第2話 二次面接
閻魔様の館を出た。
私は行く当てがなかった。
外というのは、田舎のようで、木造の家屋が点々と並んでいる。
そこで、人に話しかけられた。
「旦那さん。初めまして。今閻魔様の館から出てこられた方でしょう?」
男は明るく元気な口調で言った。
「ええ、そうですが。あなたは?」
「私は、ここで働いている者です。あなたの、閻魔様からのご采配があるまでの世話係を仰せつかっています。少し歩きますが、こちらへどうぞ」
その人物についていき、舗装されていない土の道を進んでいく。
「あの、これからどこへ?」
「あなたの寝泊まりするところです」
この天国でも地獄でもない場所でも閻魔様の采配によって面倒を見てもらえるらしい。
男は陽気な様子で「いやぁ、この辺は田舎で何にもなくてね」などと一人で話している。
しばらく歩いて話を聞きながら私は気になったことを思い切って切り出した。
「つかぬことをお聞きしますが、あなたはどんな罪を…?」
前を歩いていた世話人の男は急に立ち止まり振り返ると「私は何も悪いことなどしておりません」と冷たく鋭い口調でいった。
男の顔はさっきまでのニヤニヤした表情から真剣な目つきになった。
「私はある思想から、ある人々を救おうとしただけです。彼らが現代を生きるにはあまりにも罪が重すぎる。彼らを救うにはこれしか方法がなかったのですよ。何も間違ったことはしていません。勘違いしないでいただきたい」
男の話ぶりには一種の狂気のような何物も寄せ付けぬような重く厳しい雰囲気があった。
男は元の方向へ振り返ると「ささ、もうすぐ到着しますよ」と明るい声で言った。
私はもう初めてあったときの男と同じ男には見えなくなった。
部屋に通されると二階にある畳の一部屋に通された。部屋の端には簡素な机がある。
私は履歴書の善行の欄を埋めなくてはならなかった。
障子を開け窓から外を眺めてみる。
草原が広がっていた。
ぼーっと外を眺めた。
善行の欄を埋めることにした。
「電車で席を譲った」
「家族のために働いた」
「上司に気を遣った」
…。
後日、私は閻魔様の館に履歴書をもっていった。
再び部下のような人物が待合室に案内してくれ、私の番になった。
「どうぞ」閻魔様の声だ。
「失礼します」
「善行の欄の件でしたよね。えーと…」
閻魔様は履歴書に目を通して厳しい口調で言った。
「あなた、全然だめ。全く自分のことが分かってない。もし、ちゃんと書けていたら、ここであなたを終わらせることも考えたけど、自分を振り返ってきなさい」
「と、申しますと…?」
「あなたは事故を起こしたあの踏切で自分を見つめ続けなさい。あなたが真にあなたを見つめることができたとき、使いを送ろう。今は地獄にも天国にも行かせない。ここで終わりにもさせない」
「ここで終わりというのは…?」
「地獄にも天国にも行かず、ここであなたの存在を終わらせることだ。存在が終われば、あなたの意識も消えてなくなる。地獄に行くより楽で、天国に行くよりも虚しい。しかし、存在がないのだからそんなことも感じられないがな。感覚的には永遠に眠ることに近い。まあ消えてしまうからそれとも違うがな」
天国にも地獄にも行けず、踏切で罪を見つめ続けろということなのだろうか。
「あの踏切で見つめ続けなさい。逃げようとしても無駄だ。逃げたところでお前は何も変わらないし。逃げられない。では、以上だ」
そうして、私は閻魔様の部屋を出た。
部下が話しかけてきた。
「それでは、お疲れ様でした。案内係についていってください」
前回と同じ案内人が笑顔で現れ、明るく言った。
「さあ旦那、行きますよ」
私は案内人について行った。
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