうと考え、エッタは王都の冒険者ギルドを探ってみることにした。
表立って
古戦場の亡者狩りは、危険性や専門性のわりに報酬が見合わないため、普段は募集など滅多にないのだ。
それが複数あるということは、皆、考えることは同じということだ。
エッタは、集合場所と日時を確認し、村に戻って装備をまとめ、出立した。
……
古戦場には、ネームドの強力な亡者が多数いる。
かつての大英雄のなれの果てだ。
デスナイト・ドノバン=ローウェンは、王国史上最強の騎士であり、その相棒、リッチ・レオナルド=リーウェイは、王国史上最強の魔導士だった。
彼らの巣に近づくものは長らくいなかった。
歴戦の勇者達ですら匙を投げるほど、強かったからだ。
魔王軍にも下らず、古戦場で唯我独尊の死後を満喫していた。
ところが最近、羽虫のようにちょくちょく来訪者が現れるようになった。
来訪者は何かを探しているだけらしく、ちょっかいを出そうとすると脱兎の如く逃げ出す有様だった。魔王軍のインキュバスまでも俳諧しているのを見かけるようなった。
理由はわかっていた。
〝彼女〟から、「最近、魔王軍のサキュバスに喧嘩を売っている」と聞いていたからだ。
彼女なりの復讐らしい。
彼らはこれからすこしは面白くなるかもしれないと、少し期待し始めていた。
……
「しくじった……」
エッタは、独りごちた。
捜索パーティの追跡はうまくいっていたのだが、運悪く、ネームドのデスナイトとリッチに出くわしたのだ。予想外の化け物とのエンカウントに、クモの子を散らすようにパーティは散開してしまい、その結果、エッタは孤立し、身動きが取れなくなってしまった。ローグの〝
ふと、水の流れる音が聞こえた。
川が近くにあるようだ。
エッタは
深い森を抜けると、集落の跡地があった。
奥に滝があり、集落のそばを小川がながれていた。
なぜかこの一角だけ、周囲に亡者の気配はないようだ。
しかも、なにか様子が変だった。朽ち果てているはずの集落だが、どことなく生活の影が息づいているのを感じ取れたからだ。
エッタは、注意深く集落に入った。
<大当たりだ……!>
エッタは思った。
そこには、草を
こちらには気付いていない。
さらに、人の気配もない。
エッタは、修繕された形跡のある小屋の中に忍び込んだ。
生活感のある清潔な部屋だった。
そこには、漆黒の鎧と剣が無造作に置かれていた。
<見つけた!>
エッタは感極まったが、気を落ち着け、自分の装備を外すと、鎧とカブトそして剣を、身に着けた。
小柄なエッタにはぴったりのサイズだった。
至る所にペンタグラムとルーン文字が刻印されている装備は、とても軽く動きやすかった。また、重装備なのに、動いても音が立たなかった。フルフェイスのカブトも視野は全く問題なかった。
かなりの業物なのだろう。
懸賞金がかかるわけだ。
腰に刺した剣を抜いてみて驚いた。
剣というには圧倒的に短いそれは、ナイフのようだった。
エッタはローグということもあり、素振りしてみたところ、これくらいの長さの方が使いやすく感じた。
<鎧といい剣といい私にピッタりの装備ね。売るのがもったいないくらい>
刀身にはペンタグラムとルーン文字がびっしりと刻印されていた。
こちらもかなりの業物なのだろう。
ふと我にかえる。
滝の方から誰かが近づく気配を感じたのだ。
エッタはいそいで自分の装備をカバンにつめ、
追われることを考え、ユニコーンを開放してみたが逃げる様子がなかった。
しかもエッタがかなり近付いてるのに、暴れる様子もなかった。
<これは行けるかもしれない……>
そう思ったエッタは、ダメ元でユニコーンに
ユニコーンは大人しくしていた。
<
これで私も冒険者になれる!>
エッタはユニコーンを疾走させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます